
プレ男「吉備津の釜」って、『雨月物語』でいちばんこわいって聞いたよ。

メル美裏切られた妻の怨霊の話なんだって…。覚悟して読もう。
今回は、上田秋成の『雨月物語』巻之三「吉備津の釜」(きびつのかま)です。青空文庫の「現代語訳 雨月物語」(上田秋成著、鵜月洋訳。底本:角川文庫『改訂 雨月物語 現代語訳付き』)で読みました。本文中の「」の言葉は、この現代語訳からの引用です。
※この話には、人が亡くなる場面や、残酷な結末がえがかれています。
鳴らなかった釜
- 吉備の国賀夜郡庭妹の里の井沢庄太夫には、ひとり息子の正太郎がいました。百姓をきらい、酒におぼれ、色にふける道楽息子です
- 両親は、きりょうのよい娘を嫁にすれば身持ちもよくなるだろうと考え、吉備津神社の神主・香央造酒の娘、磯良(いそら)との縁談をまとめます
- 香央は、娘の幸せを祈って、御釜祓(みかまばらい)の神事を行いました。湯がわきあがるとき、吉なら釜が牛のほえるように大きく鳴り、凶なら鳴らない——これが「吉備津の御釜祓」です
- ところが釜は、「秋の虫がくさむらですだくほどの小さな声さえ出さない」
- 不安に思う香央に、妻は「祝部たちの身がけがれていたからでしょう」と言い、縁談をすすめます。こうして婚礼があげられました
よくつくす妻、だます夫
- 磯良は、朝は早く起き夜は遅く寝て、舅・姑によくつかえ、夫の気持ちをくんで真心をつくしました。二人は仲むつまじく暮らします
- けれど正太郎は、やがて港町・鞆の津の遊女袖となじみ、身請けして近くに住まわせ、家に帰らなくなります。父は怒って正太郎を一室に閉じこめました
- それでも磯良は夫によくつかえ、ひそかに袖のもとへも物をとどけてやっていました
- ある日、正太郎は甘い言葉で言います。「自分が悪かった。あの女とは手を切る。でも都へやる旅費がない。工面してくれないか」
- 磯良は喜んで、自分の着物や道具を売り、実家の母にもうそをついてお金をもらって、夫にわたしました。正太郎はそのお金を手に、袖をつれて家を抜けだしたのです
- 「これほどまでに徹底的にだまされた」磯良は、重い病にたおれ、粥ものどを通らなくなっていきました

メル美ここまでつくした妻をだまして、そのお金で駆け落ち…。ひどすぎる。
袖の死と、墓地の女
- 正太郎と袖は、播磨の国荒井の里で、袖のいとこの彦六の世話で暮らしはじめます
- ところが袖は、風邪気味だと言っているうちにひどくわずらい、「物の怪にでもつかれたように」なって、発病から7日で死んでしまいました。正太郎は、故郷に捨ててきた妻が怨霊になってたたっているのでは、とひとり胸をいためていました
- 毎夕、袖の墓に通う正太郎は、となりの新しい墓に参る女と出会います。女は、亡くなった主人の奥様が嘆きのあまり病にふせっているので、かわりに参っているのだと言いました。奥様は「隣国にまで評判の美人」だと
- 心ひかれた正太郎は、奥様をたずねることにします
屏風の向こうに
- 林の中の小さな茅ぶきの家。奥の部屋に低い屏風が立ててあり、その向こうに奥様がふせっているようでした
- 正太郎が「私も先日いとしい妻に死なれましたので」と声をかけると、女主人は屏風を少し引きあけて、こう言いました
- 「久しぶりでおめにかかるものですね。これまでのひどい仕打ちにたいする報いが、どんなものであるか、思いしらせてあげましょう」
- それは、故郷に捨ててきた妻、磯良でした。顔はひどく青ざめ、どろんとした目つき、こちらを指さす手は青くやせ細っています。正太郎は「ああッ!」とさけんで、気を失いました
- 気がつくと、家だと思ったのは、墓地の中の古い慰霊堂でした
42日間の物忌み
- 祈祷師はこう告げます。「この怨霊は、さきには女の命を奪い、それでも怨みはなお尽きずに、今度はあなたをねらって、あなたの命も今夜か明朝かというところまで迫っているのです」
- 怨霊が世を去ったのは7日前。だから、きょうから42日のあいだ、戸をかたくしめて物忌みをせよ。一時でもいましめを破れば死はのがれられない——
- 祈祷師は、正太郎の背中から手足の先まで古い書体の文字を書き、朱で書いたお札をたくさんあたえました。正太郎は、戸口や窓にお札をはって、こもります
- その夜、真夜中。戸の外から「ああ、憎らしい。ここに尊いお札を貼りつけてあるな」という声。次の夜は、窓の障子にさっと赤い光がさし、「ああ、憎らしい。ここにも貼ってあるな」
- 怨霊は毎夜、家のまわりをめぐり、屋根の棟でさけび、その怒りの声は一晩ごとにすさまじくなっていきました

プレ男「ここにも貼ってあるな」…。家のまわりを毎晩さがしまわってるんだ。こわすぎる!
最後の夜
- ついに42日目の最後の夜。夜明けの空がしらじらと明るくなりました。正太郎は長い夢からさめた思いで、となりの彦六に声をかけます。「もう物忌みは終わりました。そちらへ行きましょう」
- 思慮の浅い彦六が「もう大丈夫ですよ」と戸をあけかけたとき、正太郎の家の軒のあたりで「ああッ!」というさけび声が耳をつんざきました
- 彦六が斧をもって外へ出ると、明けたと見えた夜はじつはまだ暗く、月は中空にぼんやりとかかっていました。正太郎の家の戸はあいたまま、正太郎の姿はありません
- 戸のわきの壁には、なまなましい血が流れていました。けれど、屍も骨も見あたらない。灯りを高くかかげて軒を照らすと、男の髪の髻だけがひっかかっていたのです
- 物語は、祈祷師の占いも、御釜祓の凶兆も、そのとおりになった、と結ばれます

「吉備津の釜」では、婚礼の前の御釜祓で釜が鳴らなかったという凶兆が、最後にそのとおりになります。42日の物忌みの最後の夜、明けたと思った夜は、じつはまだ明けていなかったのです。
まとめ
- 「吉備津の釜」は、上田秋成『雨月物語』巻之三の一編
- 婚礼の前の御釜祓で、吉備津神社の釜は鳴らなかった(凶)
- 夫正太郎は、よくつくす妻磯良をだましてお金を出させ、遊女袖と駆け落ち。磯良は病にたおれる
- 袖は7日で死に、墓地で出会った女に案内された家の屏風の向こうには、怨霊になった磯良
- 42日間、お札をはって物忌み。「ああ、憎らしい。ここにも貼ってあるな」
- 最後の夜、明けたと思って戸をあけた正太郎は消え、軒には髻だけが
- 同じ『雨月物語』の浅茅が宿、菊花の約、裏切られた妻の怨霊は四谷怪談もどうぞ
参考文献
- 上田秋成(鵜月洋訳). 現代語訳 雨月物語(底本:角川文庫『改訂 雨月物語 現代語訳付き』KADOKAWA). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/001271/card60609.html (閲覧日:2026年10月12日)
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