
メル美芥川龍之介の平安時代の話って、『羅生門』や『藪の中』のほかにもあるの?

プレ男『六の宮の姫君』は、待ちつづけたお姫さまの話なんだって。
こんにちは、Dr. Taro です。 今回は、芥川龍之介の短編『六の宮の姫君』です。青空文庫の原文(底本:『現代日本文学大系43 芥川龍之介集』筑摩書房)で読みました。作品の末尾には「大正十一年七月」とあります。同じ平安の都を舞台にした芥川の作品は、『藪の中』や『袈裟と盛遠』でも紹介しています。
※作品には、人が亡くなる場面があります。
「悲しみも知らないと同時に、喜びも知らない」
- 姫君の父は、古い宮家の血をひく人でしたが、昔気質で、官位は兵部大輔より上がりませんでした。一家は六の宮のほとりの屋形に住み、「六の宮の姫君」という呼び名は、その土地の名前からきています
- 両親は姫君をかわいがりましたが、昔風に、自分から誰かと縁組みさせようとはしません。言い寄る人が来るのを待つばかりでした
- 姫君もつつましく暮らします。作品はその日々を、こう書いています
- 「それは悲しみも知らないと同時に、喜びも知らない生涯だつた。」
- ところが、父が酒の飲みすぎで急に亡くなり、母も半年ほどで後を追います。たよれるのは、たった一人の乳母だけになりました
乳母のすすめた縁談
- 乳母は懸命に働きますが、家に伝わる螺鈿の手箱や銀の香炉は一つずつ消え、召使いも去っていきます
- ある秋の夕ぐれ、乳母は、丹波の前司の息子が姫君に会いたがっていると伝えます。顔だちも美しく、心ばえもよい人だというのです
- 姫君は声をしのんで泣きました。暮らしを助けるために男に身をまかせるのは、「体を売るのも同様」だと思えたからです
- それでも姫君は、やがて夜ごとに男と会うようになります。男はやさしく、姫君の美しさに夢中でした。屋形には簾や調度が新しくなり、召使いも増えます。けれど姫君は、「嬉しいとは一夜も思はなかつた」のでした

メル美悪い人じゃない。でも、うれしいとは思えない…。暮らしのための結婚って、つらいね。
「五年たてば任終ぢや」
- やっと春が来たある夜、男は「そなたに会ふのも今宵ぎりぢや」と切り出します。父が陸奥の守に任じられ、自分もついて下らなければならない。姫君を妻にしたことは父に隠していたので、いまさら打ち明けられない、と
- 「しかし五年たてば任終ぢや。その時を楽しみに待つてたもれ。」
- 姫君は泣き伏します。恋しいとまでは思わなくても、たよりにした男と別れるのは、言葉にならない悲しさでした
6年目の春、9年目の秋
- 6年目の春が来ても、男は帰りませんでした。召使いは一人残らず去り、姫君の住む東の対は大風で倒れ、姫君と乳母は、雨露をしのぐだけの廊に移ります
- 乳母は、たき木がなくなると、立ち腐れた寝殿の板をはがしに行くほどでした。それでも姫君は、琴や歌に気を晴らしながら、じっと男を待ちつづけていました
- その年の秋、乳母は「殿はもう御帰りにはなりますまい」と、別の縁談をすすめます。姫君はもう、首を振るだけでした
- 「わたしはもう何も入らぬ。生きようとも死なうとも一つ事ぢや。……」
- ちょうど同じころ、男は遠い常陸の屋形で、父の目がねにかなった新しい妻と酒をくんでいました。軒の音にふと姫君の姿を思い浮かべますが、妻は「栗の実が落ちたのでございませう」と答えるのでした

プレ男同じ月の夜に、片方は待ちつづけて、片方は新しい奥さんと…。この場面の切りかえ、きついなあ。
朱雀門のそばで
- 男が京へ帰ったのは、9年目の晩秋でした。旅じたくも解かずに六の宮へ行くと、門も寝殿もなく、残っているのは崩れかけた築土だけ
- かつて屋形に仕えた下働きの女の母だという老尼から、姫君の行方がわからないと聞き、男は都じゅうを探しまわります
- 何日かのち、にわか雨をさけて朱雀門の前の建物の軒下に立った男は、窓の中に、破れたむしろの上で尼に介抱されている、やせ細った女を見つけます。姫君でした
- 姫君は男に気づかないまま、苦しそうに歌を詠みます
- 「たまくらのすきまの風もさむかりき、身はならはしのものにざりける。」
- 男は思わず名前を呼びます。姫君は男を見るなり、かすかに叫んで、むしろに伏してしまいました。介抱していた尼は、あの乳母でした
「暗い中に風ばかり」
- 臨終の姫君のために、乳母は軒下にいた物乞いの法師に、お経を読んでほしいと頼みます。法師はお経を読むかわりに、「唯御自身怠らずに、阿弥陀仏の御名をお唱へなされ」と言いました
- 男に抱かれた姫君は、細い声で念仏を唱えます。「火の燃える車」が見える、と恐れ、次に「金色の蓮華」が見えると言い、やがて——
- 「何も、――何も見えませぬ。暗い中に風ばかり、――冷たい風ばかり吹いて参りまする。」
- 雨の音にまじる念仏の中で、姫君はだんだん死に顔に変わっていきました
法師の正体
- 何日かのちの月夜、朱雀門のほとりで、女の泣き声がするといううわさを確かめに来た侍に、あの法師は「お聞きなされ」と答えます。どこからか、細い女の嘆きの声が聞こえてきました
- 「あれは極楽も地獄も知らぬ、腑甲斐ない女の魂でござる。御仏を念じておやりなされ。」
- 法師の顔をのぞきこんだ侍は、驚いて両手をつきます。法師は、在俗の名を慶滋保胤(よししげのやすたね)、世に内記の上人と呼ばれた、空也上人の弟子の中でも高徳の僧だったのです

作品の冒頭で、姫君の日々は「悲しみも知らないと同時に、喜びも知らない生涯」と書かれています。法師は最後に、姫君を「極楽も地獄も知らぬ、腑甲斐ない女の魂」と呼んでいます。
まとめ
- 『六の宮の姫君』は、芥川龍之介の短編(末尾に「大正十一年七月」)
- 両親を亡くした姫君は、乳母のすすめで丹波の前司の息子を夫に迎えるが、「嬉しいとは一夜も思はなかつた」
- 男は「五年たてば任終ぢや」と言い残して陸奥へ下り、常陸で新しい妻を迎えて、9年帰らなかった
- 屋形は倒れ、姫君は待ちつづけ、男が見つけたのは朱雀門のそばで死にゆく姿だった。最期の言葉は「暗い中に風ばかり」
- 念仏をすすめた法師は、慶滋保胤(内記の上人)だった
- 平安の恋と愛憎は、『源氏物語』「葵」の巻、芥川の『好色』もどうぞ
参考文献
- 芥川龍之介. 六の宮の姫君(底本:『現代日本文学大系43 芥川龍之介集』筑摩書房、1968年). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card130.html (閲覧日:2026年10月22日)
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