
プレ男『夜行巡査』って、夜の見まわりのおまわりさんの話?

メル美そう。でも、ただの警察の話じゃないの。恋と、ぞっとするような執念の話なんだ。
今回は、泉鏡花の短編『夜行巡査』です。青空文庫の本文(底本:角川文庫『高野聖』)で読みました。初出は『文芸倶楽部』1895年(明治28年)4月です。本文中の「」の言葉は、青空文庫の本文からの引用です。
※この作品には、人が水に沈んで亡くなる場面があります。
規則一点ばりの巡査
- 明治27年12月10日の夜、0時に交番を出て巡回する巡査、八田義延。その歩き方には「一定の法則」があり、左右に少しも傾かず、決して後ろをふりかえりません
- 股引きが破れて膝が出ているのを見苦しいと、老いた車夫を叱りつけます。車夫は、孝行な一人息子が兵隊にとられ、代わりに車を引いているのだ、と嘆きました
- 冠木門の下では、赤ん坊を肌に抱いてぼろ綿入れにくるまる母を起こします。「後生でございます。……この子がかわいそうでございます」。八田は言いました。「いかん、おれがいったんいかんといったらなんといってもいかんのだ」
お堀端の二人
- 半蔵門のほうから、美しい若い女が、酔った伯父の手を引いてやってきます。女はお香。後ろから、靴音を鳴らして巡査が近づいてきました
- 伯父は言います。今夜の婚礼はどうだった。「さぞ、うらやましかったろうの」
- じつは、いつか八田がお香を妻にほしいと申しこんできたとき、伯父が断ったのです。お香が「生命かけても」というほど思っている男なのに
- お香は後ろをふりかえり、そこにいる巡査が、ほかならぬ八田だと気づきます。「おや!」——八田は「一注の電気に感ぜしごとくなりき」

プレ男断られた本人が、すぐ後ろで聞いてる…!
伯父の告白
- 伯父は、聞こえよがしにつづけます。巡査だから断ったのではない。お香がいやがる相手なら喜んでくれてやる。けれど八田は、お香が心から好いている男だから、断ったのだ
- 「恋というものは、そんなあさはかなもんじゃあない。……何かしら邪魔がはいれば、なおさら恋しゅうなるものでな」。だから、あきらめてくれるな、もっと慕ってほしい、と
- そして伯父は、一生に一度だけ、と打ちあけます。お香の亡くなった母に、自分はすっかり惚れていた。その母を、弟(お香の父)にうばわれた
- 「恋に失望したもののその苦痛というものは、およそ、どのくらいであるということを、思い知らせたいばっかりに、要らざる生命をながらえた」。二人とも亡くなってしまったので、のこったお香に思い知らせるのだ、と
「職務だ」
- 少しはなれて歩く八田は、そこを通りすぎようとも、さがろうともしません。交番を出て駐在所にもどるまで「歩数約三万八千九百六十二」と決めた法則を守り、同じ足どりで歩きつづけます
- 「おれが死ぬときはきさまもいっしょだ」——その言葉に、お香は伯父の手をふりはなし、堀の土手にかけあがります。身を投げるのかと引きもどそうとした伯父は、酔った足をすべらせ、氷の張った堀に落ちてしまいました
- かけつけた八田の胸に、お香はすがりつきます。「義さん」
- 「お退き」「え、どうするの」「助けてやる」「伯父さんを?」
- 「おお、そしてまああなた、あなたはちっとも泳ぎを知らないじゃありませんか」
- 「職掌だ」「いかん、だめだもう、僕も殺したいほどの老爺だが、職務だ!断念ろ」——八田は、お香の手をふりはらい、凍る夜の水に身を投げました

メル美自分の恋をじゃました人を、泳げないのに、職務だから助けにいく…。
「はたして仁なりや」
- 鏡花は、こう結びます。のちに世間は、八田巡査を「仁」なりとたたえた
- 「ああはたして仁なりや、しかも一人の渠が残忍苛酷にして、恕すべき老車夫を懲罰し、憐むべき母と子を厳責したりし尽瘁を、讃歎するもの無きはいかん」——同じ職務への忠実さで、老車夫を罰し、母と子を責めたことを、ほめる者がいないのはなぜか、と

『夜行巡査』の八田は、「職務だ」と言って、泳げないのに氷の張った堀へ身を投げます。鏡花は、世間が八田を「仁」とたたえたことに、「はたして仁なりや」と問いかけています。
まとめ
- 『夜行巡査』は泉鏡花の短編。初出は『文芸倶楽部』1895年4月
- 規則どおりにしか歩かない巡査八田は、老車夫を叱り、軒下の母子を追いたてる
- 堀端で出会った、結婚を断られた女お香と、その伯父
- 伯父の告白:お香の母への失恋を、娘に「思い知らせる」ために二人をさく
- 堀に落ちた伯父を、泳げない八田は「職務だ」と助けにとびこむ
- 「はたして仁なりや」——鏡花の問いかけ
- 鏡花の高野聖、外科室もどうぞ
参考文献
- 泉鏡花. 夜行巡査(底本:『高野聖』角川文庫、角川書店). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000050/card897.html (閲覧日:2026年10月12日)
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