
プレ男夜釣りの怪談?釣りの最中におばけが出るのかな。

メル美それが、釣りの場面はひとつも出てこないの。帰りを待つ家族の話なんだよ。
今回は、泉鏡花の短編「夜釣」です。青空文庫の本文(底本:岩波書店『鏡花全集 巻十四』)で読みました。初出は『新小説』1911年(明治44年)で、初出時の題は「鰻」です。本文は旧字・旧仮名なので、「」の引用は読みやすいように新字・新仮名に改めました。
鰻釣りの名人・岩さん
- 語り手が、大工の棟梁「大勝」のおかみさんから聞いた話です
- 牛込築土前の大勝のうちに出入りする岩次は、女房と子ども2人のいる職人。酒も女遊びも博打もやらないが、生まれつきの釣り好きで、とくに鰻釣りの糸さばきが得意でした。ひと晩出かければたくさん釣ってきて、大勝の台所口へ投げこんでいくこともめずらしくありません
- ところが、まだ若い女房は信心深く、岩さんの殺生をひどく気にしていました。岩さんは面倒をさけて、釣り道具を近所の車屋や床屋にあずけ、そこからこっそり支度して出かけていた。女房もそれを薄々知っていました
生暖かい風の晩
- 霜月(11月)の末。季節はずれの生暖かい風が吹き、雲が蒸して、火鉢のそばでは半纏を脱ぎたいほどの晩でした
- 仕事場から長屋(行願寺の境内の路地裏)へ帰った岩さんは、なにかにそそられたように気がせくようすで、銭湯にも行かずに茶漬けをすませ、「ちょっと友だちのところへ」と出ていきます
- 留守のあいだ、風は吹きつのり、星は光っているのに、灰色の雲がわいて、ぽつりと降ってはまた吹きはらわれる。子どもたちも寝苦しいのか寝つかず、女房はひと晩まんじりともせず、烏の声を聞きました
帰らない夫
- 夜が明け、昼になっても岩さんは帰りません。そんなだらしのない人ではないだけに、女房は大勝のうちをはじめ、心あたりを日が暮れるまで探しまわりました
- やっと手がかりをくれたのは、神楽坂下の牛込見附の茶飯屋。岩さんはゆうべの十二時ごろ、ひとりで来て、空を見ながらおかわりをし、雨がすぐやんだのを「いい塩梅だ」と言って、また駆けだしていったといいます
- 茶飯屋は言いました。「変に陰気で不気味な晩でございました」

プレ男夜中にひとりで、なにかに呼ばれるみたいに…。いやな予感しかしないよ。
「鰻が居るんだよ」
- せめてもの手がかりを胸に、女房は晩ごはんもまだの子どもたちのもとへ、坂を駆けあがって帰ります。路地口には、4つの女の子と5つの男の子が立っていました
- 「父さんは帰ったかい」と、女房は「帰った」と言わせるように、笑顔でやさしく聞きます
- 子どもたちの答えは「帰らない」。けれど男の子は袖を引いて言いました。「父さんは帰らないけれどね、いつものね、鰻が居るんだよ」
- 台所の手桶に、だれが持ってきたのか知らない鰻が、いっぱいになってのたくっている。逃げるといけないから、2人で石をのせて蓋をした——お墓の石みたいな、と女の子
- 子どもたちは「父さんを待っている」と寺の門へ駆けていきながら、ふりかえって言います。「鰻を見ても触っちゃいけないよ」「触るとなくなりますよ」
手桶の中
- 女房は、首すじから肩までぞっと冷えるのを感じながら、台所の水口へ。腰障子のすぐ中で、ばちゃばちゃと水の音がします
- 手桶の上には、子どもの手でどうやってのせたのかと疑うほど大きな沢庵石。女房がそれを引きずりのけ、蓋をはずすと——
- 水のあふれる手桶の中にいたのは、たった一匹の鰻でした。鰻はのろのろとうねり、とがった頭をあげて、女房の青ざめた顔をじっと見た——物語はそこで終わります

子どもたちが「いっぱいになってのたくっている」と言った手桶の中にいたのは、たった一匹の鰻でした。鰻は頭をあげて、女房の顔をじっと見た、と物語は結ばれます。
読みどころ
- 何も説明しない結末:岩さんがどうなったのか、鰻がだれなのか、作品は何も書きません。女房が殺生を気にしていたこと、岩さんが何かにそそられるように出ていったこと、そして顔を見あげる一匹の鰻。読者に想像させたまま終わります
- 子どもたちの言葉:「触るとなくなりますよ」と言いのこして父を待ちに駆けていく、かわいい子どもたちの姿が、こわさをいっそう深めています
- 生暖かい冬の夜:霜月の末なのに汗ばむほどの風、晴れているのにわく雲。夜の天気の描写が、不気味な前ぶれになっています
- 鰻が出てくる怪談には、岡本綺堂の鰻に呪われた男もあります。殺生をいさめる話としては、田中貢太郎の岩魚の怪も
まとめ
- 「夜釣」は泉鏡花の短編。初出は『新小説』1911年、初出時の題は「鰻」
- 鰻釣りの名人・岩さんと、殺生を気にする若い女房
- 霜月の末、生暖かい風の夜に出かけたきり、帰らない夫
- 「父さんは帰らないけれどね、鰻が居るんだよ」——子どもたちが石で蓋をした台所の手桶
- 中にいたのはたった一匹の鰻。女房の顔をじっと見た
- 釣りの帰りに声がする田中貢太郎のおいてけ堀もどうぞ
参考文献
- 泉鏡花. 夜釣(底本:『鏡花全集 巻十四』岩波書店). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000050/card4575.html (閲覧日:2026年10月22日)
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。 気になる症状や不安がある場合は、医療機関にご相談ください。