
メル美見た目で陰口を言われていた学者に、町いちばんの美人が自分からお嫁に行ったお話なんだって。

プレ男えっ、どうして?そのわけが知りたい!
今回は、森鴎外の歴史小説「安井夫人」(やすいふじん)です。青空文庫の本文で読みました。初出は1914年(大正3年)4月の「太陽」。江戸時代の儒学者・安井息軒(仲平)と、その妻お佐代をえがいた作品です。本文中の「」の言葉は、青空文庫の本文からの引用です。
「えらくなりなさる」と「不男だ」
- 物語は、こう始まります。「仲平さんはえらくなりなさるだろう」という評判と同時に、「仲平さんは不男だ」という陰口が、清武一郷に伝えられている
- 日向国清武村の安井仲平は、兄の文治と、毎朝書物をふところに畑仕事に出て、ほかの人が煙草休みをするあいだに本を読む少年でした
- 背が高く色白で目鼻立ちのりっぱな兄と、背が低く色が黒く、片目の弟。道で行きあう人は、二人を見くらべてささやきました。仲平がひとりで歩くと、「猿がひとりで行くぜ」とからかわれます
- 仲平は大阪、江戸で学び、昌平黌に入り、28歳で藩主の侍読になって帰郷しました
姉のお豊は「いや」と言った
- 父の滄洲翁は、来年30になる仲平に嫁をとってやりたいと考えます。自分も痘痕があって片目で、異性について苦い経験をしてきた人でした
- 翁が選んだのは、妻の里の川添家の姉娘お豊。妹のお佐代は16歳で若すぎるうえ、「岡の小町」と呼ばれる評判の器量よしでした
- 仲平の姉が、雛祭の支度をしている川添家をたずねて話をもちだすと、お豊はきっぱり言います
- 「わたし仲平さんはえらい方だと思っていますが、ご亭主にするのはいやでございます」

プレ男はっきりことわられちゃった…。
妹のお佐代は「はい」と言った
- 仲平の姉が帰りかけると、川添家の下男が追いかけてきて、呼びもどされます。姉の話を聞いたお佐代が、母のところへ来て、何か言いそうにして言わずにいる、というのです
- 母がたずねます。「仲平さんがお前のようなものでももらって下さることになったら、お前きっと往くのだね」
- お佐代は、耳まで赤くして、「はい」と言い、下げていた頭をいっそう低く下げました
- いちばん意外に思ったのは、婿どのの仲平でした。近所の若い男たちは、「岡の小町が猿のところへ往く」とうわさしました
「繭を破って出た蛾のように」
- 婚礼は、桃の花が散らないうちにすみました。それまで美しいとばかり言われ、人形のように思われていたお佐代は、「繭を破って出た蛾のように」、ひかえめで内気な態度をぬけだし、若い書生たちの出入りする家で、りっぱな夫人になりました
- 学問所の落成の祝いでは、美しくて、しかもきっぱりした若夫人の前に、客の頭が自然に下がった、と鴎外は書いています
質素な暮らし
- 仲平が江戸へ出るたび、お佐代は留守を守ります。やがて江戸に呼びよせられると、女中も使わず、自分で飯を炊き、娘の須磨子が買物に出る暮らしでした
- 形ふりかまわず働いていても、「岡の小町」の面影はどこかにありました。たずねてきた男が、「先生。只今のはご新造さまでござりますか」とおどろき、「あれほどの美人でおいでになって、先生の夫人におなりなされた」のだから、ご新造さまのほうが先生の学問以上のご見識だ、と言うと、仲平は思わず笑いました
- 仲平の学問は世に認められ、ペリーが来航して世の中がさわがしくなるころには、大儒「息軒先生」として天下に名を知られるようになります

メル美お客さんの「先生の学問以上のご見識」って言葉、いいね。お佐代さんは、人を見る目があったんだ。
お佐代さんは何を望んだか
- お佐代は、51歳になった年の正月4日に亡くなりました。夫の仲平が64歳の年です
- 親戚のもとには、お佐代の形見だという木綿縞の袷が一枚残っていました。おそらく、絹物はめったに着なかったのだろう、と鴎外は書きます
- お佐代は、夫につかえて苦労をいといませんでした。りっぱな屋敷も、よい調度も、うまい物も、面白い物も、もとめなかった
- 鴎外は問いかけます。お佐代は何を望んだのか。世間のかしこい人は「夫の栄達」を望んだのだと言うだろう。けれど、商人が資本を出して利益をはかるように、苦労と忍耐を夫に提供して、報酬を得ないうちに亡くなったのだと言うなら、自分はそれに同意できない、と
- 「お佐代さんは必ずや未来に何物をか望んでいただろう。そして瞑目するまで、美しい目の視線は遠い、遠い所に注がれていて、あるいは自分の死を不幸だと感ずる余裕をも有せなかったのではあるまいか」
- お佐代が亡くなって6か月後、仲平は江戸城に召され、将軍に謁見します。お佐代は、その日を見ることはありませんでした

森鴎外の「安井夫人」で、姉が「ご亭主にするのはいや」とことわった縁談に、16歳のお佐代は耳まで赤くして「はい」と答えました。鴎外は、お佐代の望みを「夫の栄達」とだけ言いきることを避けています。
まとめ
- 「安井夫人」は森鴎外の歴史小説。初出は1914年4月の「太陽」
- 「えらくなりなさる」と「不男だ」の両方を言われた学者・安井仲平(息軒)
- 姉のお豊は「ご亭主にするのはいや」。16歳の妹「岡の小町」お佐代は、耳まで赤くして「はい」
- 「繭を破って出た蛾のように」りっぱな夫人になり、質素な暮らしで夫を支えた
- お佐代の視線は「遠い、遠い所に注がれていて」——望みは夫の栄達だけだったのか
- 森鴎外のじいさんばあさん、雁、舞姫もどうぞ
参考文献
- 森鴎外. 安井夫人. 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000129/card696.html (閲覧日:2026年10月12日)
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。 気になる症状や不安がある場合は、医療機関にご相談ください。