
プレ男怒って木をつつく鳥になった王さまの話があるって、ほんと?

メル美『変身物語』では、妻を大切にした王さまが、魔女の怒りで鳥にされちゃうの。切ないお話よ。
こんにちは、Dr. Taro です。 神話の解説、今回はピクスとカネンスです。オウィディウス『変身物語』第14巻320〜434行(ブルックス・モア英訳、1922年、ペルセウス・デジタル・ライブラリー)を読みました。魔女キルケについてはキルケへ。ギリシャ神話の全体はギリシャ神話の入門へ。

アントニオ・テンペスタ『変身物語』の挿絵136「鳥に変えられるピクス」1606年、エッチング(下の銘文の部分をのぞいて切り出し)。メトロポリタン美術館所蔵(パブリックドメイン)
プロフィール
| ピクス | サトゥルヌスの子で、アウソニアの地の王。戦いの馬が大好きな若者 |
| カネンス | 二つの顔の神ヤヌスと、ヴェニリアの娘。歌の名手 |
| カネンスの歌 | 森や岩を動かし、けものをおとなしくさせ、川の流れや、とぶ鳥をとめた |
| キルケ | 太陽の娘の魔女 |
| ピクスのすがた | 翼をもつ鳥になり、衣の紫が翼に、金のとめ具が金色の羽になった |
1. 歌の名手カネンス
- 若い王ピクスは、そのすがたも心もりっぱで、ラティウムの山々の木の精や泉の精たちがみな心をよせていました
- けれどもピクスが愛したのは、ヤヌスとヴェニリアの娘でした。その美しさもすばらしかったのですが、歌のうまさはもっとすばらしく、その歌の力から「カネンス」とよばれていました
- 「その声のふしぎな力は、森や岩を動かし、けものをおとなしくさせ、長い川の流れをとどめ、さまよう鳥までも引きとめた」
2. 森の魔女
- ある日、ピクスは、2本の槍を左手に、金でとめた紫のマントを着て、馬に乗ってイノシシ狩りに出かけました
- そこへ、新しい薬草をさがしていた太陽の娘キルケがやってきて、しげみのかげからピクスを見て、心をうばわれてしまいました
- キルケは、まぼろしのイノシシをつくって王の前を走らせ、馬では入れない森へとさそいこみました。そして呪文で空を暗くし、家来たちがピクスを見うしなうようにしました
3. 「わたしの心はカネンスのもの」
- ふたりきりになると、キルケは思いをうちあけました。「わたしをこばまないで。すべてを見る太陽を、あなたの義理の父にしてください」
- けれどもピクスは、きっぱりとことわりました。「あなたがだれであろうと、わたしのものではない。べつの人が、わたしの心をもっている。運命の女神が、ヤヌスの娘、愛するカネンスをわたしにのこしてくれるかぎり、わたしは、ほかの人とのあいだで、夫婦のちぎりをけがしたりはしない」

メル美魔女にせまられても、カネンスへの気持ちをまげなかったんだ。
4. 鳥になった王
- 何度たのんでもことわられたキルケは、怒って言いました。「ただではすまない。あなたはカネンスのもとへ帰れない」
- キルケは2度西を向き、2度東を向き、杖で若者に3度ふれて、3つの呪文を歌いました
- ピクスはにげだしましたが、思いがけない速さにおどろくと、両わきに新しい翼が生えていました。ラティウムの森に、見なれない鳥がくわわったのです
- 怒ったピクスは、かたい新しいくちばしで、野生のカシの木をつつきました。翼は衣の紫の色になり、衣をとめていた金は金色の羽に、くびは黄金のように色づきました。「ピクスにのこったのは、その名前だけだった」
5. 消えていったカネンス
- 夫を待つカネンスは、日がしずんでも帰らないピクスを、家来たちに明かりをもたせてさがさせました。泣いて髪をかきむしり、自分も森へとびだしました
- 6日6晩、食べることもねむることもなく、山や谷をさまよったカネンスを、さいごに見たのはテヴェレ川でした。カネンスは、川の広い岸に、悲しみとつかれでよこたわりました
- 涙をながしながら、かすかな声で、死を前にした白鳥が歌うように、なげきの歌を歌いました。そして悲しみのあまり、少しずつ、形のない空気のように消えていきました
- それでもその話は、その場所にのこり、むかしの歌の女神たちは、その地を「カネンス」と名づけた、と書かれています

『変身物語』では、ピクスはキルケに「愛するカネンスがいるかぎり、夫婦のちぎりをけがさない」とことわり、杖で3度ふれられて、紫の翼と金色の羽の鳥に変えられました。
まとめ
- 若い王ピクスの妻カネンスは、森も岩も動かす歌の名手
- 狩りの森で魔女キルケに思いをうちあけられたが、「わたしの心はカネンスのもの」とことわった
- 怒ったキルケの魔法で、ピクスは紫の翼と金色の羽の鳥になり、くちばしでカシの木をつついた
- カネンスは6日6晩さがしたすえ、テヴェレ川の岸で歌いながら、空気のように消えていった
- 魔女の女神キルケ、鳥になって寄りそった夫婦ケユクスとアルキュオネ、同じく『変身物語』のヘルメスと牛飼いバットスもどうぞ
参考文献
- Ovid. Metamorphoses, 14.320–434(英訳:Brookes More、1922年). Perseus Digital Library. https://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus:text:1999.02.0028:book=14:card=320 (閲覧日:2026年10月12日)
- メトロポリタン美術館. Antonio Tempesta, Plate 136: Circe Changing Picus into a Bird, from Ovid’s ‘Metamorphoses’, 1606(51.501.3987、パブリックドメイン). https://www.metmuseum.org/art/collection/search/401170 (閲覧日:2026年10月12日)
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。 気になる症状や不安がある場合は、医療機関にご相談ください。



