
プレ男遺体にまたがるって…。助かるための方法が、いちばんこわいんだけど。

メル美八雲は、この話の終わりかたに「納得できない」って書きそえているんだって。
今回は、小泉八雲の『Shadowings』(1900年)に入っている「THE CORPSE-RIDER」です。英語の原文を Project Gutenberg で読みました。題名の「死骸にのる男」と、本文中の「」の言葉は、英語の原文から Claude が訳したものです。
どんな話?
| 題名 | THE CORPSE-RIDER(死骸にのる男) |
| 作者 | 小泉八雲(ラフカディオ・ハーン) |
| 収録 | 『Shadowings』(1900年)の「STORIES FROM STRANGE BOOKS」 |
| もとになった本 | 八雲の注では『Konseki-Monogatari』(今昔物語) |
| 主な人物 | 離縁されて亡くなった女/旅から帰った元の夫/陰陽師(いんようし) |
葬られない遺体
- 遺体は氷のように冷たく、心臓はとうに止まっていました。それなのに、ほかに死のしるしがありません。だれも葬ろうとは言いませんでした
- 女は、離縁された悲しみと怒りで亡くなったのです。死にゆく人の最後の復讐の願いは、どんな墓も、どんな重い墓石もうち破る。だから葬ってもむだだ、と考えられていました
- 近所の人たちは家から逃げだしました。女が、自分を離縁した男の帰りを待っているだけだと知っていたからです
陰陽師への願い
- 女が亡くなったとき、男は旅に出ていました。帰ってきて話を聞き、恐ろしさにとらえられます。「日が暮れるまでに助けが見つからなければ、八つ裂きにされる」
- まだ辰の刻(八雲の注では朝8時ごろから)。男はすぐ陰陽師のところへ行き、助けをこいます。陰陽師はこの女の話を知っていて、遺体も見ていました
- 「たいへんな危険がせまっている。助けてみよう。ただし、言うとおりにすると約束しなさい。助かる方法はひとつだけ。恐ろしい方法だが、その勇気がなければ、ばらばらにされる。勇気が出せるなら、日暮れ前にもう一度来なさい」
「髪を手綱のように」
- 日暮れ、陰陽師は男を遺体のある家へ連れていき、戸をあけて中へ入れます。「見ることもできない」とふるえる男に、陰陽師は「見るよりもっと大変なことをしてもらう。約束したはずだ」
- 遺体はうつぶせに横たわっていました。「馬に乗るように、背中にまたがってしっかり座れ」。男はふるえながらも従います
- 「髪を、右手に半分、左手に半分、手綱のように握れ。両手に巻きつけて、きつく。朝までこのままだ。夜のうちにこわいことはいくらでもある。でも、何が起きても髪を放すな。一瞬でも放したら、ずたずたにされる」
- 陰陽師は遺体の耳に何かふしぎな言葉をささやき、「自分の身のために、ここからはひとりにする」と言って、戸を閉めて去りました

メル美真っ暗な家で、ひと晩ひとりで…。考えただけでむり。
夜の疾走
- 何時間も、男は黒い恐怖のなかで遺体の上に座っていました。夜の静けさがどんどん深くなり、とうとう耐えきれずにさけび声をあげます
- そのとたん、遺体が男をふり落とそうとするように跳ねあがり、女が大声で言いました。「ああ、重い! でも、あいつを今ここへ連れてきてやる!」
- 女は立ちあがって戸へ跳び、戸をあけはなって、男を乗せたまま夜の中へ走りだしました。男は目を閉じ、長い髪を両手に巻きつけたまま、きつく、きつく握りつづけます。うめき声も出せないほどの恐ろしさでした
- どこまで走ったのか、男にはわかりません。何も見えず、聞こえたのは、暗やみの中の裸足の足音「ピチャピチャ、ピチャピチャ」と、走る女の息の音だけでした
- やがて女は向きを変えて家へ走りもどり、さっきと同じように床に横たわります。男の下で、女はあえぎ、うめいていましたが、一番鶏が鳴くと、静かになりました
夜明け
- 男は歯をがちがち鳴らしながら、日の出に陰陽師が来るまで遺体の上に座っていました
- 「髪を放さなかったな!」と陰陽師は喜びます。「それでいい。もう立ってよい」。陰陽師はもう一度遺体の耳に何かささやき、男に言いました。「恐ろしい夜だっただろう。でも、ほかに助かる方法はなかった。これからは、女の復讐を心配しなくてよい」

陰陽師の命令は「何が起きても、髪を放すな」の一つだけでした。男はひと晩、遺体を乗せたまま走る女の髪を握りつづけ、夜明けに陰陽師から「もう心配しなくてよい」と告げられます。
八雲が書きそえたこと
- 八雲は、この話の結末は「道徳的に納得できるものだとは思わない」と書いています。男が正気を失ったとも、髪が白くなったとも書かれておらず、ただ「男は涙を流して陰陽師を拝んだ」とあるだけだ、と
- 原作者の注も、八雲には物足りないものでした。「この男の孫が今も生きていて、陰陽師の孫は今も Otokunoi-mura という村に住んでいるという」。八雲は、この村の名は今の日本の地名録には見あたらないが、この話が書かれてから多くの町や村の名前が変わっている、と結んでいます
読みどころ
- 助かる方法が、いちばんこわい:幽霊から逃げるのではなく、幽霊の背中に乗って朝まで耐える。この逆転が、話のこわさの中心です
- 音だけの描写:男は目を閉じているので、読者にも何も見えません。「ピチャピチャ」という裸足の音と息の音だけで、夜の疾走が描かれます
- 女の側の物語:女は「離縁された悲しみと怒り」で亡くなりました。陰陽師は男を救いますが、女がなぜそこまで怒ったのかは語られません。八雲が結末に納得できない、と書いた理由を考えながら読むのも一つの読み方です
- 夫に裏切られた妻の怨霊が出てくる話は、『雨月物語』の吉備津の釜にも。たたりを知恵で封じる話は、八雲の「かけひき」もあります
まとめ
- 「THE CORPSE-RIDER」は、小泉八雲『Shadowings』(1900年)の一編。八雲の注では『今昔物語』から
- 離縁された悲しみと怒りで亡くなった女は、葬られないまま、元の夫の帰りを待っていた
- 陰陽師の命令は、遺体にまたがり、髪を手綱のように握って、朝まで放すな
- 夜中、女は男を乗せたまま走りだし、一番鶏で静かになる。男は助かった
- 八雲は「この結末は納得できない」と書きそえている
参考文献
- Lafcadio Hearn. Shadowings(Boston: Little, Brown, and Company. Copyright 1900). “The Corpse-Rider”. Project Gutenberg. https://www.gutenberg.org/ebooks/34215 (閲覧日:2026年10月22日)
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