
プレ男「蟇の血」…。タイトルからしてもう、ぞわっとするね。

メル美夜道で女の人に道をたずねられるところから始まるんだって。
今回は、田中貢太郎の怪談「蟇の血」(がまのち)です。青空文庫の本文(底本:学研M文庫『伝奇ノ匣6 田中貢太郎日本怪談事典』、底本の親本:『黒雨集』)で読みました。青空文庫のファイルには、初出は『黒雨集』1923年(大正12年)10月25日と書かれています。本文中の「」の言葉は、青空文庫の本文からの引用です。
※この作品には、人が縛られて責められる場面、生き物を殺す場面、人が亡くなる話が出てきます。
先輩の家からの帰り道
- 三島譲は、高等文官試験をめざす青年。雨のなごりの雲が流れる晩、十時を打ってまもない山の手の場末の町は、もう寝しずまっていました
- 先輩の藤原君に相談していたのは、ある女のこと。「もすこし女の身元や素状を調べる必要があるね」と言われたのでした
- 譲が試験の準備の前に5、6日すごした海岸で、その女と出会いました。夕方、松原の台地でひとり泣いていた女。自殺するのではと心配して声をかけ、宿へ連れて帰った。女は家を逃げだして東京で奉公していたが、奉公先で主人に意外なそぶりを見せられ、その晩のうちに逃げてきたのだと泣きました
- 譲はその晩のうちに女と離れられない仲になり、いまは下宿の二階で、女が譲の帰りを待っています
くるくる舞う電燈の笠
- 曲がり角の家の門燈。針金の網に包まれた笠の内側に、ヤモリがいました。首が五寸ほども延びて見えたかと思うと、電燈の笠が、地球儀が回るようにくるくると舞いだした
- 譲は、神経のせいだ、もしかすると発狂の前ぶれではないか、とまで考えます。そして、偶然に女を得たことさえ、幻覚ではないかと思えてくるのでした
「電車の方へは、こう行ったら……」
- 暗い路で、右側を歩いていた人がふりかえります。「失礼ですが、電車の方へは、こう行ったらよろしゅうございましょうか」——若い女の声でした
- 病人のいる家から無理に出てきた、この先の親類の家に泊まろうか迷っている、と言う女。譲は親類の家まで送ることにします
- 路は急に暗くなり、だれかが見はっていて、わざと門燈のスイッチをひねっているようでした。女の声には「霧がかかったように」なり、何も言わなくなります
甘い毒々しい花の香りの屋敷
- 着いたのは、インキのにじんだような門燈の、昔風の屋敷門。耳門は音もなく開き、音もなく閉まりました
- 庭には天鵞絨を敷いたような青々とした草。金茶色の花を一面に垂らした木があり、「甘い毒々しい香」が鼻にしみる。その花も、またくるくると回って見えました
- 出てきたのは、蝋細工の人形のような顔をした、背の高い「凄いように綺麗な」女主人。妹の礼を言いたい、お茶だけでも、とひきとめます
- 出されたのは、牛乳のような色をした、アブサンのような味のする酒。早く帰りたい譲を、女主人は「たまには遅く行って、じらしてやるがよろしゅうございますよ」と笑ってひきとめました
奥様のお相手を
- 部屋を飛びだした譲を、廊下で年増の女がつかまえ、奥様はひとりで寂しがっているから、今晩のお相手をしてくれ、お金がうなるほどある方だから洋行でもなんでもできる、と迫ります
- 譲はことわりつづけました。白髪で魚のようなつやのない目をした小さな老婆が入ってきて、年増は言います。「野狐がついているから、やっぱり駄目だよ」
窓の向こうの少年
- 玄関をさがして廊下を走るうち、まわりが急に暗くなり、うしろは冷たい壁。明かり取りの小さな窓から、譲は奇怪な光景を見ます
- 学生のような少年が椅子に青い紐でぐるぐる縛られ、送ってきた「妹」と女中がかわるがわる責めたてている。「はい」と言って奥様に従えば、この屋敷で殿様のように暮らせる、と
- やってきた老婆は、右手に生きた疣だらけの蟇の両足をつかんでぶらさげていました。老婆が蟇を引き裂き、その血をコップに受けて、少年の口に注ぎこむ。「この薬を飲んで利かなけりゃ、もう仕方がない」
- 逃げだそうとした先の庭では、太った女の口笛で、青い草の中から無数の小蛇の頭があらわれ、血みどろの肉の片に群がりました

メル美お屋敷の中のどこを見ても、ふつうじゃないものばかり…。
「お前さんの好きな野狐を見せてやる」
- 譲はまた年増につかまり、青い帷の奥の寝室へ引きこまれます。それでも逃げようとした譲は、少年と同じ青い紐で縛られ、寝台に寝かされました
- どれほど時間がたったのか。顔を向けさせられた譲の目の前で、年増が首すじをつかんで立たせていたのは、下宿で待っているはずのあの女でした
- 年増が女の首をしめつけると、女の姿は、みるみる赤茶けた色の獣になりました
- 数日海岸へ旅行すると言って下宿を出たきりの高等文官試験の受験生・三島譲が、早稲田のある空き家の中で、原因のわからない死に方をしていた——そんな短い記事が、ある日の新聞に載ったところで、物語は終わります

屋敷の女たちは、下宿で待っていた女のことを最初から「野狐」と呼び、「野狐がついているから、その男はとても駄目だ」と言っていました。最後に、その女の姿は赤茶けた色の獣に変わります。
まとめ
- 「蟇の血」(がまのち)は田中貢太郎の怪談。青空文庫のファイルでは、初出は『黒雨集』1923年
- 高等文官試験をめざす三島譲が、雨あがりの夜道で道をたずねてきた女を送っていく
- 甘い毒々しい花の香り、くるくる回って見える電燈の笠と花。屋敷の女たちは、譲を帰そうとしない
- ガラス窓の向こうで、老婆が生きた蟇の血を少年に飲ませる
- 下宿で待つ女は「野狐」と呼ばれ、最後に獣の姿に。三島譲は早稲田の空き家で見つかった
- 貢太郎の怪談なら、狐と狸、狼の怪、死人の手もどうぞ
参考文献
- 田中貢太郎. 蟇の血(底本:『伝奇ノ匣6 田中貢太郎日本怪談事典』学研M文庫、学習研究社). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000154/card47996.html (閲覧日:2026年10月22日)
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