スピリチュアル或いは、不可知のものをどう扱うかについて

経営者はなぜ占いにハマるのか ― 不確実さとコントロール感、「決める」ことの効用、ストア派とACT

約8分で読めます2026年10月13日

目次
  1. 決断の重さと、占い
  2. コントロールを失うと、パターンが見えてくる
  3. 占いには「決める」ことを後押しする働きがある?
  4. 自分で左右できること、できないこと
  5. ACT ― 不安を消すのではなく、不安と一緒に動く
  6. 占いとの、ちょうどよい距離
  7. 科学で言えること、言えないこと
  8. まとめ

この記事の要点

決断の重さと、占い

会社を経営する人、店を切り盛りする人、大きなチームを率いる人。そうした立場の人が、占い師に相談したり、験を担いだりする話は、昔からよく聞きます。

合理的な判断を求められる立場の人が、なぜ占いに心を寄せるのでしょうか。

この記事では、占いを笑うためでも、すすめるためでもなく、占いが人の心の中で何をしているのかを、研究と古い知恵から考えてみます。経営者に限らず、大きな決断を前にしたすべての人に当てはまる話です。

コントロールを失うと、パターンが見えてくる

経営の決断には、自分ではどうにもならない要素がたくさんあります。景気、為替、取引先の都合、社員の気持ち、感染症の流行。どれだけ準備をしても、結果は誰にもわかりません。

心理学には、この「コントロールできない感覚」が、人のものの見方を変えるという研究があります。

2008年に科学誌『サイエンス』に載った研究では、6つの実験で、実験の中で「自分ではコントロールできない」という感覚を持った人は、次のようなものを見いだしやすくなった、と報告されました(Whitson & Galinsky, 2008)。

研究者たちは、これを、ばらばらな出来事の中に意味のあるつながりを見いだす「錯覚のパターン知覚」と呼び、その背景には、世界を筋の通ったものとして理解したいという動機があると考えました。

ただし、話はここで終わりません。その後、同じような操作で7つの実験を行った別の研究者たちは、コントロールを失わせる操作が、迷信や陰謀論、超常的なものへの信念を強めるという証拠は見つからなかった、と報告しています。この分野の研究には出版の偏り(効果が出た研究ばかりが発表されやすいこと)があり、効果は比較的小さいとも指摘されました(van Elk & Lodder, 2018)。

ですから、「コントロールを失うと、人は占いを信じやすくなる」とまでは言い切れません。それでも、正解のわからない状況で、人が何か筋の通った答えを求めるというのは、多くの人が実感としてわかることではないでしょうか。

心理学者のエレン・ランガーは、1975年に「コントロールの錯覚」(illusion of control)という論文を発表しています。自分の力で結果を左右できると、実際以上に感じてしまう心の働きを調べたものです。

占いには「決める」ことを後押しする働きがある?

占いが心の中でしていることを、もうひとつ考えてみます。それは、決めることを後押しする働きです。

経済学者のスティーブン・レヴィットは、大きな決断に迷っている人にコインを投げてもらい、その後を追う大規模な研究を行いました。仕事を辞めるか、恋人と別れるかといった重大な決断について、コインが「変える」と出た人は、実際に変える人が多く、その決断に満足し、半年後により幸せだと答える傾向があったと報告されています(Levitt, 2021)。

研究者は、この結果から、人は人生を変えるような選択の前で、慎重になりすぎているのかもしれない、と述べています。

コインに未来を見通す力はありません。それでも、コインは、迷い続けていた人の背中を押しました。占いにも、似たような働きがあるのかもしれません。「今年は動く年」と言われて、決めかねていた一歩を踏み出せる。決断の重さを、少しだけ外に預けられる。

ただし、これはあくまでひとつの研究です。コインで決めればうまくいく、という意味ではありません。

自分で左右できること、できないこと

2000年ほど前、ローマ帝国の時代に生きたストア派の哲学者エピクテトスは、その教えをまとめた『提要』(エンケイリディオン)の冒頭で、次のようなことを述べています。

世の中には、自分の力の内にあるものと、力の外にあるものがある。考え、目標、望むこと、避けることは、自分の力の内にある。体、財産、評判、地位は、力の外にある。力の外にあるものを自分のものとして扱おうとすると、人は妨げられ、嘆き、心を乱し、神や人を責めることになる(『提要』第1章、英訳からの要約)。

経営の言葉で言いかえると、こうなるかもしれません。

自分で左右できる 自分では左右できない
どれだけ調べ、準備するか 景気、為替、市場の動き
どんな判断の基準を持つか 取引先や顧客の気持ち
失敗したとき、どう立て直すか 偶然の出来事、天候、感染症

占いが役に立つのは、右の列、つまり自分では左右できない部分に対する不安を和らげるときだと、私は考えています。逆に、左の列、つまり本来は自分で調べ、考え、決めるべきことまで占いにゆだねてしまうと、判断の責任を手放すことになります。

これは、このサイトの「スピリチュアルとは何か」で書いた「人事を尽くして天命を待つ」とも同じ形です。

ACT ― 不安を消すのではなく、不安と一緒に動く

現代の心理療法にも、ストア派と通じる考え方があります。ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)です。

ACT は、不安やつらい気持ちを無理に消そうとするのではなく、それがあることを受け入れながら、自分が大切にしたい価値に沿った行動をとっていく、という考え方の心理療法です。39のランダム化比較試験(1,821人)をまとめた分析では、ACT は、通常の治療や心理的なプラセボより効果があり、不安障害、うつ、依存、体の病気に関わる問題に対して、認知行動療法と同じくらい効果がある可能性が示されています(A-Tjak ら, 2015)。

決断の不安は、なくなりません。どれだけ占っても、どれだけ調べても、未来は見えないからです。ACT の考え方を借りるなら、大切なのは、不安がなくなってから動くのではなく、不安を抱えたまま、自分が大切にしたいものに向かって動くことです。

占いとの、ちょうどよい距離

ここまでをふまえて、占いとの付き合い方の目安を考えてみました。

  1. 気持ちが軽くなっているか、重くなっているか 占いのあとで不安が和らぎ、前に進めるなら、それはあなたを支えています。逆に、言われたことが気になって眠れない、次々と相談しないと落ち着かない、というときは、新しい不安を植えつけられています
  2. 決める主体は、自分のままか 占いを「背中を押してもらう道具」として使うのはよいと思います。でも、事業の大事な判断を、調べたり考えたりせずに占いで決めるようになったら、立ち止まるときです
  3. お金と時間が、どんどん増えていないか 「このままでは会社がつぶれる」「特別な祈祷をしないと不幸になる」と、不安をあおって高額な支払いを求めるものは、占いではなく商売です。占いサイトのトラブルについては「占いサイトのトラブル」に、霊感などを使った勧誘で結んだ契約の取り消しについては「消費者契約法で取り消せる契約」にまとめています

科学で言えること、言えないこと

最後に、この記事の立ち位置を整理しておきます。

決断の重さで眠れない日が続く、気持ちの落ち込みが長引く、というときは、占いや気合いだけで乗り切ろうとせず、医療機関やこころがしんどいときの相談先に相談してください。治療を受けながら、自分なりの支えを持ち続けることはできます。

まとめ

参考文献

  1. Whitson JA, Galinsky AD. Lacking control increases illusory pattern perception. Science. 2008;322(5898):115-117. https://doi.org/10.1126/science.1159845 (閲覧日:2026年10月13日)
  2. van Elk M, Lodder P. Experimental Manipulations of Personal Control do Not Increase Illusory Pattern Perception. Collabra: Psychology. 2018;4(1):19. https://doi.org/10.1525/collabra.155 (閲覧日:2026年10月13日)
  3. Langer EJ. The illusion of control. Journal of Personality and Social Psychology. 1975;32(2):311-328. https://doi.org/10.1037/0022-3514.32.2.311 (閲覧日:2026年10月13日)
  4. Levitt SD. Heads or Tails: The Impact of a Coin Toss on Major Life Decisions and Subsequent Happiness. The Review of Economic Studies. 2021;88(1):378-405. https://doi.org/10.1093/restud/rdaa016 (閲覧日:2026年10月13日)
  5. Epictetus. The Enchiridion. Thomas Wentworth Higginson 英訳(Project Gutenberg 版). https://www.gutenberg.org/ebooks/45109 (閲覧日:2026年10月13日)
  6. A-Tjak JG, Davis ML, Morina N, et al. A meta-analysis of the efficacy of acceptance and commitment therapy for clinically relevant mental and physical health problems. Psychotherapy and Psychosomatics. 2015;84(1):30-36. https://doi.org/10.1159/000365764 (閲覧日:2026年10月13日)

この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。 気になる症状や不安がある場合は、医療機関にご相談ください。