
プレ男ヘクトルって、アキレウスにたおされた、トロイアの英雄だよね。

メル美うん。『イリアス』には、ヘクトルが奥さんと赤ちゃんとお別れする、すごく有名な場面があるの。
こんにちは、Dr. Taro です。 神話の解説、今回はギリシャ神話のヘクトルです。ホメロス『イリアス』6巻(A.T.マレー英訳、1924年、ペルセウス・デジタル・ライブラリー)を中心に読みました。ギリシャ神話の全体はギリシャ神話の入門へ。

ベンジャミン・ウェスト「アンドロマケと別れるヘクトル:アステュアナクスのおびえ」1766年。ペンとインク、淡彩。メトロポリタン美術館所蔵(パブリックドメイン)
プロフィール
| 父 | トロイアの老王プリアモス |
| 母 | ヘカベ(6巻で、ヘクトルが母や父の悲しみを語る場面に名前が出る) |
| 妻 | アンドロマケ。キリキアの王エエティオンの娘 |
| 子 | ヘクトルは「スカマンドリオス」とよび、ほかの人は「アステュアナクス(町の王)」とよんだ |
| さいご | アキレウスに討たれた |
1. 城門での出会い
『イリアス』6巻です。
- 戦いのさなか、町にもどったヘクトルは、家に妻がいないので、侍女にたずねました。妻アンドロマケは、トロイア軍がおされていると聞いて、子どもと乳母をつれて、城壁へかけていったのでした
- ヘクトルがスカイア門まで来ると、アンドロマケがかけよってきました。乳母のうでには、「美しい星のような」赤ちゃんがだかれていました
- ヘクトルはこの子を「スカマンドリオス」とよびましたが、ほかの人びとは「アステュアナクス(町の王)」とよびました。「ヘクトルだけが、イリオス(トロイア)をまもっていたから」です
- ヘクトルは、だまって子を見て、ほほえみました
2. 「あなたが、わたしのすべて」
- アンドロマケは、ヘクトルの手をとって泣きました。「あなたのその勇気が、あなたの命とりになります。この子のことも、もうすぐ夫をなくすわたしのことも、あわれに思ってくれないのですか」
- アンドロマケには、もう家族がいませんでした。父も7人の兄弟も、アキレウスに討たれ、母も亡くなっていました
- 「ヘクトル、あなたは、わたしの父であり、母であり、兄弟であり、そして、わたしの夫です。どうか、ここで城壁にとどまってください。この子をみなしごに、わたしをやもめにしないで」

メル美家族をみんななくしたアンドロマケにとって、ヘクトルが最後の家族なんだね…。
3. 「にげることはできない」
- ヘクトルは答えました。「わたしも、それを思っている。けれども、おくびょう者のように戦いからはなれたら、トロイアの人びとに顔むけができない。わたしの心も、それをゆるさない」
- 「いつか、聖なるイリオスがほろびる日が来ることを、わたしは知っている。でも、トロイアの人びとや、母や父や兄弟たちの悲しみよりも、わたしの心をいためるのは、おまえの悲しみだ。だれかに、自由をうばわれてつれていかれる日のことだ」
4. かぶとをぬいだ父
- そう言うと、ヘクトルは子をだこうとうでをのばしました。ところが赤ちゃんは、父のかぶとの青銅と、ゆれる馬の毛の羽かざりをこわがって、泣きながら乳母の胸にしがみつきました
- 「それを見て、父と母は声をあげてわらった」。ヘクトルはすぐにかぶとをぬいで、光るかぶとを地面におき、わが子に口づけし、うでにだいてあやしました
- そして、ゼウスとほかの神々に祈りました。「この子も、わたしのように、トロイアでいちばんすぐれた者になりますように。いつか戦いから帰ってきたとき、『父よりずっとりっぱだ』と言われますように。そして、母の心がよろこびますように」

プレ男戦争の物語なのに、赤ちゃんがかぶとをこわがって、パパとママがわらう…。ふつうの家族の場面だね。
5. 涙の中のほほえみ
- ヘクトルが子を妻のうでにかえすと、アンドロマケは「涙の中でほほえみながら」子をうけとりました。ヘクトルはそれを見てあわれに思い、妻をなでて言いました
- 「いとしい妻よ、あまり悲しまないでおくれ。運命をこえて、わたしを冥界へ送れる者はいない。けれども、生まれてきた者は、おくびょう者も勇者も、だれも運命からのがれることはできない」
- ヘクトルはかぶとをかぶり、アンドロマケは何度もふりかえりながら家へ帰りました。家では、侍女たちが、まだ生きているヘクトルのために、なげきの声をあげました。「ヘクトルは、もう戦いから生きて帰らないだろう」と思ったからです

『イリアス』6巻では、かぶとをこわがって泣く子を見て父と母はわらい、ヘクトルはかぶとをぬいで、わが子に口づけしてから神々に祈りました。
6. そのあと
- ヘクトルは、アキレウスの親友パトロクロスを討ち、やがて、そのいかりにもえたアキレウスに討たれました
- 『イリアス』の最後の24巻では、父プリアモスが、ひとりでアキレウスのもとへ行き、ヘクトルのなきがらをかえしてもらいます。物語は、「こうして、馬をならすヘクトルの葬儀はおこなわれた」という一文で終わります(くわしくはアキレウス)
まとめ
- ヘクトルは、トロイアをまもった王子。老王プリアモスの子
- 戦いへもどる前、城門で妻アンドロマケと赤ちゃんアステュアナクスに会った
- 「ここにいて」とたのむ妻に、にげることはできないと答えた
- かぶとをこわがる子を見て父と母はわらい、ヘクトルはかぶとをぬいで、子のために祈った
- のちにアキレウスに討たれ、『イリアス』はヘクトルの葬儀で終わる
- 妹で予言者のカッサンドラ、ヘクトルを討ったアキレウス、トロイアを攻めたオデュッセウス、ギリシャ神話の入門もどうぞ
参考文献
- Homer. The Iliad(英訳:A. T. Murray、1924年), 6.237–252, 369–502; 18.78–96; 24.777–804. Perseus Digital Library. https://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus:text:1999.01.0134:book=6:card=390 (閲覧日:2026年10月10日)
- メトロポリタン美術館. Benjamin West, Hector taking leave of Andromache: the Fright of Astyanax, 1766(2000.243、パブリックドメイン). https://www.metmuseum.org/art/collection/search/340717 (閲覧日:2026年10月10日)
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