
メル美『老妓抄』は、年をとった芸者さんの話なの。最後に出てくる短歌が、心にしみるの。

プレ男芸者さんの恋の話?
今回は、岡本かの子の短編『老妓抄』(ろうぎしょう)です。青空文庫の本文(底本:新潮文庫『老妓抄』)で読みました。本文中の「」の言葉は、青空文庫の本文からの引用です。
※この作品には、心中を考えた思い出話が出てきます。
老妓・小その
- 本名は平出園子、職業上の名は小その。作者は「ただ何となく老妓といって置く方がよかろう」と書きます
- 真昼の百貨店を、憂鬱な顔で歩きまわる。けれど座敷で好敵手が見つかると、いくらでも快活にしゃべりだし、若い芸妓たちは「姐さん、頼むからもう止してよ。この上笑わせられたら死んでしまう」と脇腹をおさえるのでした
- 老妓は、若い芸妓たちに言います。「何人男を代えてもつづまるところ、たった一人の男を求めているに過ぎないのだね」。この男、あの男と牽かれたのは、その求めている男の「一部一部の切れはし」だったのだ、と
電化した家と、電気工の青年
- 財産もでき、座敷も自由に選べるようになった十年ほど前から、老妓は「健康で常識的な生活」を望むようになり、遠縁の子を養女(みち子)にして女学校へ通わせ、和歌や新しい稽古事を始めます
- 家を電化すると、老妓は、水を入れるとたちまち湯になる装置などに「心が新鮮に慄える」のでした。「あたしたちのして来たことは、まるで行燈をつけては消し、消してはつけるようなまどろい生涯だった」
- 修理に来るようになった電気工の青年が、柚木。快活で事もなげな青年は、仕事がチャチだと言われて答えます。「パッションが起らないからねえ」——君たちの社会の言葉でいうなら、「いろ気が起らない」ということだ
「食べる方は引受けるから」
- パッションとやらが起らずに勤めてきた、生涯の座敷の数々。老妓は、自分の生涯に「憐みの心」が起こりました
- どんな仕事ならいろ気が起るのか。柚木は、発明をして特許をとり、金をもうけることだと言います
- 「食べる方は引受けるから、君、思う存分にやってみちゃどうだね」。老妓は家作の一つを工房にして、研究の機械も買ってやりました

プレ男「パッション」がないと聞いて、それなら養ってあげる、って…。すごい人だね。
熱を失っていく青年
- 半年ほどは、柚木の幸福感がつづきました。けれど、同じような考案はすでに特許されている、社会に求められるかもわからない。そしてなにより、生活の心配のない単調な毎日の中で、柚木は熱を失っていきます
- 「いくら探してみてもこれ以上の慾が自分に起りそうもない、妙に中和されてしまった自分を発見して柚木は心寒くなった」
- それにひきかえ、老妓は「次から次へと、未知のものを貪り食って行こうとしている」
- 老妓は柚木を見て言います。「まあ、魚にしたら、いきが悪くなったように思えるんだが、どうかね」「そんなときは、何でもいいから苦労の種を見付けるんだね」
荒川の土手で
- 老妓は、柚木の「退屈の慰労会」として、若い芸妓たちとみち子をつれて、荒川放水路のあたりへ出かけます
- 昔、囲われていた時分、男と土手下の合歓の並木の陰で逢っていた。「私たちは一度心中の相談をしたことがあったのさ」。けれど、川に流れてきた心中の亡骸を見て、男は「やめよう」と言った
- 一方、みち子は、柚木をめぐって芸妓たちと張りあうように、動揺していました
「一途な姿を見たい」
- 柚木とみち子のあいだに、なにかが生まれかけます。それを知った老妓は、柚木に言いにきました
- 本当に性が合って、心の底から惚れあうのなら大賛成。けれど「切れっぱしだけの惚れ合い方」なら、つまらない。自分も一生、そんなことばかりで苦労してきた
- 「仕事であれ、男女の間柄であれ、混り気のない没頭した一途な姿を見たいと思う。私はそういうものを身近に見て、素直に死にたいと思う」
- 柚木はその晩、旅に出ます。老妓が、自分にできなかったことを自分にさせようとしているのだ、とわかってきたのです。「たいへんな老女がいたものだ」

メル美自分ができなかった「一途な生き方」を、若い人に託していたんだね…。
逃げだす青年
- それから柚木には、たびたび逃げだす癖がつきました。みち子が知らせても、老妓は「うっちゃってお置き」と、けろりとした顔
- けれど、すぐに電気器具商の蒔田に電話をかけて、柚木をさがしてくれとたのみます。電話をきると、「やっぱり若い者は元気があるね。そうなくちゃ」とつぶやいて、目がしらに袖口をあてました
- 「彼女は柚木が逃げる度に、柚木に尊敬の念を持って来た」
一首の歌
- 真夏のころ、作者のもとに、老妓から和歌の添削の詠草が届きます。そのなかの一首が、最近の老妓の心境をうかがわせるものだった、と作者は紹介して、小説は終わります
年々にわが悲しみは深くして いよよ華やぐいのちなりけり

『老妓抄』の老妓は、柚木に「混り気のない没頭した一途な姿を見たいと思う」と語ります。小説は、老妓の一首「年々にわが悲しみは深くして いよよ華やぐいのちなりけり」で結ばれます。
まとめ
- 『老妓抄』は岡本かの子の短編
- 「何人男を代えても……たった一人の男を求めているに過ぎない」老妓・小その
- 「パッションが起らない」電気工の青年柚木の発明を、老妓が養う
- 満ちたりた暮らしで熱を失う柚木に、「苦労の種を見付けるんだね」
- 「混り気のない没頭した一途な姿を見たい」——逃げだす柚木に、老妓は尊敬の念を持つ
- 結びの一首「年々にわが悲しみは深くして いよよ華やぐいのちなりけり」
- 岡本かの子の鮨、太宰のおさん、鴎外のじいさんばあさんもどうぞ
参考文献
- 岡本かの子. 老妓抄(底本:『老妓抄』新潮文庫、新潮社). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/card447.html (閲覧日:2026年10月12日)
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