※この作品には、自分の体を傷つけたことをうかがわせる場面が出てきます。

メル美鰻を生きたまま食べる人を見ちゃったら…。しかも、その人と結婚することになったら…。

プレ男それは忘れられないよね…。どうなっちゃうんだろう。
今回は、岡本綺堂の怪談「鰻に呪われた男」(うなぎにのろわれたおとこ)です。青空文庫の本文で読みました。初出は1931年(昭和6年)10月の「オール讀物」です。本文中の「」の言葉は、青空文庫の本文からの引用です。
温泉場の田宮夫人
- 語り手の「私」は、5月、Uの温泉場の宿に3週間ほど滞在していました。同じ宿の長いなじみ客が、田宮夫人。37年つづけて、毎年この温泉に来ている、上品な56、7歳の婦人です
- 夫人は、20歳の春に結婚してまもなく、夫と別れ、それから30年あまりを独身で暮らしてきました。夫は結婚の1週間後に行くえ不明になったらしい、と甥は言っていました
- 帰る前日の夕方、川の山女や鰻の話をしていると、夫人の顔色が少し動きます。そして、肉親の甥にすら話さなかった昔話を、「私」に語りはじめました
明治27年、川の釣り人
- 夫人が女学校を出た19歳の年、明治27年。日清戦争で負傷した知人の松島さんが、この温泉で療養していたので、親戚につれられて見舞いに来ました
- 川で釣りをしていた松島さんのそばに、もうひとりの男がいました。夫人が何気なく川のほうを見ると、その男は、蛇のような長い魚——おそらく鰻——を釣りあげ、あたりを見かえって、「たちまちに生きたままでむしゃむしゃと食べてしまった」のです
- それを見たのは夫人だけでした。夫人は、なぜかそのことをだれにも話しませんでした
縁談と、鰻の夢
- ひと月ほどあと、その男——松島さんと同じく負傷した少尉の浅井秋夫——が、お礼に夫人の家をたずねてきます。父はしっかりした人物だと言い、母は人品のいい人だとほめました
- やがて、浅井さんが夫人と結婚したい、という縁談が来ます。夫人も、すぐにも承知したいくらいでした
- その晩、夫人はこわい夢を見ます。夫人は鰻になって、大きな爼板の上に横たわっている。印半纏を着た片眼の職人が、針か錐のようなもので眼を刺そうとしている。「浅井さん、助けてください」とさけぶと、浅井さんは返事もせず、夫人をつかんで自分の口に入れようとした——
- 朝になると、不安は消えました。翌年の4月、二人は結婚します

プレ男夢の「片眼の職人」って、なんだか気になる…。
「生きたままで……」
- 新婚旅行に選んだのは、思い出のUの温泉場でした。3日目の午後、川で魚をとる人をながめながら、夫は「山女と鰻ぐらいのものだ」と言います
- 鰻——その言葉に、夫人は思わず口をすべらせます。「一ぴきぐらいは食べたでしょう」「いいえ、食べたでしょう。生きたままで……」
- 夫は「冗談いっちゃいけない」と笑いましたが、その眼が異様に光ったのを、夫人は見のがしませんでした。悪いことを言った、と夫人はすぐに気づきます
- 夕方、夫人が湯から戻ると、夫の姿はありませんでした。ステッキを持って、ふらりと散歩に出たというのです。宿の人が提灯で川の上下をさがし、東京から父や夫の兄もかけつけましたが、夫は見つかりませんでした
千住の鰻屋の片眼の職人
- 夫人は、離縁をすすめられてもことわり、待ちつづけました。そして2年あまりたった秋、松島さんがかけこんできます
- 北千住の通りの鰻屋の店先で、印半纏を着て鰻を割いている職人が、秋夫だった。左の眼は潰れていたが、右の耳の下の小さな傷がたしかな証拠だ、と
- 夫人と松島さんがすぐにかけつけると、その職人は、近所の湯屋へ行ったまま戻ってきませんでした
- 半年後、松島さんのもとに秋夫の筆跡の手紙がとどきます。「自分は奇怪な因縁で鰻に呪われている」。決してゆくえを探してくれるな。真佐子さん(夫人の名)は新しい夫を迎えて幸福に暮らしてくれ——住所は書かれていませんでした

メル美夢で見た「片眼の職人」に、夫のほうがなってしまったんだ…。
夫人の考え
- 秋夫の兄によれば、秋夫は6、7歳のころ、近所の鰻屋の樽から小さな鰻をつかみだして逃げ、叱られたことがあったといいます
- 夫人は、のちに専門家にもたずね、こう考えるようになりました。夫は、子どものころから生きた鰻を食べずにいられない癖をかかえて、人に知られないように苦しんでいたのではないか。その秘密を新婚の妻に知られたと気づいて、ひどくおどろき、恥じて、姿を消したのではないか。片眼をつぶしたのも、人相を変えるためだったのではないか——
- ※これは物語のなかの夫人の推測で、医学的な説明ではありません
- 夫人は言います。そう考えれば、怪談でも奇談でもない。けれど、ただひとつ、縁談を受けたその夜に、片眼の職人の夢を見たことだけは、いまでもふしぎでならない、と
鰻を食べる夫人
- その後、鰻は食べないのかとたずねられると、夫人は答えます。「いえ、喜んで頂きます」
- 片眼の夫がどこかにいて、この鰻もその人の手で割かれ、焼かれたのではないか。「こう思うと、なんだか懐かしいような気がいたしまして」

岡本綺堂の「鰻に呪われた男」で、田宮夫人は、夫が姿を消したわけを自分なりに考えたうえで、縁談の夜に片眼の職人の夢を見たことだけは、いまでもふしぎに感じると語っています。
まとめ
- 「鰻に呪われた男」は岡本綺堂の怪談。初出は1931年10月の「オール讀物」
- 明治27年、Uの温泉場の川で、釣りあげた鰻を生きたまま食べた男・浅井秋夫
- 縁談の夜、片眼の職人に割かれそうになる夢
- 新婚旅行で「生きたままで……」と言った日、夫は消えた
- 2年あまり後、千住の鰻屋に片眼の職人。「自分は奇怪な因縁で鰻に呪われている」
- 夫人は待ちつづけ、いまは鰻を「喜んで頂きます」
- 岡本綺堂の麻畑の一夜、白髪鬼、木曽の旅人もどうぞ
参考文献
- 岡本綺堂. 鰻に呪われた男. 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card45480.html (閲覧日:2026年10月12日)
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