
プレ男「藪の中」って、芥川龍之介の小説の題名なんだよね?

メル美そう。3人がそれぞれ「自分が殺した」って言う、ふしぎな話なの。
今回は、芥川龍之介の短編『藪の中』です。青空文庫の本文(底本:ちくま文庫『芥川龍之介全集4』)で読みました。初出は『新潮』1922年(大正11年)1月、本文の末尾には「(大正十年十二月)」とあります。本文中の「」の言葉は、青空文庫の本文からの引用です。
※この作品には、殺人、性暴力、自ら命を絶とうとする場面がえがかれています。
7つの語り
『藪の中』には、地の文がありません。検非違使(都の治安を守る役人)に問われた人々の証言と、当事者の告白が、7つ並んでいるだけです。
| 語り手 | 語ること | |
|---|---|---|
| 1 | 木樵り | 死骸を見つけた |
| 2 | 旅法師 | きのう、男と馬に乗った女を見た |
| 3 | 放免 | 盗人の多襄丸を捕らえた |
| 4 | 媼 | 死んだ男と娘のこと |
| 5 | 多襄丸の白状 | 「あの男を殺したのはわたしです」 |
| 6 | 清水寺に来れる女の懺悔 | 夫を小刀で刺した |
| 7 | 巫女の口を借りたる死霊の物語 | 自分で胸を刺した |
証人たちの話
- 木樵り:けさ、山科の駅路から四五町はなれた藪の中で、死骸を見つけた。胸の突き傷で、まわりの竹の落ち葉は血に染まっていた。太刀などはなく、杉の根もとに縄が一筋、それから櫛が一つ
- 旅法師:きのうの昼ごろ、その男が、馬に乗った女と歩いているのを見た。女は牟子(顔をかくす布)をたれていて、顔はわからない。男は太刀を帯び、弓矢を持っていた
- 放免(検非違使の下で働く者):捕らえたのは、名高い盗人の多襄丸。馬から落ちて、粟田口の石橋の上でうめいていた。死骸の男が持っていた弓矢を持ち、馬もいた
- 媼:死んだのは娘の夫で、若狭の国府の侍、金沢の武弘、26歳。娘の名は真砂、19歳。「男にも劣らぬくらい、勝気の女」。娘の行方をさがしてください——と泣きくずれます
多襄丸の白状:「二十三合目に」
- 「あの男を殺したのはわたしです。しかし女は殺しはしません」
- 風で牟子がめくれ、ちらりと見えた女の顔が「女菩薩のように見えた」。古塚から出た宝を藪に埋めてあると夫婦をだまして山へつれこみ、男を杉の根にしばりつけ、女を手に入れた——
- 男を殺すつもりはなかった。ところが女が腕にすがりつき、「あなたが死ぬか夫が死ぬか、どちらか一人死んでくれ」、生き残った男につれ添いたい、と言った
- 多襄丸は男の縄をといて太刀打ちをさせ、「わたしの太刀は二十三合目に、相手の胸を貫きました」。ふり返ると、女はどこにもいなかった
- 「どうか極刑に遇わせて下さい」(昂然たる態度)

プレ男盗人は、正々堂々と斬りあって殺した、って言ってるんだね。
女の懺悔:「殺せ。」
- 清水寺に来た女(真砂)は、まったくちがう話をします
- 盗人に手ごめにされたあと、しばられた夫の目には、怒りでも悲しみでもない、「ただわたしを蔑んだ、冷たい光」があった
- 気がつくと、盗人はもういない。女は夫に言います。「あなたはわたしの恥を御覧になりました。わたしはこのままあなた一人、お残し申す訳には参りません」
- 足もとの小刀をふりあげると、笹の葉で口をふさがれた夫の唇が動いた。「夫はわたしを蔑んだまま、「殺せ。」と一言云ったのです」
- 女は夫の胸に小刀を刺しとおし、自分も死のうとしますが、死にきれませんでした。「一体わたしは、——わたしは、——」(突然烈しき歔欷)
死霊の物語:「一突きにおれの胸へ」
- 最後は、巫女の口を借りた武弘の死霊です
- 盗人は妻をなぐさめ、自分の妻になれと口説いた。妻は「うっとりと顔を擡げ」、「ではどこへでもつれて行って下さい」と答えた
- それだけではない。妻は自分を指さして「あの人を殺して下さい」と何度もさけんだ。これを聞いた盗人さえ顔色を失い、妻を蹴倒して、「殺すか、それとも助けてやるか?」と夫にたずねた。「おれはこの言葉だけでも、盗人の罪は赦してやりたい」
- 妻は藪の奥へ逃げ、盗人も去った。泣き声が聞こえると思ったら、自分の泣き声だった
- 「おれの前には妻が落した、小刀が一つ光っている。おれはそれを手にとると、一突きにおれの胸へ刺した」
- そして、だれかが忍び足でそばに来て、胸の小刀をそっと抜いた——。物語はここで終わります

メル美盗人は「斬った」、妻は「刺した」、夫は「自分で刺した」。そして、最後に小刀を抜いたのはだれ?
食いちがう3つの話
| 多襄丸 | 真砂(妻) | 武弘(死霊) | |
|---|---|---|---|
| 殺したのは | 多襄丸(太刀で) | 真砂(小刀で) | 武弘自身(小刀で) |
| 女が言ったこと | どちらか一人死んでくれ | (夫に)お命を頂かせて下さい | あの人を殺して下さい |
| 女のその後 | いなくなった | 死にきれなかった | 藪の奥へ逃げた |
- 本文には、だれの話が本当なのかは書かれていません。木樵りが見た縄と櫛、なくなった太刀、だれかが抜いた小刀——手がかりは本文の中に散らばっているだけです
- 3人とも、自分が殺したと語っています。多襄丸は「二十三合目」の太刀打ちを「感心だと思っている」と言い、真砂は夫の「殺せ。」の一言を、武弘は妻の「あの人を殺して下さい」を語ります

『藪の中』には地の文がなく、7つの証言と告白が並ぶだけです。多襄丸・真砂・武弘の死霊の3人は、それぞれちがう形で武弘の死を語り、どれが本当かは本文に書かれていません。
まとめ
- 『藪の中』は芥川龍之介の短編。初出は『新潮』1922年1月
- 山科の藪で見つかった金沢の武弘の死骸。地の文はなく、7つの語りが並ぶ
- 多襄丸:二十三合目に太刀で胸を貫いた
- 真砂:夫の「殺せ。」の一言で、小刀を刺しとおした
- 武弘の死霊:妻の「あの人を殺して下さい」に打ちのめされ、自分で胸を刺した
- どれが真相かは、本文に書かれていない
- 芥川の舞踏会、秋もどうぞ
参考文献
- 芥川龍之介. 藪の中(底本:『芥川龍之介全集4』ちくま文庫、筑摩書房). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card179.html (閲覧日:2026年10月12日)
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