目次

プレ男のっぺらぼうの話で、正体は「ムジナ」だったよね。ムジナって、狸のこと?

メル美同じだって聞いたこともあるし、ちがうって聞いたこともある…。どっちなんだろう。
こんにちは、Dr. Taro です。 日本の妖怪、今回は人を化かす獣、狸(たぬき)とムジナです。民俗学者の柳田國男が、昭和23年(1948年)に『上毛の民俗』に書いた短い文章「狸とムジナ」(青空文庫)を、順に読んでいきます。
プロフィール(柳田國男「狸とムジナ」より)
| 名前 | タヌキ(狸)、ムジナ、ムジ、マミなど。土地によって呼び名がちがう |
| 本物の狸のしるし | 頭から背にかけての毛の模様が、頭で「八」の字、背で「十」の字に見える(越後の話) |
| ムジナに入っていたもの | 本物の狸と、穴熊(アナグマ)。土地によってどちらも「ムジナ」 |
| 化かす話 | 柳田の郷里の播州では、狸は「よく人を騙し」、ムジナも「油断のならぬ夜の獣」 |
| 柳田の結論 | 「中部のタヌキは関東のムジナ」 |
船の上の「狸とムジナはどこがちがう?」
- 話は、柳田が文士たちと北海道へ船旅をしたときから始まります。「狸とムジナとはどこがちがいますか」と、いきなり聞かれたのです
- 柳田はとっさに、こう答えました。狸は尻尾が太く、ムジナは細い。狸の毛は筆になるが、ムジナの毛はならない。狸は木に登れないが、ムジナは木登りをして小柿をよく食う
- ところが旅から帰ると、雑誌『動物文学』に、研究者の平岩米吉が「狸とムジナは同じ動物の2つの名だ」と言いきる文章をのせていました。2つの意見は「対決しなければならぬ」ことになった、と柳田は書きます

メル美柳田先生は「ちがう」、平岩さんは「同じ」。まっぷたつだね。
「ムジナならいいだろう」の裁判
- 柳田は、約20年前に栃木県であった裁判のことを思い出しています。県令で「狸を捕った者は罰する」と決められていたのに、「ムジナならよかろう」と打った人が告発された、という事件です
- 柳田の記憶では、判決は結局無罪でした。その地方には「タヌキ」という言葉がなく、「狸」の字は知っていても、それが土地で「ムジナ」と呼ぶ獣のことだとは、誰からも教えられていなかったからだ、といいます
- 柳田は、禁止するなら「ムジナ」と書くか、「狸すなわちここでいうムジナ」とはっきり書くべきだった、落ち度は法律を作った側にあった、と書いています
関東には「タヌキ」という言葉がなかった
- 柳田によると、東日本はもともと一帯に、タヌキという語のない地方だったらしい。そのため、姿や習性の似た2種類以上の獣を、まとめて「ムジナ」と呼ぶ人が関東などには多かった
- 柳田自身も、少年のころ、利根川沿いの丘の村で3、4日だけ「ムジナ」を飼ったことがあります。それは「まちがいなく、絵にある通りの狸」だったそうです
- 群馬県の利根郡では、ムジナに2種類あるといいます。ササムジと、本ムジ。本ムジは「十字ムジ」ともいい、背中に十文字の模様がある。柳田は、こちらがたぶん本物の狸だろうと見ています
越後の「ヤチムジ」と「マミムジ」
- 新潟県の弥彦山の裏、海に面した間瀬(ませ)という村の話はくわしく書かれています。ここにも「タヌキ」という語はなく、ふつうは「ムジ」
- ムジには2種類あります。ヤチムジはほかの地方でいう狸、マミムジは穴熊(ササクマ、徳島の山村などでいうクマダヌキ)のこと
- 見た目は似ていても、まったくの別種。いちばんちがうのは後ろ足の指で、ヤチムジは4本並び1本が上のほうについているのに対し、マミムジは5本がそろって長く、猿に似ている。そのためかマミムジは穴を掘るのが速く、木にもよく登る。ヤチムジは穴掘りが下手で、木登りはしない
- ヤチムジは「十文字」「八モジ」ともいいます。頭から背にかけての毛の模様が、頭で八の字、背で十の字に見えるからです

河鍋暁斎「水に映る自分の姿を見る狸」19世紀後半。掛軸、絹本墨画。メトロポリタン美術館所蔵(パブリックドメイン)
「狸」の字も、じつはあやしい
- 柳田は、目で覚えた言葉、文字で覚えた名前は信用がおけないと書きます。「狸」という漢字は、中国ではネコのことだという人さえある、と
- 関東・奥羽には「狸森」と書いて「ムジナモリ」と読む集落がいくつもあり、東京の麻布の「狸穴」は「マミアナ」と読みます
- だからといって、2つの獣が同じものになるわけではない。「名は実の賓(ひん)」(名前は中身のお客にすぎない)と、柳田は書いています

プレ男麻布の狸穴(まみあな)って、そういうことだったのか!
化かすのは、どっち?
- 柳田が生まれた播州(兵庫県)の中部では、「狸とムジナは同じものだ」と言ったら子どもでも笑うほどだったそうです。ただ、実際にどちらも見たことがある人はもう少なかった
- その播州でも、狸はよく人を騙し、ときには人に憑くと言われていました。ムジナも油断のならぬ夜の獣と見られていたけれど、関東のように人をばかす話は聞かない。大きな酒蔵の奥にいて「ゆうべも酒造りの歌のまねをしていた」という話をよく聞いた、と柳田は書いています
- 小泉八雲の「貉(むじな)」で、赤坂の紀国坂の人を化かしたのは「ムジナ」でした。八雲の怪談「常識」で普賢菩薩に化けていた動物は、田部隆次の訳では「狸」、英語の原文では「badger(アナグマ)」。ここにも、狸と穴熊の名前のずれが顔を出しています
柳田の結論:「中部のタヌキは関東のムジナ」
- 柳田のまとめはこうです。「難波の葦は伊勢の浜荻」(同じものが土地によってちがう名で呼ばれる)と言うように、中部のタヌキは関東のムジナなのであって、「タヌキ、またの名をムジナ」だったのではない
- つまり、関東で「ムジナ」と呼ばれていた獣のなかには本物の狸もいたので、平岩説も関東では「誤っているとまでは言えない」。けれど「ムジナはすべて狸」と言おうとすると、ムジナと呼ばれてきた穴熊の居場所がなくなってしまう
- そして、これからの国語教育への提案として、「タヌキ」は動物学でも認められた標準語なのでそちらを使い、ムジナは行く先々で指すものがちがうので、「ここでいうムジナのこと」と付け加えるのがよい、と書いています
- 最後の一文は「無知は何としてでも次々に知にしなければならない」

柳田國男は「狸とムジナ」で、ムジナという名が土地によって狸を指したり穴熊を指したりすることを各地の例で示し、「中部のタヌキは関東のムジナ」とまとめました。
まとめ
- 「狸とムジナは同じか?」に、柳田國男は各地の呼び名を比べて答えた(「狸とムジナ」1948年)
- 東日本はもともとタヌキという語のない地方。似た獣をまとめてムジナと呼んでいた
- 越後の間瀬では、ヤチムジ=狸(背に八の字・十の字)、マミムジ=穴熊(指が5本そろい、木に登り穴を掘る)
- 栃木の「ムジナならいいだろう」の裁判は、柳田の記憶では無罪。落ち度は法律の書き方にあった
- 結論は「中部のタヌキは関東のムジナ」。ムジナには穴熊も入っていた
- 人を化かす狸の話は、田中貢太郎の「狐と狸」もどうぞ
参考文献
- 柳田国男. 狸とムジナ(底本:柳田國男全集 24、ちくま文庫、筑摩書房、1990年。初出:上毛の民俗、煥乎堂、1948年8月1日). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/001566/card58036.html (閲覧日:2026年10月22日)
- The Metropolitan Museum of Art. Kawanabe Kyōsai, Tanuki (Racoon Dog) Viewing Its Reflection in Water, late 19th century(36.100.44、Open Access/パブリックドメイン). https://www.metmuseum.org/art/collection/search/55378 (閲覧日:2026年10月22日)
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。 気になる症状や不安がある場合は、医療機関にご相談ください。
