
プレ男桜って、お花見で楽しいイメージしかないけど…。

メル美坂口安吾の『桜の森の満開の下』は、「それは嘘です」から始まるんだよ。
今回は、坂口安吾の短編『桜の森の満開の下』です。青空文庫の原文(底本:『坂口安吾全集5』ちくま文庫、筑摩書房。初出は『肉体』第一巻第一号、昭和22年(1947年)6月)で読みました。
※この話には、人が殺される場面など、残酷な描写があります。この記事では、くわしい描写は省いています。
「これは嘘です」
- 物語は、こう始まります。桜が咲くと、人々は酒や団子を手に花の下を歩いて浮かれますが、「これは嘘です」
- 大昔は、桜の花の下は怖ろしいと思っても、絶景だなどとはだれも思わなかった。「桜の花の下から人間を取り去ると怖ろしい景色になります」と語り手は言います
- むかし、鈴鹿峠には、旅人が桜の森の花の下を通らなければならない道がありました。花の季節になると、旅人はみな気が変になり、仲のよかった連れも見すてて走って逃げます。やがてだれも通らなくなり、桜の森は山の静けさにとりのこされました
山賊と、美しい女
- その山に、むごたらしい山賊が住みつきました。そんな男でも、桜の森の花の下では怖くなり、「花というものは怖しいものだな」と思っていました
- 来年、花が咲いたら考えてやろう。そう思いながら十何年。女房は7人になっていました
- ある日、山賊は街道で、あまりに美しい女をつれた旅人に出会い、思わずその夫を斬って、女を8人目の女房にします
- 女は「歩けないからオブっておくれ」と背中からおりず、「早く、走っておくれ」と言いつづけます。山賊は、くたくたになりながらも幸福でした
わがままな女と、「美」という魔術
- 家に着くと、女は7人の女房を見て、「あの女を斬り殺しておくれ」と言います。山賊はそのとおりにしてしまいました
- 女は、どんなごちそうにも不服を言い、「都の風」を恋しがります。櫛や笄、着物を大切にし、いくつもの着物と紐と飾りで、ひとつの姿をつくりあげていきます
- 山賊は、それを「一つの妙なる魔術」のように感じ、自分もその魔術の力になりたいと願うのでした

メル美こわい話なのに、山賊が女の美しさに夢中になっていくところは、なんだか切ないね。
桜の森と、女の「苦笑」
- 女は、「お前が本当に強い男なら、私を都へ連れて行っておくれ」と言います。山賊は都へ行くことを決めますが、そのまえに、ひとつだけ気がかりがありました。桜の森です
- 今年こそ、満開の花の下で、じっと坐っていてみせる。そう決めた山賊に、女は「私も花の下へ連れて行っておくれ」と言いますが、山賊は「一人でなくちゃ、だめなんだ」
- 女は苦笑しました。山賊は、こんな笑いを初めて見ました。満開の森に入ると、その苦笑が頭を斬り、山賊は泣き、もがき、逃げだしてしまいます
都と、「キリがない」
- 都で暮らしはじめた山賊は、女の望むままに夜ごと邸宅へ忍びこみます。女のいちばんほしがったものは、恐ろしいものでした
- 都の人々は山賊をばかにし、山賊は退屈に苦しみます。女の欲望にはキリがなく、それは、休むひまなく空をまっすぐ飛びつづける鳥のようでした
- 山賊は女のたのみを「俺は厭だよ」「キリがないから厭になったのさ」とことわり、山をさまよいます。そして、一本の満開の桜の下で目をさまし、「山へ帰ろう」と思うのでした
満開の下で
- 山へ帰ると言う山賊に、女は初めて涙を見せ、「私はたとえ一日でもお前と離れて生きていられないのだもの」と言って、いっしょに山へ帰ることにします
- 山賊は女を背負って、あの桜の森を通る旧道を行きます。初めて女を背負った日のことを思い出し、今日の幸せはもっと豊かだと思いました
- 満開の花の下へ歩きこむと、背中の女の手が冷たくなっていきます。山賊は、女が鬼であることを悟り、夢中で組みつきます。そして気がつくと、そこにあったのは、息絶えた女の姿でした
- 山賊は初めて泣きました。そして初めて、桜の森の満開の下に、じっと坐っていました。「彼はもう帰るところがないのですから」
- 「桜の森の満開の下の秘密は誰にも今も分りません。あるいは『孤独』というものであったかも知れません」

プレ男最後は、花びらと「冷めたい虚空」だけが残るんだね…。次のお花見で思い出しちゃいそう。

『桜の森の満開の下』は、桜の花の下から人を取り去ると怖ろしい景色になる、という語りから始まります。最後に語り手は、その秘密は「孤独」というものであったかもしれない、と書いています。
まとめ
- 『桜の森の満開の下』は、坂口安吾の短編(初出は昭和22年『肉体』)
- 「花見が陽気なのは嘘」——鈴鹿峠の桜の森は、旅人が気が変になる怖ろしい場所
- 残忍な山賊が、美しい女をさらって女房にし、そのわがままにふりまわされ、都へ移り住む
- 女の欲望の「キリのなさ」に疲れた山賊は、女を背負って山へ帰る途中、満開の桜の下で——
- その秘密は「孤独」というものだったかもしれない
- 文学の愛と献身は谷崎潤一郎『春琴抄』、夏目漱石『夢十夜』、山の美しい女の話は雪女もどうぞ
参考文献
- 坂口安吾. 桜の森の満開の下(底本:『坂口安吾全集5』ちくま文庫、筑摩書房). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/card42618.html (閲覧日:2026年10月12日)
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。 気になる症状や不安がある場合は、医療機関にご相談ください。