
プレ男美人に「夫になって」ってさそわれて、お城みたいな家につれていかれるの?うらやましい!

メル美うまい話には、ウラがあるんだよ…。小泉八雲の「忠五郎のはなし」を読んでみて。
今回は、小泉八雲『骨董(Kotto)』の「忠五郎のはなし(THE STORY OF CHŪGORŌ)」です。英語の原文(1903年のマクミラン社版)をプロジェクト・グーテンベルクで、日本語訳(田部隆次訳)を青空文庫で読みました。人名・地名は田部隆次訳の漢字を使い、読み(ちゅうごろうのはなし)は青空文庫の図書カードによります。
あらすじ1:毎晩いなくなる足軽
- むかし、江戸小石川に、鈴木という旗本がいて、屋敷は江戸川の岸、中の橋の近くにありました。その家来に、忠五郎という足軽(八雲の注:いちばん下の身分の武家の家来)がいました。顔立ちがよく、愛想がよく、かしこい若者で、仲間にも好かれていました
- ところが仲間たちは、忠五郎が毎晩、庭からぬけだして、明け方少し前まで帰らないことに気づきます。はじめは恋でもしているのだろうと何も言いませんでしたが、忠五郎は青ざめて弱っていきました
- 年配の同僚が、わけを話さなければ上役に知らせる、と問いつめると、忠五郎は庭に出て、「秘密を守ってほしい。人に話されたら、大きな不幸があるかもしれない」と打ち明けはじめました
あらすじ2:川のほとりの女
- 5か月ほど前の春のはじめ、親をたずねた帰り道、屋敷の門の近くの川のほとりに、身分の高そうな美しい女が、ひとりで立っていました
- 女は忠五郎の袖をひいて、「橋までいっしょに歩いてくださいませんか。お話ししたいことがあるの」。そして、何度も屋敷を出入りする忠五郎を見て、好きになった、「あなたを夫にしたい」と言います
- 橋の近くまで来ると、女は忠五郎を川のふちまでつれていき、「いっしょに入りましょう」と水の中へひっぱります。こわくなって引き返そうとしても、女に手首をつかまれると、夢の中で走ろうとしても動けない人のように、力がぬけてしまいました
- 気がつくと、忠五郎は、女といっしょに、光にあふれた大きな御殿の中を歩いていました。ぬれてもいないし、寒くもありません。千畳もある広間で、女は「ここがわたしの家。ここでわたしと、しあわせになれますか」とたずね、忠五郎は心から「ええ」と答えます
- 忠五郎は浦島の話を思い出し、女は神の娘かもしれないと思いました。その夜、二人は結婚のお祝いの宴をかわしたのです

プレ男水の中の御殿って、まさに浦島太郎だ!
あらすじ3:「だれにも話さないで」
- 朝早く、女は言いました。「あなたはもう、わたしの夫です。でも、わけは言えないけれど、この結婚は秘密にしなければなりません。夜明けまでここにいたら、二人とも命がない。今夜も、これから毎晩も、はじめて会った時刻に、橋のところで待っていて」「なによりも、この結婚は秘密。人に話したら、もう二度と会えなくなるでしょう」
- 忠五郎は、浦島の運命を思い出して、何でも言うとおりにすると約束しました。それから毎晩、橋で女に会い、水の底の御殿へ通っていたのです
- 「今夜も、きっと待っている。がっかりさせるくらいなら、死んだほうがいい。だから行く」——忠五郎はそう言って、出かけていきました
約束をやぶった夜
- 年配の足軽は、これは悪い力のしわざかもしれないと心配しましたが、「だれにも言わない。でも、気をつけるんだぞ」とだけ言って送りだします
- 数時間後、忠五郎はひどく落ちこんでもどってきました。「いなかった。はじめて、いなかった。もう二度と会えないと思う。あなたに話したのがいけなかった。約束をやぶったのは、ばかだった」
- 忠五郎は横になったまま、頭から足までふるえていました。夜明けの鐘が鳴ると、起きあがろうとして、たおれます。よばれた漢方医は、診察しておどろきました。「この人には血がない。血管の中には、水しかない」
- 手をつくしましたが、忠五郎は日暮れに亡くなりました
女の正体
- 同僚から話を聞いた医者は言いました。「それなら、どんな力でも助けられなかった。あの女に命をとられたのは、この人がはじめてではない」
- 「狐ですか」「いや、昔からこの川に出るのです。若い人の血が好きなのです」「蛇ですか、龍ですか」「いや、いや。昼にあの橋の下で見たら、じつにいやな生きものに見えるでしょう」
- 「ただの蟇さ。大きな、みにくい蟇さ」

メル美「秘密にして」「だれにも言わないで」っていう恋は、いまでも気をつけたほうがいいかもね。
正体の生きものは、英語の原文では「Frog」、田部隆次訳では「蟇」です。

小泉八雲の「忠五郎のはなし」では、約束をやぶった夜から忠五郎は弱り、医者は「この人の血管の中には水しかない」とおどろきました。
まとめ
- 「忠五郎のはなし」は、小泉八雲『骨董』の一編
- 江戸小石川の旗本の足軽忠五郎は、川のほとりで美しい女にさそわれ、水の底の御殿で夫婦の約束をかわした
- 「だれにも話してはいけない」という約束をやぶると、女はあらわれなくなった
- 忠五郎は「血管に水しかない」すがたで亡くなる
- 女の正体は、昔から川にいて、若い人の血を好む大きな蟇だった
- 『骨董』の話はおかめのはなし、雉子のはなし、夜ごと会いに来る恋人の話は牡丹燈籠もどうぞ
参考文献
- Lafcadio Hearn. Kotto: Being Japanese Curios, with Sundry Cobwebs(New York: The Macmillan Company, 1903). “The Story of Chūgorō”. Project Gutenberg. https://www.gutenberg.org/ebooks/55473 (閲覧日:2026年10月10日)
- 小泉八雲(田部隆次訳). 忠五郎のはなし(底本:『小泉八雲全集第八卷 家庭版』第一書房). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000258/card59430.html (閲覧日:2026年10月10日)
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。 気になる症状や不安がある場合は、医療機関にご相談ください。