
プレ男自分のサイトに、見ている人のパソコンで仮想通貨をマイニングするコードを入れたら、罪になるの?

メル美それ、実際に裁判になって、最高裁まで争われたんだって。「ウイルス罪」の条文から読んでみよう。
今回は、不正指令電磁的記録に関する罪(いわゆるウイルス罪)です。刑法(明治40年法律第45号)の条文をe-Gov法令検索で、最高裁判所第一小法廷 令和4年1月20日判決(令和2年(あ)第457号)を裁判所ウェブサイトの原文で確認しました。この記事は一般的な情報です。実際の事件について罪になるかどうかは、警察・検察・裁判所の判断によります。
条文:作る・ばらまく・持つ
| 行為 | 条文 | 刑 |
|---|---|---|
| 正当な理由なく、人のパソコンで実行させる目的で、不正なプログラムを作る・提供する | 168条の2第1項 | 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
| 正当な理由なく、不正なプログラムを人のパソコンで実行させる | 168条の2第2項 | 同上(未遂も罰する) |
| 正当な理由なく、同じ目的で、不正なプログラムを取得する・保管する | 168条の3 | 2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 |
- 対象のプログラムは、「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録」です
- 最高裁は、このうち「意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき」という要件を「反意図性」、「不正な」という要件を「不正性」とよび、2つともそろわないと罪にならないとしました
コインハイブ事件のあらまし(判決より)
- 被告人は、音声合成ソフトで作られた楽曲の情報を共有するウェブサイトを運営していました
- 平成29年(2017年)、閲覧者のパソコンのCPUに、閲覧者の同意を得ないまま、暗号資産モネロの取引履歴の承認作業などの演算(マイニング)をさせるサービス「コインハイブ」に登録し、そのプログラムコードをサイトに置きました。報酬は7割が登録者、3割がサービス側に分配されるしくみでした
- サイトには、マイニングについての説明も、同意を得るしくみも、表示もありませんでした
- CPUの使用率を調整する値は0.5にしていて、消費電力が少し増えたり、処理が遅くなったりするものの、閲覧者が気づくほどではなく、ふつうの広告表示プログラムと有意な差はなかったとされています
| 裁判 | 結論 | 理由のポイント |
|---|---|---|
| 第1審 | 無罪 | 反意図性はある。しかし社会的に許容されていなかったとはいえず、不正性はない |
| 控訴審(原判決) | 有罪・罰金10万円 | 閲覧者に利益がなく、知る機会も拒む機会もない。反意図性も不正性もある |
| 最高裁(令和4年1月20日) | 原判決を破棄、無罪(検察官の控訴を棄却) | 反意図性はあるが、不正性はない |
最高裁の判断
何を守る罪か
- 最高裁は、この罪は、プログラムが意図に反する不正な指令を与えるものではない、という「社会一般の信頼を保護し、ひいては電子計算機の社会的機能を保護する」ためのものだとしました
反意図性:あった
- 反意図性は、「一般の使用者が認識すべき動作と実際の動作が異なる場合」に認められ、プログラムの名前、動作の説明、想定される使い方なども考えて判断する、としました
- そのうえで、同意を得るしくみも説明・表示もなく、マイニングで収益を得るしくみが一般に知られていなかったことから、反意図性は認められるとしました
不正性:なかった
- 不正性は、「社会的に許容し得ないプログラム」について認められ、動作の内容、パソコンの機能や情報処理への影響の程度、使い方などを考えて判断する、としました
- そのうえで、
- 影響は、閲覧中にCPUを一定程度使うだけで、閲覧者が気づくほどではなかった
- サイトの運営者が閲覧を通じて利益を得るしくみは、ウェブの情報の流通にとって重要で、社会的に受け入れられている広告表示プログラムと比べても、影響に有意な差がない
- マイニングそのものは、暗号資産の信頼性を確保するためのしくみで、社会的に許容しえないものとはいいがたい
- として、不正性は認められないと判断しました。裁判官全員一致の意見です

プレ男じゃあ、マイニングのコードなら何を入れても大丈夫ってこと?

メル美そうは言ってないよ。最高裁も、閲覧者に知る機会や拒む機会がないなど「より適切な利用方法等が採り得た」と書いているの。この事件の事実をもとにした判断なんだ。
最高裁が「より適切な方法があった」と書いた点
- 判決は、このマイニングが、閲覧者の同意なくパソコンに一定の負荷を与え、報酬を閲覧者は受け取れず、実行を知る機会や拒む機会も保障されていないなど、プログラムへの信頼という点から「より適切な利用方法等が採り得たものである」とも述べています
- 判断の決め手は、影響の程度(気づかない程度)や、広告と比べた差などのこの事件の具体的な事実でした。影響が大きいもの、だまして入れさせるものなどがどう判断されるかは、それぞれの事実によります
ふだん気をつけたいこと
- 人のパソコンやスマホを勝手に操作したり、パスワードを使ってログインしたりするのは、不正アクセス禁止法の問題になります
- 知らないメールやメッセージのファイル・リンクは開かない。自分が「保管」しただけでも、目的によっては168条の3の罪がありうる、という条文のしくみも知っておきましょう

最高裁は、ウイルス罪になるのは、使う人の意図に反し、しかも社会的に許容しえないプログラムだとしました。コインハイブ事件では、意図に反するとは認めたものの、不正とはいえないとして無罪でした。
まとめ
- ウイルス罪(刑法168条の2・168条の3):不正なプログラムを作る・提供する・実行させると3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金、取得・保管は2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金
- 罪になるには、反意図性(一般の使用者が認識すべき動作と実際の動作がちがう)と、不正性(社会的に許容しえない)の両方が必要(最高裁 令和4年1月20日)
- コインハイブ事件は、第1審無罪→控訴審で罰金10万円→最高裁で無罪
- ただし最高裁も、知る機会・拒む機会がないことなど「より適切な利用方法等が採り得た」と述べている
- ログインの悪用は不正アクセス禁止法、ネットの書き込みは発信者情報開示、迷惑メールは迷惑メール防止法もどうぞ
参考文献
- 刑法(明治40年法律第45号)第168条の2・第168条の3. e-Gov法令検索. https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045 (閲覧日:2026年10月12日)
- 最高裁判所第一小法廷 令和4年1月20日判決(令和2年(あ)第457号 不正指令電磁的記録保管被告事件). 裁判所ウェブサイト. https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-90869.pdf (閲覧日:2026年10月12日)
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。 気になる症状や不安がある場合は、医療機関にご相談ください。