
プレ男山の谷川に、お坊さんがひとりで来るって、ちょっとあやしいね。

メル美そのお坊さんの、ごはんの食べ方が変だったんだって。読んでみよう。
今回は、田中貢太郎の怪談「岩魚の怪」(いわなのかい)です。青空文庫の本文(底本:学研M文庫『伝奇ノ匣6 田中貢太郎日本怪談事典』、底本の親本:改造社『日本怪談全集』1934年)で読みました。本文中の「」の言葉は、青空文庫の本文からの引用です。
毒流しの支度
- 舞台は、木曽の御嶽につづく山のあいだ。小さな谷川の両側に山がせまり、岩の上には石南花の真紅の花が咲いていました
- 下の村から登ってきた七人ばかりの男たちは、朝から山椒の木の皮をはぎ、樒の実や蓼といっしょにつぶして、毒流しの材料をつくっていました。谷川の淵に毒を流して、魚をとるのです
- 昼になり、男たちは平らな岩の上で車座になって、黒い黍団子を食べながら、「でっかい山女がいるぞ」「ここには、岩魚が多いよ」と話していました
※いまの日本では、水産資源保護法6条により、水産動植物をまひさせたり死なせたりする有毒物を使ってとることは禁じられています(調査研究のため農林水産大臣の許可を受ける場合をのぞく)。
白い法衣の僧
- いつのまにか、そばに白い法衣の僧が立っていました。菅笠をかぶり、竹杖をついています
- 僧は、毒流しに来たと聞くと言いました。釣る魚なら、餌に心がまよったものだからまだよいが、「毒流しは、罪咎のないものまで、いっしょに根だやしにすることになるから、それは好くないことじゃ」
- 「殺生はやめるが好い、魚の生命も、お前さん達人間の生命も、おんなしじゃ」
僧の食べ方
- 男たちは、僧にも団子をすすめます。僧は団子を三つばかりとって、そのひとつを「もくりと口に入れて一息にのみくだした」。あとの団子も、同じようにのみくだしました
- 飯をすすめられると、僧はひと箸口に入れては、仰向いて咽喉をうねらして、いかにも食べにくそうに食べます
- 食後、谷へおりて水を飲むとき、僧は岩のはしで仰向き、口を流れにひたしていました
- 去りぎわ、「どうぞ殺生しないようにな」とくりかえす僧の眼には、うすい藍色の光がふるえていた、と物語は書いています

プレ男ひと息でのみこむ、仰向いて喉をうねらせる、口を水にひたす…。なんだか、魚みたいだ。
毒流しの決行
- 僧が去ると、男たちは相談をはじめます。お坊さんの言うことだ、やめようかという者もいましたが、顎髯の男は「お前たちが厭なら、俺は一人でもやる」
- 男たちは毒流しを決行し、淵ごとに皮粕を入れて、浮いてくる山女や岩魚をすくっていきました
- 日がかたむいて谷が陰になったころ、ひときわ大きな淵に出ます。皮粕をたくさん入れ、水をかきまわすと——
- 急にあたりが暗くなり、大粒の雨がふりだします。淵の水が動きだし、白い大きな藍色の魚の背が見えてきた。「人間の大人ほどある鬼魅悪い大きな岩魚」が、白い腹をかえして浮かんだのです。頭から尻尾までが五尺ばかりもありました
大岩魚の腹から
- その夜、男たちは大岩魚を肴に慰労の宴をひらくことにします。庖丁を持ったのは、顎髯の男でした。「あの坊主の云うとおりになって、やめておったら、こんな魚が拝めるけい」
- 腹に庖丁を入れ、腸を引きだすと、そのなかからころころと出たものがありました
- それは、今日の昼飯に、あの僧にも分けた三個の黍団子でした。顎髯の男は、うんと言ってうしろに倒れ、気を失いました

メル美あのお坊さんは、淵の主の岩魚だったんだ…。「殺生はやめるが好い」って、自分の命のことでもあったんだね。

田中貢太郎の「岩魚の怪」で、毒流しで浮かんだ大岩魚の腹から出てきたのは、昼に僧に分けた三個の黍団子でした。僧は「殺生はやめるが好い」と、男たちを止めていました。
まとめ
- 「岩魚の怪」は田中貢太郎の怪談
- 木曽の御嶽につづく谷川で、毒流しの支度をする村の男たち
- 白い法衣の僧が「殺生はやめるが好い」と止める
- 団子をひと息にのみくだし、喉をうねらせて飯を食べ、口を流れにひたして水を飲む僧
- 毒流しで浮かんだ、人間の大人ほどの大岩魚。その腹から、僧に分けた三個の黍団子
- 田中貢太郎の死人の手、おいてけ堀、同じ御嶽が舞台の岡本綺堂木曽の旅人もどうぞ
参考文献
- 田中貢太郎. 岩魚の怪(底本:『伝奇ノ匣6 田中貢太郎日本怪談事典』学研M文庫). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000154/card45572.html (閲覧日:2026年10月12日)
- 水産資源保護法(昭和26年法律第313号)第6条. e-Gov法令検索. https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000313 (閲覧日:2026年10月12日)
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