
メル美明治の鹿鳴館の舞踏会って、一度でいいから行ってみたかったな。

プレ男芥川龍之介の『舞踏会』は、まさにその夜の物語なんだって。
今回は、芥川龍之介の短編『舞踏会』です。青空文庫の原文(底本:『現代日本文学大系43 芥川龍之介集』筑摩書房)で読みました。作品の末尾には「大正八年十二月」とあります。
一:明治19年11月3日、鹿鳴館
- 「明治十九年十一月三日の夜であつた」。17歳の令嬢・明子は、頭のはげた父といっしょに、鹿鳴館の階段をのぼっていきます
- 階段の両側には、うす紅、濃い黄色、まっ白の大輪の菊が、三重の垣をつくっていました。その上の舞踏室からは、陽気な管弦楽の音が、「抑へ難い幸福の吐息のやうに」あふれてきます
- 明子は、フランス語と舞踏の教育を受けていましたが、正式な舞踏会は今夜が生まれてはじめて。馬車の中でも、「愉快なる不安」とでもいうような、落ちつかない気持ちでした
- 薔薇色の舞踏服、水色のリボン、髪にさしたたった一輪の薔薇。階段ですれちがう人も、主人役の伯爵も、明子の姿に目を見はります
「一しよに踊つては下さいませんか」
- 同じ年ごろの少女たちとさざめいていると、見知らないフランスの海軍将校が近づいて、ていねいに日本風のおじぎをしました
- そして、ふしぎな発音の日本語で、はっきりこう言います。「一しよに踊つては下さいませんか。」
- 明子は彼と、「美しく青きダニウブ」のワルツを踊りました。日に焼けた、濃い口ひげの将校は、背の低い明子をたくみにリードし、ときどき耳もとでフランス語のお世辞をささやきます
- 将校の目が、ずっと自分の一挙一動に注がれているのを、明子は感じていました。こんな美しい令嬢も、紙と竹の家に人形のように住んでいるのだろうか——そんな疑問が、彼の目に浮かんでいるようでした

プレ男はじめての舞踏会で、外国の将校さんに日本語で誘われる…。映画みたいだ。
アイスクリームと「舞踏会は何処でも同じ事です」
- 踊りつかれた明子は、将校と腕を組んで、階下の食堂へ。二人はいっしょにアイスクリームのさじをとります
- 「西洋の女の方はほんたうに御美しうございますこと。」と明子が言うと、将校はまじめに首をふり、「日本の女の方も美しいです。殊にあなたなぞは——」。そのままパリの舞踏会にも出られる、ワットーの絵の中のお姫様のようだ、と言いました
- 「私も巴里の舞踏会へ参つて見たうございますわ。」——すると将校は、皮肉なほほえみをうかべて、「巴里ばかりではありません。舞踏会は何処でも同じ事です。」とつぶやくのでした
星月夜と花火
- 1時間後、二人は、星月夜のバルコニーにたたずんでいました。庭の針葉樹のこずえには、ほおずき提灯の火。下の庭からは、苔や落葉の匂いが、さびしい秋の気配をただよわせています
- 将校は、明子に腕をかしたまま、黙って夜空を見つめていました。「御国の事を思つていらつしやるのでせう。」と明子がたずねると、子どものように首をふります
- そのとき、夜空に赤と青の花火があがり、消えようとしていました。明子には、なぜかそれが、悲しくなるほど美しく思えました
- 「私は花火の事を考へてゐたのです。我々の生のやうな花火の事を。」——将校は、やさしく明子を見おろして、教えるようにそう言いました

メル美「我々の生のやうな花火」…。きれいで、一瞬で消えてしまうもの、ってことかな。
二:大正7年、汽車の中で
- それから30年あまりたった大正7年の秋。いまは「H老夫人」となった明子は、鎌倉へ向かう汽車の中で、顔見知りの青年の小説家といっしょになります
- 青年が網棚に菊の花束をのせていたので、老夫人は、菊を見るたびに思い出す話がある、と言って、鹿鳴館の舞踏会の思い出を語りました
- 青年がたずねます。「奥様はその仏蘭西の海軍将校の名を御存知ではございませんか。」
- 「存じて居りますとも。Julien Viaud と仰有る方でございました。」
- 青年は興奮します。「では Loti だつたのでございますね。あの『お菊夫人』を書いたピエル・ロテイだつたのでございますね。」
- けれど老夫人は、ふしぎそうに青年を見ながら、何度もこうつぶやくばかりでした。「いえ、ロテイと仰有る方ではございませんよ。ジュリアン・ヴイオと仰有る方でございますよ。」

『舞踏会』の最後、老夫人になった明子は、あの夜の将校の名を「ジュリアン・ヴイオと仰有る方でございますよ」とくりかえします。青年が言う作家「ロティ」の名とは、結びつけていないのです。
まとめ
- 『舞踏会』は、芥川龍之介の短編(末尾に「大正八年十二月」)
- 明治19年11月3日、17歳の明子は、鹿鳴館のはじめての舞踏会で、フランスの海軍将校とワルツを踊る
- 「舞踏会は何処でも同じ事です」、そして花火を見あげて「我々の生のやうな花火の事を」
- 大正7年、老夫人になった明子は、将校の名を「ジュリアン・ヴイオ」と言い、青年の言う「ロティ」とは結びつけない
- 芥川のほかの恋の話は『秋』、明治の異国の恋は森鴎外『舞姫』もどうぞ
参考文献
- 芥川龍之介. 舞踏会(底本:『現代日本文学大系43 芥川龍之介集』筑摩書房). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card28.html (閲覧日:2026年10月12日)
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