
メル美森鴎外の『じいさんばあさん』は、すごく仲のいい老夫婦の話なの。

プレ男ほのぼの系?でも鴎外だから、なにかありそう…。
今回は、森鴎外の短編『じいさんばあさん』です。青空文庫の本文(底本:新潮文庫『阿部一族・舞姫』)で読みました。本文中の「」の言葉は、青空文庫の本文からの引用です。
※この作品には、人を斬る場面、家族が亡くなる話が出てきます。
麻布の隠居所
- 文化6年の春の暮れ。麻布竜土町、三河の大名・松平家の屋敷のなかで、小さな空き家が修復されていました。家中の宮重久右衛門の、田舎にいた兄が入るのだといいます
- 4月5日、まだ壁も乾ききらないうちに、髪の真っ白な爺いさんがやってきます。腰は少しも曲がらず、立派なこしらえの両刀をさした姿は、どう見ても田舎者らしくない
- 2、3日すると、婆あさんがひとり来て同居しました。これも真っ白な髪を小さな丸髷に結い、爺いさんに負けないほど品がいい。食事は、子どものままごとのように、二人ぶんをこしらえます
「中の好いことは無類」
- 「この翁媼二人の中の好いことは無類である」。近所の者は、あれが若い男女だったら平気で見ていられないだろう、と言いました
- なかには、あれは夫婦ではない、兄妹だろう、と言う人も。「隔てのない中に礼儀があって、夫婦にしては、少し遠慮をし過ぎているようだ」というのです
- 爺いさんは本を読み、細かい字で日記をつけ、毎日同じ時刻に刀の手入れをし、木刀をふる。婆あさんはそのそばで団扇であおぎ、二人はさも楽しそうに話します
- ときどき二人で朝早く出かけるのは、菩提寺の松泉寺。「息子さんが生きていなさると、今年三十九になりなさるのだから」
将軍からの銀十枚
- その年の12月28日、婆あさんは屋敷の主人に呼びだされ、将軍徳川家斉の命を伝えられます。「永年遠国に罷在候夫の為、貞節を尽候趣聞召され、厚き思召を以て褒美として銀十枚下し置かる」
- 爺いさんは、もと大番の美濃部伊織、72歳。婆あさんは、伊織の妻るん、71歳でした

プレ男遠くにいる夫のために、ずっと貞節をつくした…?二人に何があったんだろう。
賢い妻と、癇癪持ちの夫
- 話は、明和のころにさかのぼります。伊織は剣術にすぐれ、字もうまく、和歌のたしなみもある色白の美男。ただ「肝癪持」でした
- 30歳のとき、伊織はるんを妻にむかえます。るんは14歳から尾張家の奥に14年つとめた女性。「るんは美人と云う性の女ではない」。けれど体格がよく、目から鼻へぬけるように賢く、眉や目のあいだに才気があふれていました
- るんは夫をひどく好いて大切にし、78歳の夫の祖母にもやさしくつくします。伊織は好い女房を持ったと満足し、「不断の肝癪は全く迹を斂めて、何事をも勘弁するようになっていた」
刀の披露の夜
- 結婚して4年、伊織は弟の代わりに京都の二条城の勤めにつくことになります。妻のるんは、臨月の身で江戸にのこりました
- 京都で、伊織は質流れの名刀を見つけ、30両を同僚の下島甚右衛門から借りて買います。8月15日の夜、友人たちを招いて刀の披露の宴を開いていると、招かれなかったことを不満に思った下島がやってきます
- 「借財のある身分で刀の披露をしたり、月見をしたりするのは不心得だ」。下島は膳を蹴かえし、「たわけ」とさけびました。その瞬間、伊織の刀がひらめき、下島は額を斬られます
- 友人が伊織を抱きとめて言います。先に刀を抜いたわけを聞いておきたい、と。伊織は涙をうかべ、一首の歌をよみました
いまさらに何とか云はむ黒髪の みだれ心はもとすゑもなし
- 下島は2、3日後に亡くなり、伊織は越前の丸岡へ「永の御預」を仰せつけられました

メル美結婚してからおさまっていた癇癪が、妻のいない京都で…。
ひとりでのこされた妻
- 江戸にのこった家族は、親類に引きとられます。2年ほどして夫の祖母が83歳で亡くなり、翌年には、父の顔を見ることのなかった5歳の息子・平内が、流行の疱瘡で亡くなりました
- るんは、二人を力のかぎり看病して見とどけ、松泉寺に葬ります。そして、一生武家奉公をしようと決めました
- 安永6年の春から、福岡の黒田家の奥につとめ、31年間、4代の奥方に仕えて表使格にまで進みます。そのあいだ、給料のなかから寺にお金を納め、美濃部家の墓に香華を絶やさなかったのです
37年ぶりの再会
- 文化5年、るんは隠居をゆるされ、故郷の安房へ帰ります
- その翌年の文化6年、越前の配所で37年間、人に字や剣術を教えて暮らしていた伊織に、ゆるしが出ました
- それを聞いたるんは、喜んで安房から江戸へ来て、竜土町の家で、37年ぶりに再会したのです——小説はここで終わります

『じいさんばあさん』のるんは、夫が越前に預けられていた37年のあいだ、武家奉公をつづけながら、美濃部家の墓に香華を絶やしませんでした。近所の人が「夫婦にしては、少し遠慮をし過ぎている」と言った二人は、37年ぶりに再会した夫婦でした。
まとめ
- 『じいさんばあさん』は森鴎外の短編
- 文化6年、麻布竜土町の隠居所に越してきた、白髪の老夫婦。仲のよさは「無類」
- 将軍家斉から妻へ、夫への貞節をほめる銀十枚
- 夫美濃部伊織は、京都での刀の披露の夜に同僚を斬り、越前に永の御預
- 妻るんは、祖母と息子を見送り、31年の武家奉公をしながら墓を守る
- 夫72歳、妻71歳、37年ぶりの再会
- 鴎外の雁、舞姫、罪とつぐないの話は菊池寛の恩讐の彼方にもどうぞ
参考文献
- 森鴎外. じいさんばあさん(底本:『阿部一族・舞姫』新潮文庫、新潮社). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000129/card43030.html (閲覧日:2026年10月12日)
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