
メル美雪の日って、景色がきれいすぎて、だれかに見せてあげたくなるよね。

プレ男写真をとるとか?太宰の時代だったら、どうしたんだろう。
今回は、太宰治の短編「雪の夜の話」(ゆきのよのはなし)です。青空文庫の本文(底本:新潮文庫『ろまん燈籠』)で読みました。本文の末尾には、「少女の友」昭和19年(1944年)5月号と記されています。本文中の「」の言葉は、青空文庫の本文からの引用です。
雪の日のスルメ
- 語り手は、学校に通う「私」(しゅん子)。ある雪の日、学校の帰りに、できあがった姪のモンペを中野の叔母さんの家にとどけ、おみやげにスルメを二枚もらいました
- 吉祥寺駅に着いたときには、雪は一尺以上つもっていました。長靴のしゅん子は、うれしくて、わざと雪の深いところを選んで歩きます
- ところが、家の近くで、スルメを落としてしまったことに気づきます
- スルメを落としてがっかりするなんて「下品な事で恥ずかしい」けれど、それはお嫂さんにあげるつもりだったのです。お嫂さんは、夏に赤ちゃんを生む。このごろはおなかがすいて、「スルメか何かしゃぶりたいわ」と小さな声で言っていたのを、しゅん子は覚えていました

プレ男お嫂さんのために、こっそり持って帰ろうとしてたんだ…。それは落ちこむよ。
変わり者の兄さん
- しゅん子の家は、兄さんとお嫂さんとの三人暮らし。兄さんは、40近いのにちっとも有名でない、少し変わり者の小説家で、いつも貧乏で、口だけは達者です
- 「たまにはリュックサックをしょって、野菜でも買って来て下さいな」としゅん子が言うと、兄さんは、買い出しなんかに出かけないのは「おれの最後の誇りなんだ」とふくれます
- お嫂さんが、きれいな子を生みたいから、きれいな人の絵姿を部屋にはってほしいとたのむと、兄さんは「うむ、胎教か。それは大事だ」と、能面の写真を二枚はってくれました。ところが、そのあいだに自分のしかめつらの写真までぴたりとはりつけたので、なんにもならなくなりました
眼玉は風景をたくわえる
- しゅん子は、いつか兄さんが教えてくれた話を思い出します。「人間の眼玉は、風景をたくわえる事が出来る」。電球を少し見つめてから目をつぶると、まぶたの裏に電球が見えるだろう、それが証拠だ、と
- そして、兄さんが話してくれたデンマークの短いロマンス。あるお医者が、難破した若い水夫の眼を顕微鏡でしらべると、網膜に美しい一家団欒の光景が写っていた
- 友人の小説家は言いました。水夫は大波にもまれて灯台の窓べりにしがみつき、助けをよぼうとして窓をのぞくと、灯台守の一家が、つつましく楽しい夕食をはじめようとしていた。いま叫べば、この団欒がめちゃめちゃになる——そう思ったとたん、指の力がぬけて、水夫は沖へさらわれていったのだ。この水夫は、世の中でいちばん優しく、気高い人なのだ、と
- 「たとい科学の上では有り得ない話でも、それでも私は信じたい」

メル美水夫の話、せつないけど、すごくやさしい話だね。
「あたしの眼を見てよ」
- しゅん子はスルメをあきらめ、帰り道、できるだけたくさん雪景色をながめて、目の底だけでなく胸の底にまで、純白の景色を宿したような気持ちで家に帰ります
- 「お嫂さん、あたしの眼を見てよ、あたしの眼の底には、とっても美しい景色が一ぱい写っているのよ」「きっと、雪のように肌の綺麗な赤ちゃんが生れてよ」
- お嫂さんは、かなしそうな顔をして、だまってしゅん子の顔を見つめていました
兄さんの眼と、お嫂さんのひとこと
- そこへ兄さんが出てきて言います。しゅん子のつまらない眼より、山形で20年間きれいな雪景色を見てきたおれの眼を見たほうが、百倍も効果があらあ
- くやしくて泣きそうなしゅん子を、お嫂さんが助けてくれました。お嫂さんは微笑んで、静かに言います
- 「でも、とうさんのお眼は、綺麗な景色を百倍も千倍も見て来たかわりに、きたないものも百倍も千倍も見て来られたお眼ですものね」
- 「そうよ、そうよ」としゅん子。兄さんは、ぶっとふくれて、となりの部屋に引っこみました

プレ男お嫂さん、やさしいけど、ちゃんと言い返すんだ!最後はみんなでくすっと笑える感じだね。

太宰治の「雪の夜の話」で、スルメを落としたしゅん子は、兄から聞いた「人間の眼玉は、風景をたくわえる事が出来る」という話を思い出し、目の底いっぱいに雪景色を写して、お嫂さんのもとへ帰りました。
まとめ
- 「雪の夜の話」は太宰治の短編。本文末に「少女の友」昭和19年5月号とある
- おなかに赤ちゃんのいるお嫂さんへのおみやげのスルメを、雪道で落としたしゅん子
- 兄から聞いた「人間の眼玉は、風景をたくわえる」話と、デンマークの水夫のロマンス
- 「お嫂さん、あたしの眼を見てよ」——目の底いっぱいの雪景色をおみやげに
- 兄の自慢に、お嫂さんの「きたないものも百倍も千倍も見て来られたお眼」
- 太宰治の葉桜と魔笛、おさん、夏目漱石の琴のそら音もどうぞ
参考文献
- 太宰治. 雪の夜の話(底本:『ろまん燈籠』新潮文庫). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/card1573.html (閲覧日:2026年10月12日)
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