
プレ男彼女が風邪をひいたって聞くと、なんだか心配で眠れなくなること、あるよね…。

メル美漱石にも、そんな心配性の男の人の話があるの。こわいけど、最後はちょっと笑えるお話だよ。
今回は、夏目漱石の短編「琴のそら音」(ことのそらね)です。青空文庫の本文(底本:ちくま文庫『夏目漱石全集2』)で読みました。本文中の「」の言葉は、青空文庫の本文からの引用です。
幽霊を研究する友人
- 語り手の「余」(靖雄)は、学校を出たばかりの法学士。毎日、夕方まで勤めて、芝から小石川の奥まで帰る毎日です
- 久しぶりに、学生時代の友人・津田君の下宿をたずねると、津田君は「幽霊の本」を、ノートをとりながら熱心に読んでいました
- 「余」は、近く宇野家の娘・露子と結婚することになっていて、新しく家を借り、婆さんを雇って暮らしはじめたところでした
迷信ぶかい婆さん
- 婆さんは、毎月のように伝通院あたりの坊主に占ってもらう「迷信婆々」。引っ越しの方角が悪い、「若い女に祟る」と言われたと、近くお嫁に来る露子のことを心配しています
- 近ごろ、家の近所で野良犬が遠吠えをはじめた。婆さんは、あれはただの鳴き声ではない、何かあるに違いないから用心しなくては、と言うのでした
- そこへ、露子が風邪をひいた。婆さんは、方角のいいところへ早く引っ越してくださいと言います

プレ男犬の遠吠えに、方角に、風邪…。不安になる材料がそろっちゃった。
「インフルエンザ?」
- 「咳嗽は少し出るがインフルエンザなんだもの」と「余」が言うと、津田君は突然大きな声を出しました。「インフルエンザ?」。そして、低い声で「よく注意したまえ」
- 津田君は話します。ついこのあいだ、親戚の若い女性が、インフルエンザから肺炎になって亡くなった。夫は陸軍中尉で、戦地に出征していた
- 妻は、出征の前に誓っていたのです。もしお留守のあいだに病気で死ぬようなことがあっても、「必ず魂魄だけは御傍へ行って、もう一遍御目に懸ります」
- 戦地の夫が、ある朝、妻が持たせてくれた小さな手鏡をのぞくと、鏡の奥に、病気でやつれた妻の青白い姿がスーとあらわれた。調べてみると、妻が息を引きとったのと同じ日の同じ時刻だった——
- 津田君は、遠くはなれた人の脳の細胞が感じあって、こういうことが「理論上あり得る」と、本を示して説明します
雨の夜道
- 津田君の下宿を出ると、外は雨。「余」は露子のことばかり考えながら、暗い道を歩きます
- 極楽水のあたりでは、白い物が近づいてきます。白い布をかけた小さな棺桶を、黒い着物の男が二人でかついでいくのでした。つづいてすれちがった人の「昨日生れて今日死ぬ奴もあるし」「寿命だよ」という声が、胸の中でくりかえされます
- 切支丹坂をこえ、茗荷谷の坂の途中に赤い鮮やかな火が見えたとき、「余」は、はっと露子のことを思いだしました
- 家に飛びこむと、婆さんが言います。「今夜は鳴き方が違いますよ」。明日の朝、四谷へ行ってごらんなさい、きっと何かございますよ、と

メル美何を見ても、露子さんのことにつながっちゃうんだね。
雨戸を叩く音
- 「余」は布団にもぐりこみますが、地をはうような遠吠えの声が気になって眠れません。目に入ったのは、この前、病気の露子が無理に起きて袖口のほころびを縫ってくれた不断着でした
- 突然、だれかが表の雨戸を破れるほどに叩きます。開けると、赤い火を持った巡査が立っていました。「今しがた何かありはしませんか」「何だか黒い影が御門から出て行きましたから……」
- 近ごろこのあたりは物騒で、泥棒がうろついている、毎晩犬が吠えてやかましいでしょう、と巡査は言いました。遠吠えは泥棒のせいとも考えられる——「余」は少しほっとします
翌朝、四谷で
- 「余」は、六時の鐘が鳴るまで一睡もせずに待ち、ぬかるみの道を下駄で四谷へかけつけます
- 露子の母は言いました。露子は、ゆうべ慈善音楽会に行って遅く帰ったので寝坊して、いま顔を洗っている。「インフルエンザは?」「ええ風邪はとっくに癒りました」
- 「どうして、こんなに早く、——何か用事でも出来たんですか」とたずねられて、「余」は、思わず「ええ」と答えてしまい、ひとりで困りはてます。露子には、髭がのびて病人のようだから髪を刈ったら、と言われました
床屋の狸と、春のような笑い声
- 帰りに入った床屋では、職人たちが、狸が人を化かすなんて「みんな催眠術でげす」と書いた妙な本を読んで、大笑いしていました。「こっちがしっかりしていりゃ婆化されるなんて事はねえ」——「余」は、ゆうべは狸に化かされたようなものか、と苦笑いします
- 家に帰ると、門の前に車。様子が変だったと心配した露子が、かけつけてきていたのです。婆さんからゆうべのことを聞いて笑いくずれる露子と婆さんと「余」の笑い声が、家じゅうにひびきました
- 気のせいか、その後、露子は以前よりもいっそう「余」を愛するようなそぶりに見えた。そして、津田君の著書『幽霊論』の72ページには、「K君の例」として、「余」のことが載っている——物語はそう結ばれます

プレ男大さわぎしたけど、それだけ露子さんのことが好きだったってことだね。

夏目漱石の「琴のそら音」で、「余」が一晩じゅう心配した婚約者の露子は、翌朝には「風邪はとっくに癒りました」という元気な姿でした。その後、露子は以前よりいっそう「余」を愛するようなそぶりに見えた、と物語は結ばれます。
まとめ
- 「琴のそら音」は夏目漱石の短編
- 婚約者露子がインフルエンザ。幽霊を研究する津田君の「よく注意したまえ」と、戦地の夫の手鏡の話
- 迷信ぶかい婆さんの「犬の遠吠え」、雨の夜道の棺桶と赤い火
- 一睡もせずに四谷へ。露子は「風邪はとっくに癒りました」
- 床屋の狸の本と、家じゅうにひびく笑い声。津田君の『幽霊論』に「K君の例」として載る
- 夏目漱石のこころ、夢十夜、森鴎外の安井夫人もどうぞ
参考文献
- 夏目漱石. 琴のそら音(底本:『夏目漱石全集2』ちくま文庫). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000148/card1073.html (閲覧日:2026年10月12日)
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