
プレ男クヌムって、はじめて聞いた! どんな神さま?

メル美ヒツジの頭の神さまで、ナイル川の水をあずかっているんだって。7年のききんの話があるの。
こんにちは、Dr. Taro です。 神さまの解説、今回はエジプト神話のクヌムです。大英博物館のE.A.ウォリス・バッジ『神々の伝説』(1912年、プロジェクト・グーテンベルク)の第7章「クヌムと7年のききんの伝説」の英訳と解説を読みました。エジプト神話の全体はエジプト神話の入門へ。

「クヌムのお守り」紀元前332〜30年、プトレマイオス朝。ファイアンス。メトロポリタン美術館所蔵(パブリックドメイン)
プロフィール
| 名前 | クヌム(バッジの英訳では Khnemu) |
| すがた | ヒツジの頭の神 |
| 住まい | ナイル川の第1急流、エレファンティネ島(いまのアスワン)のあたり |
| 力 | ナイルの水を閉じこめる戸のかんぬきをひき、サンダルで大地を打つと、川があふれ出る |
| ことば | 「わたしはクヌム。おまえを作った者だ」 |
1. 岩に「かすかに」きざまれた碑文
バッジの解説です。
- この話は、アスワンの2〜3マイル南、ナイル川の第1急流にある小さなセヘル島の、高さ8〜9フィートの花こう岩にきざまれたヒエログリフの碑文に書かれています
- 碑文は、ふつうのようにほりこまれたのではなく、先のまるいのみで打ちつけてしるされていて、光のかげんによっては、近くに立っても見えないほどでした。川ぞいの道から見える場所なのに、多くの旅行者が気づかなかったといいます
- 1889年2月6日、アメリカのC.E.ウィルバーが偶然これを見つけ、写しをとりました。1891年には、ドイツのブルクシュが、ドイツ語訳を出版しています
2. 「7年も、ナイルがあふれない」
- 第3王朝の王ジェセル(バッジの英訳では Tcheser)の治世18年目、エレファンティネの長官マタルのもとに、王から手紙がとどきました
- 「わたしは玉座の上で苦しんでいる。7年も、ナイルが出てこない。穀物もなく、野菜もなく、食べものもない。人びとはとなりの人のものをうばいあっている」
- 「歩きたくても、動けない。若者は手足を引きずり、年よりは絶望して、地面にしずみこむ。相談役たちはだまりこみ、倉をあけても、出てくるのは風だけだ」
- 王は、「ナイルはどこで生まれるのか。どの神が、それをつかさどっているのか」とたずねました。そして、知恵の神トトの神殿へ行ってたずね、魔術師たちの学院で聖なる書物を調べたい、とも書いています

プレ男「倉をあけても、出てくるのは風だけ」…。すごくつらい状況なんだね。
バッジの注によると、ここでの「ナイルが出てこない」は、ナイルの増水が十分でなかったという意味です。
3. ナイルの水をあずかる神
- マタルは王のもとへ行き、こう説明しました
- ナイルは、エレファンティネの町の近くで、2つのほら穴からわき出る。それはナイルの神の乳房である
- ナイルの水かさは、エレファンティネで28キュビット、デルタのディオスポリス・パルヴァで7キュビットにまでのぼる
- ナイルをおさめるのはクヌムで、クヌムが流れを閉じこめている戸のかんぬきをひき、サンダルで大地を打つと、川があふれ出る
- クヌムといっしょに住む神々として、シリウス星の女神ソプデト、女神アヌケト、ナイルの神ハピ、そしてシュウ、ゲブ、ヌト、オシリス、イシス、ネフティス、ホルスの名があげられています
4. 夢の中のクヌム
- それを聞いた王はよろこんで、クヌムの神殿に入りました。神官たちが幕をひき、王に聖なる水をそそぎます。王は、パン、ビール、ガチョウ、牛など、たくさんのそなえものをささげました
- すると、王は気づくとクヌムと向かいあって立っていました。王が祈ると、クヌムは目をひらき、王のほうに体をかたむけて言いました
- 「わたしはクヌム。おまえを作った者だ。わたしの手が、おまえの体をあみあわせて、じょうぶにし、おまえに心臓をあたえた」
- クヌムは、大地には石や金属がたくさんあるのに、人びとは神々の神殿をなおすことをおこたっている、となげきました
- そして、「わたしは、はじまりのときから存在し、思うままにのぼって、クヌムのためにはたらく者に健康をあたえるナイルの神だ」と名のり、毎年、かならず、とぎれることなく、ナイルをあふれさせること、ゆたかな実りで倉をみたし、エジプトじゅうを、実った穀物の金色の畑にすることを約束しました

メル美「おまえの体をあみあわせた」って、クヌムは人を作る神さまでもあるんだね。
5. 目ざめた王の約束
- 夢の中にいた王は、クヌムが実りのことを口にしたとき、目をさましました。勇気をとりもどした王は、クヌムの神殿を十分にまもるための命令を出します
- 命令では、川の両岸それぞれ20スコイノスの土地をクヌムにささげ、ナイルの水を畑に引く人は収穫の一部を神におさめ、漁師や鳥をとる人、狩人は10分の1をおさめる、などと定められました
6. 碑文は、いつ作られたのか
- バッジは、文字の形やつづりから、この碑文はプトレマイオス朝の時代にきざまれたもので、話としてはずっとあとの時代のものだと考えています
- 碑文の後半には、急流を通る商人や農民などからとりたてる税の一覧があることから、バッジは、クヌムの神官たちが、自分たちの権利を古い王の時代にさかのぼって示そうとしたのだろう、と推測しています

バッジ訳の「ききんの碑文」では、クヌムが王の夢にあらわれ、毎年かならずナイルをあふれさせ、エジプトじゅうを実った穀物の畑にすると約束しました。
まとめ
- クヌムは、ヒツジの頭の、ナイル川の第1急流の神。かんぬきをひき、サンダルで大地を打って、ナイルをあふれさせる
- セヘル島の岩の「ききんの碑文」には、王ジェセルの時代の7年のききんが書かれている
- 王がクヌムの神殿で祈ると、夢にクヌムがあらわれ、「わたしはおまえを作った者だ」と言い、毎年ナイルをあふれさせると約束した
- バッジは、碑文はプトレマイオス朝のもので、クヌムの神官たちが作らせたのだろうと考えた
- 同じバッジの本にある、悪霊を追いはらう神コンス、トト、ラー、エジプト神話の入門もどうぞ
参考文献
- E.A. Wallis Budge. Legends of the Gods: The Egyptian Texts, edited with Translations(1912年). VII. A Legend of Khnemu and of a Seven Years’ Famine(解説と訳、注47). Project Gutenberg. https://www.gutenberg.org/ebooks/9411 (閲覧日:2026年10月10日)
- メトロポリタン美術館. Amulet of Khnum, Ptolemaic Period, 332–30 BCE(26.7.884、パブリックドメイン). https://www.metmuseum.org/art/collection/search/551325 (閲覧日:2026年10月10日)
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。 気になる症状や不安がある場合は、医療機関にご相談ください。



