
メル美今回は、碁の好きなお坊さんの怪談。

プレ男碁を打ちに来るだけなら、いい人そうだけどなあ。
今回は、田中貢太郎の怪談「竈の中の顔」(かまどのなかのかお)です。青空文庫の本文(底本:学研M文庫『伝奇ノ匣6 田中貢太郎日本怪談事典』、底本の親本:改造社『日本怪談全集』1934年)で読みました。本文中の「」の言葉は、青空文庫の本文からの引用です。
※この作品には、子どもが亡くなる場面が出てきます。
箱根の湯治場の碁
- 江戸の侍・相場三左衛門は、箱根の山中の温泉宿に来て20日あまり。ひまつぶしに、碁の好きな宿の主人の相手をしています。主人は「下手の横好き」で、四目も五目も置かなければならないほど
- 初夏の明るい日、開けはなした障子の外の山道に、人とも鳥ともつかない影がうつります。縁側に立っていたのは、色の蒼白い痩せた僧。黒い破れた法衣に菅笠で、「ちょっと覗かしてもらいます、私もいたって碁が好きでな」
- 畳にあがるようすすめても、僧は「私は、石の上や板の上に慣れておる」と、縁側の板の上に坐ります
先手が勝ち、後手が負ける
- 打ってみると、三左衛門と僧はまったくの互角。先手が勝ち、後手が負ける。どちらも二目の差で、三左衛門は「面白くてたまらなかった」
- 僧は「この山の上に庵を結んでおります」と言い、夕日の中を「鳥の飛ぶように」坂を登っていきました
- 主人はあんな坊さんがいたとは気づかなかったと言い、こんな噂も話します。この山には怪しい坊さんがいて、その坊さんのことを人に話すと命をとられる、という。けれども、だれが命をとられたとも、その坊さんを見たとも聞かない
- 僧はそれから毎日のように来ます。三左衛門が庵をたずねたいと言うと、僧は「狼や狐のおる処」で「とても人の来る処じゃない」と、はっきり断りました
山の上の庵
- 10日ほどたったある日、僧が来ません。三左衛門は、江戸から連れてきた若党の源吉と、ながめのいい場所を探しに山へ入ります
- 杉や檜の林をぬけ、谷川のむこうの高いところ、黒い木の枝をかぶった岩の下に、小さな小屋。たずねると、顔を出したのはあの僧でした。「あれほどお断りしてあったのに、来られたならしかたがない」——いやな顔をしながら、中へ入れてくれます
- 庵の中は藁敷きで、正面に扉をしめた仏間。左側に竈が2つ、茶釜と鍋がかけてありました
竈の下の顔、仏壇の中のもの
- 竈の前で向かいあって坐ったとき、茶釜の下の竈の下から、人間の顔がすうと出てきました。色の蒼ざめた、恐ろしい顔。僧がにらむと、顔は消えるように引っこみます
- 僧は「木をきらした」と、枝をとりに出ていきました。三左衛門は刀を引きよせ、早く帰ろうと考えます。ただ、逃げるように帰るのは武士の恥。布施を置いてから帰ろうと、仏壇に入れておくことにしました
- 若党が仏壇の扉をあけると、飛びのいて言います。「首がございます、生首が」。目のぎらぎら光る三面六臂の奇怪な仏像の前に、男髷の首がすえてありました
- 三左衛門は、その仏像と首のあいだに布施の包みを置き、扉をしめて元の場所へ。何くわぬ顔で待ちます
- もどってきた僧が枝を竈にくべると、また顔がにゅうと出て、僧がこぶしをふりあげると引っこむ。僧は茶をいれ、三左衛門と若党に出しますが、二人とも飲むふりをして捨て、山をおりました

プレ男竈の下から顔、仏壇には首…!それでも布施を置いて帰る三左衛門、肝がすわりすぎ!
「それを云ってはなりません」
- 宿に帰った三左衛門が、主人に「あの庵へ通りかかって、たいへんなものを見たぞ」と言いかけると、主人は手をあげておさえるようにしました
- 「それを云ってはなりません、それが恐ろしい坊主じゃ、それをあなたが人に話すと、生命がありません」。顔の色を変え、声をふるわせて、今夜のうちにそっと宿を出て江戸へ帰るようすすめます
- 三左衛門は、わけはわからないながら、不思議なものを見たのは確か。支払いもそこそこに、日の暮れた山をおりました
江戸への帰り道
- 麓に1泊、藤沢あたりに1泊。その翌日、金沢まで帰ってくると、宿の入口に江戸の屋敷の家臣が2、3人待っていました
- 「俺が帰ることをどうして知った」と聞くと、きのう40歳くらいのお坊さんが屋敷へ来て、旦那さまは箱根から急に帰る、明日は屋敷にもどる、と知らせていったという。「黒い破れた法衣を着たお坊様でございます」
- 三左衛門は、もう何も言いませんでした
- 夜、江戸の屋敷に着くと、親類や友人たちが帰国の祝いに集まっていました。そのとき、三左衛門がかわいがっていた4歳の末の男の子が縁側で大きな声をあげ、三左衛門がかけつけると、その子は首のない姿で倒れていた——物語は、ここで終わります

メル美僧が江戸まで先回りしていたなんて…。最後の場面は、言葉が出ない。
読みどころ
- のどかな前半と、急に冷える後半:初夏の湯治場、碁石の音、互角の好敵手。前半がおだやかなぶん、庵の中のできごとと結末の重さがきわだちます
- 説明しない怪異:僧の正体、竈の下の顔がだれなのか、仏壇の首はだれのものか。作中では何も明かされません。宿の主人はただ「云ってはなりません」とくりかえし、三左衛門にも、主人の言うことは「はっきり判らない」ままです
- 先回りする僧:三左衛門が江戸へ急いだのに、僧はその前に屋敷へ知らせに来ていた。逃げきれなかったことを、ひとことも説明せずに伝える結末です

宿の主人は、怪しい坊さんの噂について「べつに何人が生命を奪られたと云う者もなければ、そのお坊さんを見たと云う者もない」と語っていました。物語は、僧の正体を最後まで明かしていません。
まとめ
- 「竈の中の顔」は田中貢太郎の怪談。底本の親本は改造社『日本怪談全集』(1934年)
- 箱根の湯治場で、毎日碁を打ちにくる痩せた旅の僧。先手が勝ち後手が負ける、互角の相手
- 来るなと言われた山の庵で、竈の下から出る蒼ざめた顔、仏壇の三面六臂の像と首
- 宿の主人は「それを人に話すと、生命がありません」。江戸へ急ぐ三左衛門より先に、僧は屋敷に来ていた
- 貢太郎の死人の手、岩魚の怪、狼の怪もどうぞ
参考文献
- 田中貢太郎. 竈の中の顔(底本:『伝奇ノ匣6 田中貢太郎日本怪談事典』学研M文庫、学習研究社、2003年。底本の親本:『日本怪談全集』改造社、1934年). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000154/card45624.html (閲覧日:2026年10月22日)
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