幽々奇譚A Nocturnal Field Guide

YōkaiNo.186

日本の妖怪人魂(ひとだま)夜空をすっと横切る火の玉。『万葉集』にも「人魂のさ青なる君」と詠まれた。明治の横浜と長崎の「人魂騒ぎ」の正体はガラスに映ったランプの光、昭和の寺田寅彦は「目の錯覚では」と考えた

人魂は、人の魂が火の玉になって空を飛ぶとされるものです。井上円了は『迷信と宗教』で『万葉集』巻16の「人魂」の歌を引き、『おばけの正体』では、毎晩千人もの見物人が集まった横浜の人魂騒ぎや、長崎の火の玉騒ぎの正体が、ガラスに映ったランプや軒灯の光だったことを記録しました。物理学者の寺田寅彦は「人魂の一つの場合」で、自分の子どもたちが見た火の玉を調べ、目の錯覚の可能性を考えています。青空文庫の本文で紹介します。

2026年10月22日

目次
  1. プロフィール(井上円了・寺田寅彦の本より)
  2. 『万葉集』の「人魂」
  3. 明治の横浜、毎晩千人の「人魂騒ぎ」
  4. 長崎の「火の玉騒ぎ」
  5. 寺田寅彦が調べた「火の玉」
  6. この妖怪の読みどころ
  7. まとめ

メル美人魂って、お墓の上をふわふわ飛ぶ青い火の玉だよね。子どものころ、すごくこわかった。

プレ男明治には、人魂を見に毎晩千人も集まった騒ぎがあったらしいよ。

日本の妖怪、今回は人魂(ひとだま)です。妖怪を研究した井上円了の『迷信と宗教』(序は大正5年)と『おばけの正体』(緒言は大正3年)、物理学者・寺田寅彦の随筆「人魂の一つの場合」(昭和8年)を、青空文庫の本文で読みました。

プロフィール(井上円了・寺田寅彦の本より)

名前 人魂(ひとだま)、火の玉
姿 空中を飛ぶひとかたまりの火
言い伝え 人の霊魂が火になってあらわれる。円了は、世間でいう人魂は生霊・死霊と同じものとされている、と書く
古い記録 『万葉集』巻16の「物をおそるる歌」に「人魂のさ青なる君」
円了の見立て 空を飛ぶ怪火を見て人魂と呼ぶのは思いこみ。騒ぎの正体はガラスに映った灯の光
寺田の見立て 暗さになれた目が、光の帯を「動く火」と感じる錯覚かもしれない

『万葉集』の「人魂」

明治の横浜、毎晩千人の「人魂騒ぎ」

メル美うわさだけで千人……。一番こわいのは、人魂より、うわさで集まる人のほうかも。

長崎の「火の玉騒ぎ」

寺田寅彦が調べた「火の玉」

井上円了が記録した横浜と長崎の人魂騒ぎは、どちらもガラスに映った灯の光が正体でした。寺田寅彦は、子どもたちが見た火の玉を調べ、暗さになれた目の錯覚の可能性を考えたうえで、結局なんだかわからないと正直に書いています。

この妖怪の読みどころ

まとめ


参考文献

  1. 井上円了. 迷信と宗教「第六二段 付録」の第一〇節(生霊、死霊、人魂、魂魄、遊魂の解)・第一二節(幽霊の説). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/001021/card49374.html (閲覧日:2026年10月22日)
  2. 井上円了. おばけの正体「第一〇項 横浜の人魂騒ぎ」「第一一項 長崎の火の玉騒ぎ」. 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/001021/card49355.html (閲覧日:2026年10月22日)
  3. 寺田寅彦. 人魂の一つの場合(昭和8年11月、帝国大学新聞). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000042/card2360.html (閲覧日:2026年10月22日)

この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。 気になる症状や不安がある場合は、医療機関にご相談ください。

Further Reading次に読む

  1. 妖怪狐火(きつねび)火のあるはずのない夜の野に、ぽうっと灯る火。狐が人の骨をくわえて息を吐くと火になる?——明治の妖怪学者・井上円了は「はなはだ疑わしい」。箱根の夜道で円了自身が見た「怪火」の正体は、マッチを擦る電報の配達人だった
  2. 妖怪不知火(しらぬい)夏の終わりの真夜中、八代海の沖に、だれがともしたのかわからない火が並んで明滅する。明治・大正の井上円了は「潮の打ち合う光」と考え、令和の高校生は「空気のレンズ」で光が曲がる蜃気楼の一種と観測した
  3. 妖怪海坊主(うみぼうず)霧の夜の九十九里の沖にあらわれた大入道は、歩けば歩き、止まれば止まり、手をあげれば手をあげた——井上円了が記録した正体は「霧にうつった自分の影」。泉鏡花が語った房州の黒い坊主、漁師が見た「顔の長さ四尺」の海坊主も