
プレ男イシュタルって、ゲームだとすごく強い女神さまだよね!

メル美愛の女神で、戦いの女神でもあるんだって。死者の国へおりていく話もあるの。
こんにちは、Dr. Taro です。 神さまの解説、今回はメソポタミア神話のイシュタルです。大英博物館のE.A.ウォリス・バッジ『バビロニアの洪水伝説』(プロジェクト・グーテンベルク)と、モリス・ジャストロウ『バビロニアとアッシリアの宗教』(1898年、プロジェクト・グーテンベルク)の英訳と解説を読みました。メソポタミア神話の全体はメソポタミア神話の入門へ。

「円筒印章と現代の押し型:イシュタルに近づく、祈る女神と、そなえものを運ぶ人」紀元前2千年紀のはじめごろ、古バビロニア時代。赤鉄鉱。メトロポリタン美術館所蔵(パブリックドメイン)
プロフィール
| 立場 | 愛と豊かさ、そして戦いの女神。金星の女神(ジャストロウ) |
| 父 | 『ギルガメシュ叙事詩』では天の神アヌ、「冥界下り」では月の神シン(ジャストロウは、2つの言い伝えがあると説明) |
| 若い夫 | タンムズ |
| ライバル | 死者の国の女王アラトゥ |
| 持ちもの | 首のラピスラズリの飾り(洪水の話) |
1. ギルガメシュへの求婚
『ギルガメシュ叙事詩』第6の粘土板です(くわしくはギルガメシュ)。
- 戦いから帰ったギルガメシュが、よろいをあらい、髪をととのえ、王冠をかぶると、女神イシュタルはその姿に目をとめて言いました
- 「ギルガメシュよ、わたしの夫になって。ラピスラズリと金の戦車を用意しましょう。車輪は金、角は宝石。毎日、力強い馬をつなぎましょう」
- 「わたしたちの家に入れば、王座にすわる者たちがあなたの足に口づけし、王も貴族も、あなたの前に背をかがめるでしょう」
- ところがギルガメシュは、長い言葉でことわります。バッジのまとめによると、ギルガメシュは、女神の愛は「風と嵐を入れてしまう戸」「中の戦士をほろぼすとりで」のようだと言い、女神に愛された者たちがどんな目にあったかをならべました
- 若いころの恋人タンムズのためには、年ごとになげきの祭りがひらかれている
- 鳥は翼を折られ、ライオンはほろぼされ、馬はむちと拍車で追いたてられた
- 「あなたはわたしを愛して、彼らと同じようにあつかうつもりか」

プレ男女神さまのプロポーズを、こんなにはっきりことわるなんて…!
2. 天の牛
- イシュタルは怒って天へのぼり、父アヌと母アントゥにうったえました。「ギルガメシュがわたしをのろい、わたしのおこないを言いふらした」。そして、ギルガメシュをほろぼすために「天の牛」を作ってほしい、聞いてくれなければ、ほろびのわざをおこなう、とせまります
- アヌは天の牛を作り、ウルク(エレク)の町へ送りました。牛は多くの人びとをほろぼします
- ギルガメシュとエンキドゥは牛をたおしに出かけ、エンキドゥがしっぽをつかみ、ギルガメシュが首と角のあいだを打って、2人で牛をたおしました
- ギルガメシュは、職人たちを集めて、牛の角の大きさにおどろかせ、その角をルガルバンダの神殿にかけました
- のちにエンキドゥが亡くなると、ギルガメシュは、2人で天の牛をたおしたことを思い出しながらなげきます(第8の粘土板)
3. 「帰ることのない国」へ
ここからは、「イシュタルの冥界下り」とよばれる話です。ジャストロウの英訳で読みました。
- 「帰ることのない国、暗闇の国へ、月の神シンの娘イシュタルは心を向けた。いちど入ったら、だれも出てこない家。光をうばわれた者たちの住む家。ちりが食べもの、泥が食事。鳥のように羽の衣を着て、暗闇にすむ。門にもかんぬきにも、ちりがつもっている」
- 門に着いたイシュタルは、門番に言いました。「門番よ、門をあけなさい! あけないなら、戸をこわし、かんぬきを折り、死者をよみがえらせて、生きている者を食べさせましょう」
- 門番は「女王さま、おやめください。アラトゥ女王に、あなたのお名前を伝えてきます」と答えます。イシュタルが来たと聞いたアラトゥはなげき、「古いおきてのとおりにあつかいなさい」と命じました
4. 7つの門
- 門番は、イシュタルを第1の門に通し、頭の大きな冠をとりました。「門番よ、なぜわたしの冠をとるのですか」「お入りください、女王さま。それがアラトゥのおきてです」
- 第2の門では耳飾り、第3の門では首飾り、それからも門ごとに、衣の一部、胸の飾り、宝石の帯、腕輪と、1つずつとりあげられ、第7の門で、身につけていたものはすべてなくなりました。イシュタルは門ごとに同じことを聞き、門番も同じ答えをくりかえします
- ジャストロウは、飾りを1つずつとられていくのは、草木がだんだんかれていくことをあらわしている、と解説しています
- アラトゥは使いのナムタルに、イシュタルを病でうたせました。イシュタルが死者の国にいるあいだ、地上では、家畜も人間も、いのちがふえなくなりました。神々は「イシュタルは地の下へおりて、のぼってこない」となげきます

メル美女神がいなくなると、地上のいのちが止まってしまうんだ…。
5. エアの助けと、いのちの水
- 太陽の神シャマシュは、知恵の神エアに助けを求めます。エアは、その知恵で「ウッドゥシュ・ナミル」という者を作りました。ジャストロウによると、その名は「光の再生」という意味です
- エアは言います。「帰ることのない国の門へ行け。7つの門は、おまえのためにひらかれる。偉大な神々の名をとなえて、アラトゥに「スハル・ジク」を求めよ」
- ジャストロウによると、「スハル・ジク」は、死者をよみがえらせる、ふしぎな泉の水の名前らしい、といいます
- アラトゥは怒ってウッドゥシュ・ナミルをのろいますが、エアの命令にはさからえません。「ナムタルよ、イシュタルにいのちの水をふりかけて、つれていけ」
- イシュタルは7つの門をもどり、門ごとに、とりあげられたものを返されて、もとの美しい姿で地上へもどりました
- 話の終わりには、若い夫タンムズに、きよい水と高価な油をそなえ、なげきの歌と笛でとむらうように、という言葉がつづきます。ジャストロウは、この終わりの部分の解釈は仮のものだと書いています

ジャストロウは、イシュタルが7つの門で飾りを1つずつとられていくのは、草木がだんだんかれていくことをあらわしている、と解説しています。
まとめ
- イシュタルは、愛と豊かさ、戦いの女神。金星の女神でもある
- ギルガメシュに結婚をことわられ、父アヌに天の牛を作らせたが、ギルガメシュとエンキドゥにたおされた
- 「帰ることのない国」へおり、7つの門で冠や飾りを1つずつとりあげられた。そのあいだ、地上のいのちはふえなくなった
- 知恵の神エアの助けで、いのちの水をふりかけられて地上へもどった
- 大洪水では、人びとのためになげいた女神としても登場する(ウトナピシュティム)
- ギルガメシュ、メソポタミア神話の入門もどうぞ
参考文献
- E.A. Wallis Budge. The Babylonian Story of the Deluge and the Epic of Gilgamish, with an Account of the Royal Libraries of Nineveh. The Sixth Tablet; The Eighth Tablet; Eleventh Tablet, lines 117–124, 163–170. Project Gutenberg. https://www.gutenberg.org/ebooks/7096 (閲覧日:2026年10月10日)
- Morris Jastrow. The Religion of Babylonia and Assyria(1898年). Chapter XXV(The Views of Life After Death)の「Descent of Ishtar」の訳と解説. Project Gutenberg. https://www.gutenberg.org/ebooks/20758 (閲覧日:2026年10月10日)
- メトロポリタン美術館. Cylinder seal and modern impression: suppliant goddess and offering bearer approaching Ishtar, three columns of inscription, Old Babylonian, ca. early 2nd millennium BCE(1999.325.21、パブリックドメイン). https://www.metmuseum.org/art/collection/search/327617 (閲覧日:2026年10月10日)
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