
メル美姫路城の天守のいちばん上に、神社があるって知ってた?

プレ男えっ、お城の中に?しかも天守の上に住んでるお姫さまの妖怪のお芝居もあるんだって?
こんにちは、Dr. Taro です。 日本の妖怪、今回は姫路城の天守が舞台の妖怪たちです。泉鏡花の戯曲『天守物語』(大正6年・1917年9月)を、青空文庫の本文で紹介します。
※作品には、生首が出てくる場面や、刀で斬り合う場面があります。この記事では、くわしい描写はさけて紹介します。
姫路城の天守にある「長壁神社」
- 観光庁の「地域観光資源の多言語解説文データベース」の、姫路城大天守の六階の解説には「長壁神社」の項目があります
- それによると、姫路城は、もともとそこに祀られていた神社を移して築かれました。その撤去が城主の家族に呪いをもたらしたと信じられ、城主は17世紀初頭に城の敷地内に神社を再建するよう命じました
- そして第二次世界大戦後、神社は再び、今度は天守閣の最上階に移されました
- 人の住まない天守の最上階に、神さまがいる。鏡花の『天守物語』も、人が上がってこない天守の五重に、人ではないものたちが住んでいる、というお話です
『天守物語』の登場人物(妖怪たち)
| 天守夫人・富姫(とみひめ) | 白鷺城の天守の五重の主。見た目は27、8歳 |
| 亀姫(かめひめ) | 岩代国猪苗代(いまの福島県)の「亀の城」の姫。20歳ばかり。富姫を「お姉さま」と慕う |
| 朱の盤坊(しゅのばんぼう) | 亀姫の供頭。大山伏の姿で、頭に犀のような角が1本。会津の十文字ヶ原に住む「奥州変化の先達」と名のる |
| 舌長姥(したながうば) | 亀姫のお供の老婆。その舌で舐めると、鳥獣も人間もとろとろと消えて骨ばかりになる、と朱の盤が言う |
| 侍女たち | 桔梗・女郎花・萩・葛・撫子。富姫に仕える |
| 姫川図書之助(ひめかわずしょのすけ) | 姫路城主・武田播磨守に仕える若い鷹匠。人間 |
| 近江之丞桃六(おうみのじょうももろく) | 天守の獅子頭を彫った工人 |
天守の五重で、秋の日の釣り遊び
- 幕が開くと、天守の五重。侍女たちは、五色の絹糸を巻いた糸枠に金や銀の棹を通し、糸を松や杉の梢にくぐらせて、天守から下界へ「釣り」をしています
- 正面には、金色の眼、白銀の牙、藍色の獅子頭が置かれています
- 富姫は、城主・播磨守が大勢をつれて鷹狩りに出たのを見て、雨を頼みに出かけていた、と話します
猪苗代から、妖怪のお客さま
- そこへ、屋根の棟から階段を下りて、朱の盤坊が「かちかちかちかち」と歯を鳴らしてあらわれます。天守の女の子たちが少しもこわがらないので、「さすがは姫路お天守の、富姫御前の禿たち」と感心します
- 続いて亀姫が、守り刀を持った女の子と舌長姥をつれてやってきます。風に乗ってくれば半日もかからないけれど、宿場を歩けば五百三十里の道のり、と姥は言います
- 亀姫の手みやげは、白い布に包んだ首桶でした。中から出てきたのは、猪苗代の城主の首。侍女の薄(すすき)が「この姫路の城の殿様の顔によく似ている」と言うと、富姫は、2人が血を分けた兄弟だと明かします。首はやがて獅子頭に供えられます

プレ男おみやげが首って…さすが妖怪のお姫さまたち、スケールがちがう。
- 舌長姥は、運ぶ途中でゆれて首が汚れたのを見て「どれどれ掃除して」と膝で進み出ます。「近ごろは歯が悪うて」と言う姥に、朱の盤は「帰り道に舐められないよう」とからかわれ、「わあ、助けてくれ、角が縮まる」と頭をかかえます
- 富姫と亀姫は手まりをついて遊び、朱の盤は侍女たちと酒をくみかわして舞います。こわいけれど、どこかにぎやかで楽しそうな、妖怪たちのお茶会のような場面です
「白い鷹」と、若い鷹匠
- 天守から、鷹狩りから帰ってくる行列が見えます。亀姫が「翼の白い羽の雪のような、いい鷹」を見つけると、富姫は「あの鷹を取って上げましょうね」。白鷹は天守へ飛んできて、富姫の手に止まります
- 亀姫が帰ったあと、夜。殿さまの鷹をさがすよう命じられた鷹匠の姫川図書之助が、階段をのぼって五重にやってきます
- 図書之助は言います。「百年以来、二重三重までは格別、当お天守五重までは、生あるものの参った例はありませぬ」。殿さまの不興をかって閉門中だったのに、ほかに誰も天守に上がろうとしないので、急に呼び出されたのでした
- 富姫は、図書之助のまっすぐな態度にひかれていきます。「真の恋は、心と心」

メル美「力で人を強いるのは播磨守なんぞの事、真の恋は心と心」って、すてきなせりふ。
獅子頭の目と、工人・桃六
- 富姫は、天守に上がった証拠にと、図書之助に兜をわたします。ところがそれは城の宝の兜。下の城では図書之助が「兜を盗んだ逆賊」とされ、討手が天守へ押しよせます
- 富姫は図書之助を獅子頭の母衣(ほろ)の中にかくまいます。討手は「目を狙え」と、獅子頭の両目を斬りつけました。すると、図書之助も、富姫も、侍女たちも、みな目が見えなくなってしまいます。獅子の精霊で生きていたものは、一人も見えなくなったのです
- 「千歳百歳にただ一度、たった一度の恋だのに」。見えなくなった2人が寄りそうところへ、あらわれたのが、獅子頭を彫った工人・近江之丞桃六。「美しい人たち泣くな」と、のみで獅子の両目を彫りなおし、2人の目を開けてやるのでした

『天守物語』の舞台は、播州姫路・白鷺城の天守の五重です。人間は百年来だれも上がってこない場所に、天守夫人・富姫と侍女たちがくらしていて、猪苗代から亀姫が朱の盤坊・舌長姥をつれて遊びに来ます。
この作品の読みどころ
- 人間のほうがこわい:首を手みやげにする妖怪たちより、兜一つで家来を「逆賊」として斬ろうとする城の人間たちのほうが、ずっと冷たく描かれています
- 妖怪たちがかわいい:歯が悪い舌長姥、角が縮まるとあわてる朱の盤坊。こわいのに、どこかユーモラスです
- 鏡花のほかの作品なら、山の中で修行僧が出会う不思議な女の物語、『高野聖』もどうぞ
- 姫路城のもう一つの「こわい話」は、お菊井戸の記事で
まとめ
- 姫路城の大天守の最上階には「長壁神社」がある。もとは城の場所に祀られていた神社で、撤去が城主の家族に呪いをもたらしたと信じられて城内に再建され、戦後に天守の最上階へ(観光庁の解説)
- 泉鏡花『天守物語』(1917年)の舞台は、白鷺城の天守の五重。主は天守夫人・富姫
- 猪苗代から来る亀姫のお供は、角の山伏朱の盤坊と、なんでも舐めとる舌長姥
- 「百年以来、お天守五重までは、生あるものの参った例はありませぬ」。若い鷹匠図書之助と富姫の恋
- 獅子頭の目を斬られて皆が見えなくなり、工人桃六が目を彫りなおす
参考文献
- 泉鏡花. 天守物語(底本:泉鏡花集成7、ちくま文庫、筑摩書房、1995年。底本の親本:鏡花全集 第二十六卷、岩波書店、1942年). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000050/card3065.html (閲覧日:2026年10月22日)
- 観光庁. 地域観光資源の多言語解説文データベース「白く華麗な大天守内の見どころ 六階」(長壁神社). https://www.mlit.go.jp/tagengo-db/R1-00661.html (閲覧日:2026年10月22日)
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