
メル美『外科室』って、お医者さんと患者さんの恋の話なんだって。

プレ男手術室で恋?どういうこと?
今回は、泉鏡花の短編『外科室』です。青空文庫の原文(底本:角川文庫『高野聖』)で読みました。とても短い作品ですが、最後は悲しい結末をむかえます。
作品と作家
| 作品 | 『外科室』 |
| 作者 | 泉鏡花(1873年11月4日〜1939年9月7日) |
| 初出 | 「文芸倶楽部」1895年(明治28年)6月 |
| 構成 | 「上」(病院の外科室)と「下」(9年前の植物園)の2つ |
| 語り手 | 画家の「予」。執刀医の高峰とは、兄弟のように親しい |
- 青空文庫の作家紹介によると、鏡花は尾崎紅葉のもとで小説の修業をし、『夜行巡査』『外科室』の2作が評価されて、本格的な作家生活に入りました。その幽玄で華やかな文体は、川端康成、石川淳、三島由紀夫らに影響をあたえた、とされています
上:麻酔を拒む伯爵夫人
- 語り手の画家は、好奇心から、親友の医学士高峰にむりにたのんで、東京の病院で貴船伯爵夫人の手術を見せてもらうことになりました
- 廊下には、華族や武官、貴婦人たちが心配そうに行き来しています。外科室には、助手3人、立ち会いの医学博士、赤十字の看護婦5人、親族の公爵・侯爵・伯爵たち、そして夫の伯爵
- 白衣の夫人は手術台に横たわっています。手術の前に、腰元(侍女)が「お薬(麻酔)をさしあげます」と言うと、夫人は答えます。「いや、よそうよ」
- 夫や親族がどんなに説得しても、夫人は首をふります。「私はね、心に一つ秘密がある。麻酔剤はうわごとを言うと申すから、それがこわくってなりません」
- 夫の伯爵が「わしにも聞かせられないことなのか」と聞いても、夫人は「はい。だれにも聞かすことはなりません」

プレ男秘密を言ってしまうくらいなら、麻酔なしで手術を受けるってこと!?
「刀を取る先生は、高峰様だろうね」
- 看護婦が「お胸を少し切りますので、動くと危険です」と言うと、夫人は「じっとしているから、切っておくれ」
- そして、目をぱっちりと開いて、はっきりした声で聞きます。「刀を取る先生は、高峰様だろうね!」
- 立ち会いの医学博士は「一時おくれては取り返しがつかない」と、看護婦たちに夫人をおさえるよう命じます
- そのとき、ずっと椅子にすわって平然としていた高峰が立ち上がり、「看護婦、メスを」。おさえようとする看護婦を手でとめて、「それにも及ぶまい」
- 高峰は誓うように言います。「夫人、責任を負って手術します」。夫人は「どうぞ」と答え、青白いほおに、さっと赤みがさしました
「あなたは、私を知りますまい」
- 手術が進んだとき、夫人は「あ」と声をあげ、高峰の右腕に両手ですがりつきます
- 「痛みますか」「いいえ、あなただから、あなただから」
- そして夫人は、高峰を見つめて言います。「でも、あなたは、あなたは、私を知りますまい!」
- 夫人は高峰の持つメスに手をそえ、そのまま自分の命を絶ってしまいます。高峰は真っ青になってふるえながら、「忘れません」と答えました
- 夫人はうれしそうに、あどけない笑みをうかべて、高峰の手から手をはなしました。そのときの2人のまわりには、「天なく、地なく、社会なく、全く人なきがごとくなりし」と鏡花は書いています

メル美「秘密」って、高峰先生のことだったんだ…。
下:9年前の植物園
- 話は9年前にもどります。高峰がまだ医科大学の学生だったころ、語り手と高峰は、5月5日、ツツジの花ざかりの小石川植物園を散歩していました
- 池のまわりで、貴族のおともに囲まれた3人の婦人とすれちがいます。高峰は思わずふり返りました。「見たか」「むむ」
- そのあと、近くのベンチで若い男たちが、いまの婦人の美しさに「あれを見たら、ほかの女なんて」と大さわぎしています。高峰は「真の美の人を動かすことあのとおりさ」と言いました
- それから9年、高峰はあの婦人のことを一言も語らず、地位も年齢も十分なのに妻をもたず、学生のころよりいっそう品行正しく暮らしていた、と語り手は書いています
結び
- 鏡花は最後に、2人が同じ日に前後して亡くなり、青山の墓地と谷中の墓地、場所はちがうが葬られたと書き、こう問いかけます
- 「語を寄す、天下の宗教家、渠ら二人は罪悪ありて、天に行くことを得ざるべきか」(世の宗教家たちに言う。この2人は罪があるから、天国に行けないというのか)

泉鏡花の『外科室』で、伯爵夫人は「麻酔をかけられると、うわごとで秘密を言ってしまう」と、麻酔を拒みます。明治28年の作品です。
まとめ
- 『外科室』は、泉鏡花の短編。1895年(明治28年)6月「文芸倶楽部」初出
- 伯爵夫人は「心に一つ秘密がある」と麻酔を拒み、執刀医が「高峰様」であることを確かめた
- 手術中、夫人は「あなたは、私を知りますまい」と言って命を絶ち、高峰は「忘れません」
- 9年前、学生の高峰と夫人は小石川植物園で一瞬すれちがっただけだった
- 2人は同じ日に亡くなり、鏡花は「2人に罪があるというのか」と問いかけた
- 明治の恋の文学は夏目漱石『こころ』、樋口一葉『たけくらべ』、森鷗外『舞姫』もどうぞ
参考文献
- 泉鏡花. 外科室(初出:「文芸倶楽部」1895年6月。底本:高野聖、角川文庫、1971年改版). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000050/card360.html (閲覧日:2026年10月5日)
- 青空文庫. 作家別作品リスト:泉鏡花(生年・没年、人物について). https://www.aozora.gr.jp/index_pages/person50.html (閲覧日:2026年10月5日)
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