
プレ男甘いものは舌の先で、苦いものは奥で感じるんだよね。だから苦い薬は舌の先にのせれば平気なはず!

メル美理科の教科書に地図が載ってた気がする。でも、舌の先で苦いのを感じたこと、あるような…。
こんにちは、Dr. Taro です。 今回の都市伝説は、「舌には味の地図があって、先は甘味、横は酸味と塩味、奥は苦味を感じる」説です。オックスフォード大学の心理学者チャールズ・スペンスが2022年に学術誌『Current Research in Food Science』に書いた総説(これまでの研究のまとめ)と、マイアミ大学のチャウダリとローパーが2010年に『Journal of Cell Biology』に書いた総説をもとにまとめました。
結論から
- スペンスの総説の言葉では、舌の地図は「とうの昔に否定されている(long been discredited)」
- 味を感じる細胞(受容体)は、舌の場所に関係なく、すべての味に反応する
- ただし、場所によって感じやすさにわずかな差はあることが、実験で確かめられている。地図のように「そこでしか感じない」わけではない
地図はどこから来た?
- スペンスの総説によると、20世紀の中ごろまで、甘味は舌の前、苦味は奥、塩味と酸味は横の受容体で感じる、と広く信じられていました
- もとになったのは、ドイツのダーヴィト・パウリ・ヘーニッヒが1901年に発表した論文です。ヘーニッヒは、舌のいくつもの場所で、どのくらい薄い味まで感じられるか(いき値)を測りました
- ヘーニッヒのまとめの図は、場所によって感じやすさがどう変わるかを示したものでした。塩味は、測ったどの場所でもほぼ同じに感じられたので、図にかかれていません
- 米国の心理学者エドウィン・ボーリングは、1942年の教科書『実験心理学史における感覚と知覚』で、ヘーニッヒのデータをかき直したグラフをのせました。味ごとに、いちばん感じやすい場所を「1」としてそろえたグラフです
- 味覚研究者のリンダ・バートシュクは、このグラフでは差がどのくらい意味のある大きさなのかがわからない、と指摘しています。グラフが低い場所は「ほとんど感じない」、高い場所は「そこで感じる」と読まれてしまい、「先は甘味、奥は苦味」という地図になった、というのです

メル美もとの研究は「ちょっと感じやすい」くらいの話だったのに、グラフのかき方で「そこでしか感じない」になっちゃったんだ。
- バートシュクの説明では、この地図は子ども向けの理科の実験として人気になりました。バートシュクは「実験すれば、たびたび期待どおりの結果にならないはずなのに」人気になったのは驚きだ、と書いています(スペンスの総説より)
いまわかっていること
- スペンスの総説が引用している、チャンドラシェカールらの2006年の『Nature』の総説には、こう書かれています:「最近の分子と機能のデータから、一般に信じられているのとちがって、舌の『地図』はない。苦味・酸味・甘味・塩味・うま味の5つの基本の味への反応は、舌のすべての場所にある」
- チャウダリとローパーの総説も、「場所によるわずかな差はあるが、甘味・苦味・塩味・酸味の区域を分ける『舌の地図』という考えは、ほぼ否定されている」と書いています
- 同じ総説によると、ヒトの口の中には約5,000個の味蕾(みらい:味を感じる細胞の集まり)があり、舌の上の面だけでなく、上あご(口蓋)やのどの奥(喉頭蓋)にもあります

プレ男じゃあ、苦い薬を舌の先にのせても、苦いのは苦いんだ…。上あごでも味を感じてたなんて知らなかった!
でも「差がまったくない」わけでもない
- スペンスの総説は、地図は否定されているものの、舌・やわらかい上あご(軟口蓋)・のどのあいだで、感じやすさに有意な(ただし小さな)差があることは、心理物理学(人の感じ方を測る)の実験ではっきり示されている、とまとめています
- 1892年のショアや1901年のヘーニッヒのいき値の研究では、甘いものは舌の先、苦いものは舌の奥がいちばん敏感でした。ただし「そこでしか感じない」のではなく「少し薄くても感じる」というちがいです
- スペンスは、この差の大きさや、人による一貫性についてはまだ議論がある、とも書いています。また、ふだんの食事のようにかんで飲みこむときの味は、舌に液をたらす実験とはちがう、とも指摘しています
- 舌の前と奥では、つながっている神経がちがう(前の3分の2は顔面神経の枝の鼓索神経、奥の約3分の1は舌咽神経)ことも、総説に書かれています

味を感じる細胞は、舌のどこでも5つの味に反応します。場所による感じやすさの差はあっても小さく、「舌の先でしか甘味を感じない」という地図は、1942年の教科書のグラフの読みちがいから広まったと考えられています。
まとめ
- 「先は甘味、奥は苦味」の舌の地図は否定されている(スペンス、2022年)
- もとは1901年のヘーニッヒのいき値の研究。1942年のボーリングの教科書のグラフが「そこでしか感じない」ように読まれて広まった、とバートシュクは考えた
- 5つの基本の味(苦味・酸味・甘味・塩味・うま味)への反応は、舌のすべての場所にある(チャンドラシェカールら、2006年)
- 場所による感じやすさの小さな差はある。味蕾は上あごやのどにもある
- うま味の話はうま味調味料(MSG)は体に悪い?、食べ方の都市伝説は「早食いは太る」は本当?、教科書にも出てきた脳の都市伝説は「脳の10%しか使っていない」もどうぞ
参考文献
- Spence C. The tongue map and the spatial modulation of taste perception. Current Research in Food Science. 2022;5:598-610. doi:10.1016/j.crfs.2022.02.004. PMC8956797. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8956797/ (閲覧日:2026年10月22日)
- Chaudhari N, Roper SD. The cell biology of taste. Journal of Cell Biology. 2010;190(3):285-296. doi:10.1083/jcb.201003144. PMC2922655. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2922655/ (閲覧日:2026年10月22日)
- Chandrashekar J, Hoon MA, Ryba NJ, Zuker CS. The receptors and cells for mammalian taste. Nature. 2006;444(7117):288-294. doi:10.1038/nature05401. PubMed. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17108952/ (閲覧日:2026年10月22日)(本文の引用は、文献1に引用された文による)
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