
プレ男夢で見た人に恋をして、さがしに行くの? ロマンチック!

メル美しかもローマ皇帝の話なのに、相手はブリテン島の乙女なんだって。ウェールズの物語集『マビノギオン』にある話よ。
こんにちは、Dr. Taro です。 神話の解説、今回はケルト(ウェールズ)の「マクセン皇帝の夢」です。『マビノギオン』のシャーロット・ゲスト英訳(「The Dream of Maxen Wledig」、プロジェクト・グーテンベルク)を読みました。同じ『マビノギオン』のスリッズとスレヴェリスもどうぞ。ケルト神話の全体はケルト神話の入門へ。
プロフィール
| マクセン | ローマ皇帝。それまでのどの皇帝よりも、りっぱでかしこい |
| 夢の乙女 | エレン(ゲスト訳では Helen Luyddawc) |
| 乙女の父 | エイダヴ(カラダウクの子)。象牙のいすで、チェスのこまをけずっていた |
| 乙女の兄弟 | キナンとアデオン。金の台でチェスをしていた |
| 乙女の城 | ブリテン島アルヴォンの、アベル・サインの城 |
1. 昼ねの夢
- ある日、マクセンは32人の王たちをつれて狩りに出かけました。日が高くのぼって暑くなると、マクセンはねむくなりました。家来たちは、槍に盾をたてかけて日かげをつくり、金の盾をまくらにしてねかせました
- マクセンは夢を見ました。川をさかのぼって、空にとどくほど高い山をこえ、大きな川の河口の町へ。そこには、板の1枚が金、1枚が銀の大きな船があり、クジラの骨の橋をわたって乗りこみました
- 船は海をこえ、世界一美しい島につきました。島をよこぎり、川の河口の城に入ると、屋根は金、かべは宝石の広間がありました
2. 金の広間の乙女
- 広間では、赤茶色の髪の2人の若者が、銀の盤と金のこまでチェスをしていました。柱のそばでは、白髪の男が象牙のいすにすわって、金のチェスのこまをけずっていました
- その前の金のいすに、乙女がすわっていました。「いちばん明るいときの太陽を見るのとおなじくらい、その美しさのために、見つめるのがむずかしかった」
- 乙女が立ちあがり、ふたりは金のいすにならんですわりました。ところが、そのとき、犬たちのさわぐ声、盾のぶつかる音、馬のいななきで、皇帝は目をさましてしまいました

メル美いいところで目がさめちゃった! それはショックだね…。
3. 恋わずらいの皇帝
- 目がさめた皇帝は、乙女のことで頭がいっぱいで、「命も心ものこっていない」ありさまでした。宴にも、歌や物語の集まりにも行かず、ただねむってばかり。ねむれば夢で乙女に会えたからです
- 人々が皇帝の悪口を言いはじめたので、皇帝はローマの賢者たちをよびました。賢者たちは、「3年のあいだ、世界の3つの方角へ使者を送って、夢をさがさせなさい。いつよい知らせが来るかわからないという希望が、あなたをささえるでしょう」と助言しました
- けれども1年たっても、使者たちは何の手がかりも見つけられませんでした
4. 夢の道すじ
- ローマの王が言いました。「夢の中で行った方角へ、もう一度狩りに出てみてください」。皇帝は川岸に来て、「ここで夢を見た。わたしは川の源へ、西へむかった」と言いました
- 13人の使者が出発しました。空にとどくような山をこえると、広い平野と大きな川が見えました。「主人が見た土地だ」。河口の大きな町、色とりどりの高い塔、世界一大きな船……。「これも、主人が見た夢だ」
- 大きな船で海をわたると、ブリテン島でした。島をよこぎってスノードンに来ると、「主人が見た、けわしい土地だ」。そして、アングルシーとアルヴォンが見え、河口に城がありました
- 城の広間には、金の台でチェスをする2人の若者、象牙のいすでこまをけずる白髪の男、そして金のいすの乙女がいました

プレ男夢の景色が、ぜんぶ本当にあったんだ! 鳥肌が立つ…。
5. 「むかえに来るように」
- 使者たちはひざまずいて言いました。「ローマの皇后さま、ばんざい!」。乙女は、「からかっているのですか」と言いました
- 使者たちがわけを話し、「わたしたちといっしょにローマへ行くか、皇帝がここへむかえに来るか、えらんでください」と言うと、乙女は答えました。「あなたがたの話をうたがいはしませんが、信じすぎもしません。皇帝がわたしを愛しているなら、ここへむかえに来るように」
- 皇帝はブリテン島へやってきて、アベル・サインの城を見ると、「あれが、愛する乙女を見た城だ」と言いました。夢のとおりの広間で、皇帝は乙女とむすばれました
6. エレンの道
- 乙女は、おくりものとして、ブリテン島を父のものとすることと、自分がえらぶ場所に3つの城をつくることをねがいました。いちばん高い城はアルヴォンにつくられ、ほかの2つはカエルレオンとカマーゼンにつくられました
- エレンは、城から城へ、島じゅうに大きな道をつくることを思いつきました。この道は「エレン・スウィザウクの道」とよばれ、島の人々は、ほかのだれのためにも、こんな大きな道はつくらなかっただろう、と書かれています
7. 「もしローマに来るなら」
- 皇帝は7年のあいだブリテン島にいました。ローマには、7年以上ほかの国にとどまった皇帝は、もうローマにもどれないという習わしがあり、ローマ人は新しい皇帝をたてました
- 新しい皇帝からとどいた手紙には、これだけが書かれていました。「もしおまえが来るなら、もしおまえがローマに来ることがあるなら」。マクセンも、これだけを書いて返しました。「もしわたしがローマに行くなら、もし行くなら」
- マクセンはローマをかこみましたが、1年たっても落とせません。そこへ、エレンの兄弟キナンとアデオンが、ブリテン島から小さな軍をつれてやってきました。兄弟は、夜のうちに城壁の高さをはかってはしごをつくり、両方の軍が昼の食事で戦いを休んでいるあいだに、町に入りました。こうしてローマの門はひらかれ、マクセンは王座についた、と書かれています

『マビノギオン』のゲスト訳では、乙女は使者たちに「皇帝がわたしを愛しているなら、ここへむかえに来るように」と答え、皇帝はブリテン島まで乙女をむかえに来ました。
まとめ
- ローマ皇帝マクセンは、昼ねの夢で、金の広間の太陽のようにまぶしい乙女に出会った
- 使者たちが夢の道すじをたどると、山・河口の町・大きな船、そしてブリテン島のスノードン、アルヴォンの城が、夢のとおりにあった
- 乙女エレンは、「愛しているなら、むかえに来るように」と答えた
- エレンは、島じゅうに大きな道をつくらせた
- 新しいローマ皇帝との「もし来るなら」「もし行くなら」の手紙のやりとりのあと、エレンの兄弟のはたらきで、マクセンはローマにもどった
- 同じ『マビノギオン』のスリッズとスレヴェリス、リアンノン、ブロダイウェズもどうぞ
参考文献
- Lady Charlotte Guest(英訳). The Mabinogion. “The Dream of Maxen Wledig”. Project Gutenberg. https://www.gutenberg.org/ebooks/5160 (閲覧日:2026年10月10日)
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