
プレ男パンって、どんな神さま?

メル美ヤギの足の神さまで、生まれたとき乳母がびっくりしてにげちゃったんだって。
こんにちは、Dr. Taro です。 神話の解説、今回はギリシャ神話のパンです。『ホメロス風讃歌』19番「パンに」(H.G.エヴリン=ホワイト英訳、1914年、Project Gutenberg)、オウィディウス『変身物語』第1巻(B.モア英訳、1922年)、ヘロドトス『歴史』第6巻(A.D.ゴドリー英訳、1920年)を読みました。ギリシャ神話の全体はギリシャ神話の入門へ。

アントニー・ワーテルロー「パンとシュリンクスのいる風景」17世紀。エッチング。メトロポリタン美術館所蔵(パブリックドメイン)
プロフィール
| 父 | ヘルメス |
| 母 | ドリュオプスの娘(『ホメロス風讃歌』) |
| すがた | ヤギの足と2本の角、ひげ。ヤマネコの毛皮をせおう |
| すみか | 雪の峰、山の頂、しげみ(アルカディアの山々) |
| とくい | 葦笛、ニンフたちとの踊り、狩り |
| 名前の由来 | 神々「みんな(パンテス)」をよろこばせたから(讃歌と訳注) |
1. ヤギの足の赤ちゃん
『ホメロス風讃歌』19番です。
- ヘルメスは、アルカディアで、人間の主人のもとで羊の世話をしていたとき、ドリュオプスの娘を愛し、結婚しました
- 生まれた子は、「生まれたときからふしぎな姿で、ヤギの足と2本の角をもち、にぎやかで、よくわらう子」でした
- ところが、乳母は、その顔とたっぷりのひげを見て、おどろいて飛びあがり、子をおいてにげだしてしまいました
- 父ヘルメスは、子をうでにだき、「心からよろこんで」、山のウサギの毛皮にくるんで、神々のすむオリュンポスへつれていきました

メル美乳母はにげちゃったけど、お父さんは大よろこびしてくれたんだね。
2. 「みんな」をよろこばせた子
- ヘルメスは、子をゼウスのとなりにおいて、神々に見せました。「すると、不死の神々はみな心をよろこばせ、とくにバッコス(ディオニュソス)はよろこんだ。そして神々は、その子が自分たちみんなの心をよろこばせたので、パンとよんだ」
- 訳注によると、ここでは「パン」の名を、「すべての者」という意味の「パンテス」から説明しています

プレ男見た目でにげられた子が、神さまたちみんなに愛されて名前をもらう…。いい話!
3. 山の神のくらし
- 讃歌によると、パンは「雪の峰も、山の頂も、岩の頂も」自分の領地として、しげみをかけまわり、狩りをします
- 夕方、狩りから帰ると、葦笛をふきます。その調べは、春に鳴く鳥にもまけないほど美しく、ニンフたちが泉のそばで歌い、山の頂ではエコーがこだまします
4. 葦笛のおこり
『変身物語』第1巻で、ヘルメス(メルクリウス)が語りかける話です。
- アルカディアに、シュリンクスというニンフがいました。女神ディアナ(アルテミス)のように、結婚せずに狩りをしてくらしていました
- パンはシュリンクスを見て、声をかけましたが、シュリンクスはパンのたのみをこばんでにげ、ラドン川のほとりで、水の姉妹たちに「姿を変えて」と祈りました
- パンがつかまえたと思ったとき、手の中にあったのは、沼の葦でした。パンがため息をつくと、風が葦の中で、悲しく美しい音をたてました
- パンは言いました。「この見つけたものを、いつまでも、おまえとわたしをむすぶものにしよう」。だから、長さのちがう葦をろうでつなぎあわせた笛は、シュリンクスとよばれるのだ、といいます
5. マラトンの前に
ヘロドトス『歴史』第6巻105章です。
- ペルシャ軍がせまったとき、アテナイの将軍たちは、長距離を走るのが仕事の伝令ピリッピデスを、スパルタへ送りました
- ピリッピデスは、テゲアの近くの山でパンに出会ったと語りました。パンは彼の名をよび、「なぜアテナイ人はわたしをうやまわないのか。わたしはアテナイ人に好意をもち、何度も役に立ってきたし、これからも役に立つのに」と伝えるよう言いました
- アテナイの人びとはこれを信じ、のちにアクロポリスのふもとにパンの聖域をつくり、毎年、犠牲とたいまつ競走でパンをうやまうようになった、と書かれています

『ホメロス風讃歌』では、ヤギの足のパンを見て神々はみな心をよろこばせ、みんなをよろこばせたのでパンとよんだ、とされています。
まとめ
- パンは、ヘルメスの子で、ヤギの足と2本の角をもつ、山と羊飼いの神
- 乳母はにげたが、父ヘルメスはよろこび、神々みんなをよろこばせたので「パン」と名づけられた
- 夕方には葦笛をふき、ニンフたちと踊る
- ニンフのシュリンクスが葦に変わり、葦をつないだ笛がシュリンクスとよばれた(『変身物語』)
- マラトンの戦いの前、伝令ピリッピデスの前にあらわれた(ヘロドトス)
- 父のヘルメス、同じ『変身物語』1巻のイオ、パンが笛でアポロンと音楽くらべをしたミダス王もどうぞ
参考文献
- Homeric Hymn 19, To Pan(英訳:Hugh G. Evelyn-White、1914年)と注. Project Gutenberg. https://www.gutenberg.org/ebooks/348 (閲覧日:2026年10月10日)
- Ovid. Metamorphoses, 1.689–712(英訳:Brookes More、1922年). Perseus Digital Library. https://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus:text:1999.02.0028:book=1:line=689 (閲覧日:2026年10月10日)
- Herodotus. The Histories(英訳:A. D. Godley、1920年), 6.105. Perseus Digital Library. https://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus:text:1999.01.0126:book=6:chapter=105 (閲覧日:2026年10月10日)
- メトロポリタン美術館. Anthonie Waterloo, Landscape With Pan and Syrinx, 17th century(2005.377.47、パブリックドメイン). https://www.metmuseum.org/art/collection/search/370167 (閲覧日:2026年10月10日)
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