【テクノロジー解説】電子顕微鏡ってなに?光のかわりに電子を使って、目に見えない小さな世界を写す。1933年に初号機、原子1個ずつ見る顕微鏡も。凍らせて生命の分子を見る「クライオ電顕」まで(ノーベル物理学賞1986・化学賞2017)
ふつうの顕微鏡(光学顕微鏡)は光でものを見ますが、電子顕微鏡は「電子」を使い、はるかに小さなものを見ることができます。1986年のノーベル物理学賞は、磁石のコイルを電子の「レンズ」にして1933年に最初の電子顕微鏡をつくったルスカ博士と、針で表面を原子1個ずつたどる走査型トンネル顕微鏡をつくったビーニッヒ博士・ローラー博士に贈られました。2017年のノーベル化学賞は、生体分子を急速に凍らせて、自然な形のまま見る「クライオ電子顕微鏡」を開発した3人に。薬剤耐性のたんぱく質やジカウイルスの表面まで見えるようになりました。

プレ男理科の時間の顕微鏡で、細胞は見えたけど、ウイルスとかたんぱく質はどうやって見てるの?

メル美「電子顕微鏡」っていうのがあるんだよね。
こんにちは、Dr. Taro です。 「テクノロジー解説」、今回は電子顕微鏡です。1986年ノーベル物理学賞と2017年ノーベル化学賞の公式発表をもとにまとめました。
光のかわりに「電子」で見る
1986年のノーベル賞の発表によると、
- ドイツのエルンスト・ルスカ博士は、1920年代の終わり、ベルリン工科大学の学生だったころ、磁石のコイルが電子の「レンズ」として働き、電子を当てたものの像をつくれることを見つけました
- 2つの電子レンズを組み合わせて、原始的な顕微鏡をつくりました
- そして1933年、ふつうの光学顕微鏡よりはっきり性能が上の、最初の電子顕微鏡をつくりました
- その後、量産の電子顕微鏡の開発にも貢献し、電子顕微鏡は生物学や医学などで欠かせない道具になりました。発表では「今世紀でもっとも重要な発明の一つ」とされています
原子1個ずつ「なぞる」顕微鏡
- 同じ1986年、スイスの研究所のゲルト・ビーニッヒ博士とハインリッヒ・ローラー博士も、「走査型トンネル顕微鏡」の設計で受賞しました
- これは、とてもとがった針(先端は原子1個)で、ものの表面を、一定の距離をたもちながらなぞる装置です
- 針と表面はふれていないのに、電圧をかけると「トンネル効果」で電流が流れます。電流の強さは距離で大きく変わるので、距離を約10のマイナス7乗センチ(原子2個分ほど)にたもてます
- 針の上下の動きを記録すると、表面の構造を原子1個ずつ調べられます

プレ男先っぽが原子1個の針で、原子の凸凹をなぞる…想像を超えてる!
生命の分子を「凍らせて」見る:クライオ電子顕微鏡
2017年のノーベル化学賞の発表によると、
- 電子顕微鏡は、強い電子線が生物の材料をこわしてしまうため、長いあいだ死んだものを見るのにしか向かないと考えられていました
- リチャード・ヘンダーソン博士は、1990年、電子顕微鏡でたんぱく質の立体の画像を原子レベルでつくることに成功しました
- ヨアヒム・フランク博士は、1975〜1986年、電子顕微鏡のぼやけた2次元の画像をたくさん分析・合成して、くっきりした3次元の構造にする画像処理の方法を開発しました
- ジャック・デュボシェ博士は、1980年代のはじめ、水をとても速く冷やして、液体のまま固める(ガラス化)ことに成功しました。電子顕微鏡の中は真空で、ふつうは水が蒸発して生体分子がつぶれてしまいますが、これで自然な形をたもったまま見られるようになりました
- 2013年には原子レベルの解像度に達し、いまでは生体分子の立体構造をふつうに見られるようになりました。薬剤耐性を起こすたんぱく質から、ジカウイルスの表面まで、さまざまな画像が報告されています
- 動いている途中の生体分子を凍らせて見ることができ、生命の化学の理解と薬の開発に決定的に重要だとしています

電子顕微鏡は、光のかわりに電子を使って、目に見えない小さな世界を写します。生体分子を急速に凍らせて見るクライオ電子顕微鏡で、たんぱく質やウイルスの形まで見えるようになりました。
つながる技術
- たんぱく質の形を AI で予測する AlphaFold。電子顕微鏡で「見る」ことと、AI で「予測する」ことが、生命の分子の理解を進めています
- 薬が効かない菌の問題は ペニシリンってなに?
- 光で画像をとらえるカメラのセンサーは CMOSセンサーってなに?

プレ男「見えない」を「見える」にする技術が、薬の開発まで支えてるんだね。

メル美水を一瞬で凍らせて見るって、発想がおもしろい!
生きた細胞の中のタンパク質を光らせて見る技術は、光るクラゲのタンパク質「GFP」へ。
まとめ
- 電子顕微鏡は、光のかわりに電子を使って小さな世界を写す。磁石のコイルが電子のレンズ
- 1933年、ルスカ博士が光学顕微鏡を超える最初の電子顕微鏡
- 走査型トンネル顕微鏡は、原子1個の針で表面を原子1個ずつなぞる(1986年ノーベル物理学賞)
- クライオ電子顕微鏡は、生体分子を急速に凍らせ、自然な形のまま立体構造を見る(2017年ノーベル化学賞)
- 薬剤耐性のたんぱく質やウイルスの表面まで見え、薬の開発に役立つ
参考文献
- The Royal Swedish Academy of Sciences. Press release: The Nobel Prize in Physics 1986. NobelPrize.org. https://www.nobelprize.org/prizes/physics/1986/press-release/ (閲覧日:2026年10月5日)
- The Royal Swedish Academy of Sciences. Press release: The Nobel Prize in Chemistry 2017. NobelPrize.org. https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2017/press-release/ (閲覧日:2026年10月5日)
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