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メル美平家の亡霊の話って、「耳なし芳一」みたい。

プレ男こっちは、亡霊のお姫さまと結婚しちゃうんだって。こわいのに、ちょっとせつない。
今回は、小泉八雲の「THE STORY OF ITŌ NORISUKÉ」です。八雲が亡くなった翌年、1905年10月に出版された『The Romance of the Milky Way, and Other Studies & Stories』に入っています。英語の原文を Project Gutenberg で読みました。題名の「イトウ・ノリスケの話」と、本文中の「」の言葉は、英語の原文から Claude が訳したものです。人名は、八雲のローマ字表記をカタカナにしました。
どんな話?
| 題名 | THE STORY OF ITŌ NORISUKÉ(イトウ・ノリスケの話) |
| 作者 | 小泉八雲(ラフカディオ・ハーン) |
| 収録 | 『The Romance of the Milky Way, and Other Studies & Stories』(Houghton Mifflin、1905年10月) |
| 時代 | 八雲は「およそ600年前」と書く |
| 舞台 | 山城の国の宇治と、Kotobikiyama という山の近くの村 |
| 主な人物 | 若侍 Itō Tatéwaki Norisuké(イトウ・タテワキ・ノリスケ)/宮仕えの少女/年老いた乳母/姫君 |
月と風だけが友
- およそ600年前、山城の国の宇治に、平家の血をひく若い侍イトウ・ノリスケが住んでいました。姿がよく、人柄もやさしく、学問にも武芸にもすぐれていましたが、家は貧しく、引き立ててくれる主もいません
- 静かに学問にうちこむ暮らしで、もとの話の語り手によれば「月と風だけが友」でした
夕暮れの山道の少女
- ある秋の夕暮れ、Kotobikiyama という山のあたりをひとりで歩いていると、同じ道を行く少女に追いつきました。りっぱな身なりで、11か12ばかり
- 「もうすぐ日が暮れる。さびしい所だが、道に迷ったのか」とたずねると、少女はにっこりして、「いいえ、この近くで宮仕え(miya-dzukai)をしております。もうすぐですから」と答えます
- その言葉から、身分の高い人に仕えているとわかりましたが、このあたりにそんな家があるとは聞いたことがありません。イトウは少女を送っていくことにし、二人は話しながら歩きました。天気のこと、花や蝶や鳥のこと、生まれた都の名所のこと
木立ちの中の暗い村
- ここで八雲は話をいったん止めて、日本の田舎の村が、どんなに明るい日でも暗いままであることを説明します。杉や竹をすきまなく植えた林が嵐から村を守り、梢が屋根のように日をさえぎって、昼でもたそがれのよう
- 何より心をざわつかせるのは、その静けさだ、と八雲は書きます。家が50軒、100軒あっても人の姿は見えず、聞こえるのは見えない鳥の声と、ときおりの鶏、かすかな蝉、そして姿の見えない機織りの音だけ。大人は畑へ、子どもは学校へ出ているからなのですが
- 日が沈み、その木立ちの村はまっ暗でした。少女は細い路地へ入り、暗がりにぼんやり見える格子の門の前で止まります。「ここが、わたくしのお仕えするお屋敷です。少しお休みになっていきませんか」
琴の音と、乳母の話
- 門の中には、曲がりくねった流れのある、古風な広い庭。家は大きく、とても古く、ちがう時代の造りでした。すだれのむこうに女たちの影が動き、ふいに琴の音が夜に流れだします
- あまりに軽やかで美しく、イトウは自分の耳がしんじられません。よろこびと、ふしぎな悲しみがまじった、眠りをさそうような心地。この世の音楽だろうか、と思うほどでした
- 年老いた女に奥の広間へ通され、めずらしい細工の器でもてなされます。器には、持ち主の身分の高さをしめす紋がありました。そして女は、名のってもいないイトウの名を言いあてます。「宇治のイトウ・タテワキ・ノリスケさまでは?」
- 「この村をよく通られるあなたを、うちの姫君(Himégimi-Sama)が、ある朝お見かけして、それから夜も昼もあなたのことばかり思って、病気になってしまわれたのです」。手紙を出そうとしていたところへ、ちょうどあなたが来られた。縁結びの神のおはからいにちがいない、と
月の光のような姫君
- イトウはとまどいます。主も財産もない自分に、身分の高い家の娘が心を寄せるなど。女の弱みにつけこんで自分の得をはかるのは、自分の性分に合わない。それに、何もかもがふしぎすぎる
- 妻も許嫁もいないが、まだ身分の高い娘にふさわしい者ではない、とイトウが答えると、老女は「姫君にお会いになるまでは、決めないほうがよいでしょう」とほほえみました
- あらわれた姫君を見て、イトウは庭で琴を聞いたときと同じ、ふしぎなよろこびに打たれます。その身からは、雲ごしの月の光のように光がさしているようでした。天の川のほとりに住む織姫ではないか、とイトウは思います
- 老女はうれし泣きをしながら、二人に誓いをかわすようすすめ、婚礼の宴がひらかれました
花嫁の父の名
- 酒がすすんで、イトウはたずねます。「何度もこの村を通ったのに、このお屋敷のことは知らなかった。こうして姫君と結ばれたのに、そのお家の名をまだ知らないのはふしぎです」
- 老女の顔がくもり、ほとんど口をきかなかった姫君は青ざめました。しばらくして老女は答えます。「花嫁は、重衡卿(Shigéhira-Kyō)、あの不運な三位中将の姫でございます」
- その名を聞いたとたん、イトウの体じゅうの血に、氷のような寒けが走りました。平家の大将・重衡卿は、何百年も前にこの世を去った人です。この部屋も、灯りも、宴も、すべて過去の夢で、目の前の人たちは、人ではなく死んだ人の影なのだと、イトウはさとります

プレ男結婚したあとで、相手が何百年も前の人だってわかるなんて…!
それでも、おそれなかった
- けれど寒けはすぐに消え、魅了はかえって深まって、イトウはおそれを感じませんでした。花嫁が黄泉から来た人でも、心はもうすっかりうばわれていたのです
- 幽霊と結ばれる者は幽霊にならねばならない。それでも、この美しいまぼろしを悲しませる言葉や顔つきを見せるくらいなら、何度でも死ぬほうがいい、とイトウは思います。だますほうが都合がいいときに本当のことを打ちあけてくれたのだから、その愛はうたがわない
- 老女は、重衡卿のむごい最期と、身をかくした母子のこと、母が悲しみにたえられなかったこと、5歳の姫を乳母の自分が育て、巡礼のすがたで国々をさすらったことを語ります。八雲は注で、重衡が捕らえられて鎌倉へ送られ、のちに南都の僧たちの求めで処刑されたことを説明しています
- 寝所で、イトウは花嫁にたずねます。「いつ、わたしを夫にと思ったのか」。花嫁は鳩のような声で答えました。「石山のお寺で、はじめてお見かけしたときです。でも覚えていらっしゃらないでしょう。それは、いまのあなたの一生のことではなく、ずっとずっと昔のこと。あなたはそれから何度も死んで生まれかわった。けれどわたくしは、あなたを思うあまり、ほかの体にも生まれかわれず、ずっとこのままの姿で、何代もの人の世のあいだ待っていたのです」
夜明けの別れ
- 寺の鐘が夜明けを告げ、鳥がさえずりはじめると、乳母がふすまをあけて言いました。「もうお別れの時です。日の光のもとでは、ひとときもいっしょにいてはなりません」
- 花嫁は、古い彫りのある小さな硯をイトウの手にのせました。「父が高倉天皇からいただいたものです」。イトウは返礼に、梅とうぐいすを金銀で象嵌した刀の笄(こうがい)をおくります
- 階段の下でふり返ると、乳母は言いました。「次の亥の年の、同じ月の同じ日の同じ時刻に、またお会いしましょう。いまは寅の年ですから、10年お待ちいただくことになります。わけは申せませんが、ここではもうお会いできません。京都の近くへ移ります。そこには高倉天皇も、わたくしたちの父祖も、一族の多くもおります。その日に、お迎えの駕籠をさしむけます」
消えた門と、10年
- 村の上には星が燃えていましたが、ひらけた道へ出ると、静かな野のむこうに夜明けが明るんでいました。ふところの形見がなければ、ゆうべのことは夢だと思えたでしょう
- 自分が死を約束されたと知っても、イトウは少しも悔やみません。つらいのは、別れと、10年という長さだけでした
- その後、何度村をたずねても、木立ちの路地の門も、夕焼けの道をひとりで行く少女の姿も、二度と見つけられませんでした。村人たちは、イトウが化かされたのだと思います。身分の高い人が住んだことも、そんな庭があったこともない。ただ、むかし近くに大きな寺があり、その墓地の墓石がいくつか残っている、と
- しげみの中で見つけた墓石は、苔におおわれ、刻まれた文字はもう読めませんでした
亥の年の秋
- イトウはだれにも話しませんでしたが、日に日に青白くやせていきました。医者は体に病はないと言います。結婚をすすめる母に、イトウは「生きている女とは結婚しないと誓った」とだけ答えました
- そして亥の年の秋。イトウはもう床から起きあがれず、深く長く眠るので、たびたび死んだとまちがえられるほどでした
- ある晴れた夕方、子どもの声で目をさますと、枕もとに、10年前に門まで案内してくれたあの少女がいました。「今夜、京都の近くの大原の、新しいお住まいでお迎えするとお伝えするよう、言いつかってまいりました。駕籠がまいっております」。そう言って、少女は消えました
- イトウは、日の光の世界から呼ばれているのだとわかりました。それでもうれしくて、身を起こす力がわき、母を呼んで、はじめてあの婚礼の話をし、硯を見せます。そして、硯を棺に入れてほしいとたのんで、息をひきとりました

約束の亥の年の秋、10年前に門まで案内してくれた少女が、枕もとに迎えに来ました。イトウは母にはじめて婚礼の話をして、形見の硯を棺に入れてほしいとたのみ、息をひきとります。
形見の硯
- 硯はイトウといっしょにうめられました。けれど葬儀の前に目ききが調べたところ、その硯は Jō-an の時代(八雲は1169年と記す)に作られたもので、高倉天皇の時代に生きた職人の印があった、と話は結ばれます
読みどころ
- 静かな村の描写:八雲は話をとちゅうで止めて、木立ちに守られた日本の村の、昼でもたそがれのような暗さと静けさを書きます。読者は、その暗い村へイトウといっしょに入っていくことになります
- こわさより、せつなさ:相手が亡霊とわかっても、イトウはおそれず、10年を待ち、迎えをよろこんで死んでいきます。何代も待っていたという姫の言葉が、話全体をせつなくしています
- 最後の硯:夢だったのかもしれない一夜を、最後に、目ききが調べた硯の年代が「本当にあったこと」として裏づけます
- 平家の亡霊があらわれる八雲の話には「耳無芳一の話」が。帰ってみると相手はもうこの世の人ではなかった、という「和解」、生まれかわって約束を果たす「お貞のはなし」もどうぞ
まとめ
- 「THE STORY OF ITŌ NORISUKÉ」は、小泉八雲の遺稿集『The Romance of the Milky Way』(1905年)の一編
- 宇治の貧しい若侍イトウ・ノリスケが、夕暮れの山道で宮仕えの少女に出会い、木立ちの奥の古い屋敷へ招かれる
- 自分を恋いこがれていた姫君と結ばれるが、その父は何百年も前に亡くなった平家の重衡卿だった
- 夜明けの別れに形見の硯を受けとり、「10年後の亥の年に迎えに行く」と告げられる
- 亥の年の秋、迎えの少女があらわれ、イトウは母に話をして息をひきとる。硯は高倉天皇の時代のものだった
参考文献
- Lafcadio Hearn. The Romance of the Milky Way, and Other Studies & Stories(Boston and New York: Houghton Mifflin and Company, 1905). “The Story of Itō Norisuké”. Project Gutenberg. https://www.gutenberg.org/ebooks/15320 (閲覧日:2026年10月22日)
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