
プレ男カワセミになった王妃の話があるって聞いたけど、どんな話?

メル美王妃アルキュオネの話なんだって。眠りの神さまや夢の神さまも出てくるの。
こんにちは、Dr. Taro です。 神話の解説、今回はギリシャ神話のケユクスとアルキュオネです。オウィディウス『変身物語』第11巻(B.モア訳、1922年、ペルセウス・デジタル・ライブラリー)の英訳を読みました。英訳では、女神ヘラはローマの名前で「ユノ」とよばれ、王妃の名は「ハルキュオネ(Halcyone)」と書かれています。ギリシャ神話の全体はギリシャ神話の入門へ。

アントニオ・テンペスタ「夫の帰りをユノに祈るアルキュオネ」(『変身物語』の連作、108番)1606年。エッチング。メトロポリタン美術館所蔵(パブリックドメイン)
プロフィール
| ケユクス | アルキュオネ | |
|---|---|---|
| 立場 | トラキスの王 | 王妃 |
| 親 | 明けの明星(英訳では Morning Star、Lucifer)の子 | 風の神アイオロスの娘 |
| さいご | カワセミ(英訳では halcyon の鳥) | カワセミ |
1. 「2か月のうちに帰る」
- 王ケユクスは、兄弟の不幸やふしぎなできごとに心をいため、神託をうかがうために船で旅立とうと決めました
- それを聞いた王妃アルキュオネは、顔が青ざめ、涙を流しました。「海がこわいのです。浜に打ちあげられた船の板や、なきがらのない墓に書かれた船乗りの名前を、なんども見ました」
- アルキュオネは風の神アイオロスの娘で、子どものころから父の家で風を見てきたので、「風のことを知れば知るほど、こわくなる」と言います。そして「どうしても行くなら、わたしもつれていって。嵐の中でも、いっしょなら」とたのみました
- ケユクスは、妻を危険な海につれていくことはできず、父である明けの明星の聖なる火にかけてちかいました。「運命がゆるすなら、月が2度まるくなる前に、かならず帰ってくる」
- 船が出ていくと、アルキュオネは、手をふる夫の顔が見えなくなるまで、船体が見えなくなるまで、帆が見えなくなるまで、海を見つめていました

メル美帆が見えなくなるまで見送るって…。それだけ心配だったんだね。
2. 嵐の夜
- 船が旅の半分も行かないうちに、夜になって東風があれくるい、大嵐になりました。雨は天がまるごと海にふってくるようで、いなずまが波を照らします
- 船乗りたちは、それぞれ家族や子どもや家を思いました。「けれども王ケユクスは、アルキュオネのことだけを思い、くちびるにのぼるのは、ただ彼女の名前だけだった。会いたいけれど、彼女が家で無事でいることをよろこんだ」
- 大きな波が船をうち、船は海の底へしずみました。ケユクスは板きれにつかまって泳ぎながら、波がゆるすかぎり「アルキュオネ!」とよびつづけ、やがて波にのまれました
3. 眠りの神と、夢の神モルペウス
- 何も知らないアルキュオネは、夜をかぞえ、夫が帰ったときに着る服を用意し、女神ユノの祭壇に香をささげて、夫の無事を祈りつづけました(上の図版の場面です)
- ユノは、もう亡くなった人のための祈りを受けられず、使いの女神イリスを、眠りの神のもとへ送りました。眠りの神の住まいは、日の光がとどかない洞窟で、鳥も犬も鳴かず、ただ忘却の川の小さな流れが、ねむりをさそう音をたてています。入口にはケシの花がさきみだれていました
- 眠りの神は、たくさんの息子の中から、人の姿をまねるのがいちばんうまい「モルペウス」をえらびました。英訳によると、ほかに、動物の姿をまねる息子や、石や水や木の姿をまねる息子もいます
- モルペウスはケユクスの姿になってアルキュオネの夢にあらわれ、自分が嵐でしずんだことを告げました

プレ男モルペウスって、「夢」の神さまなんだ!
4. カワセミになったふたり
- 夜が明けると、アルキュオネは、夫が船出した浜へ行き、遠くの海に、何かがうかんでいるのを見つけました。波にはこばれて近づいてくると、それは夫のなきがらでした
- アルキュオネが、波をよけるための堤の上へかけあがると、そのときつばさが生え、なげきの声をあげる鳥となって、波の上をとびました
- 鳥になったアルキュオネは、新しいつばさで夫をだきしめ、かたいくちばしで口づけしました。すると、神々のあわれみで、ふたりはともに鳥になりました。「ふたりの愛はつづき、鳥になっても夫婦のきずなはとけなかった」
5. ハルシオンの海
- 「毎年冬になると、7日間のしずかな日がつづき、ハルキュオネ(アルキュオネ)は、海にうかぶ巣で卵をあたためる。その7日間、海には嵐がない。アイオロスが、子孫のために、あらい風を洞窟にとじこめて、しずかな海をあたえるのだ」

オウィディウスの英訳では、毎年冬の7日間、アルキュオネが海にうかぶ巣で卵をあたためるあいだ、風の神アイオロスが風をとじこめて、海をしずめるといいます。
まとめ
- ケユクスとアルキュオネは、深く愛しあう王と王妃
- ケユクスは「2か月のうちに帰る」と約束して船出し、嵐でしずんだ
- 女神ユノのたのみで、眠りの神の子モルペウスが、夢で夫の死をつたえた
- 浜で夫を見つけたアルキュオネは鳥になり、神々のあわれみで、ふたりはともにカワセミになった
- 冬の7日間、アルキュオネが巣で卵をあたためるあいだ、海はしずまる
- 祈りを受けた女神ヘラ、同じ『変身物語』のバウキスとピレモン、アラクネもどうぞ
参考文献
- Ovid. Metamorphoses, 11.410–748(英訳:Brookes More、1922年). Perseus Digital Library. https://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus:text:1999.02.0028:book=11:card=410 (閲覧日:2026年10月10日)
- メトロポリタン美術館. Antonio Tempesta, Plate 108: Alcyone Offering Prayers to Juno, from Ovid’s ‘Metamorphoses’, 1606(51.501.3959、パブリックドメイン). https://www.metmuseum.org/art/collection/search/401005 (閲覧日:2026年10月10日)
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