
プレ男テュールって、片手の神さまだよね。どうして片手なの?

メル美みんなのために、自分の手を差し出したんだって。
こんにちは、Dr. Taro です。 神さまの解説、今回は北欧神話のテュールです。スノッリ『新エッダ』(R.B.アンダーソン訳、1879年)と、『古エッダ』(H.A.ベロウズ訳、1923年)の英訳を、プロジェクト・グーテンベルクで読みました。北欧神話の全体は北欧神話の入門へ。

ヤコブ・シグルズソン「フェンリルとテュール」1765〜1766年、アイスランドの写本 SÁM 66 より。ウィキメディア・コモンズの説明では、狼フェンリルがテュールの右手をかみ切る場面。ウィキメディア・コモンズ(パブリックドメイン)
プロフィール
| 立場 | アース神族。とても勇敢で、心の強い神。戦いの勝利をつかさどる |
| ことわざ | 人よりすぐれて勇敢で、決してひるまない人を「テュールのように強い」、とくにかしこい人を「テュールのように学がある」という |
| 家族 | 『新エッダ』ではふつうオーディンの子とされるが、『古エッダ』の「ヒュミルの歌」では、巨人ヒュミルを「父」とよんでいる |
| すがた | 片手(狼フェンリルに手をかみ切られた) |
| 最期 | ラグナロクで、犬ガルムと相討ち |
1. 勇敢で、かしこい神
『新エッダ』の『ギュルヴィたぶらかし』25節は、テュールをこう紹介します。
- 「テュールという神がいる。とても大胆で、心が強い。戦いの勝利をつかさどるので、戦士たちはテュールに祈るとよい」
- 「人よりすぐれて勇敢で、決してひるまない人のことを『テュールのように強い』という。またとてもかしこいので、とくに頭のよい人のことを『テュールのように学がある』という」
2. 狼にえさをやれた、ただひとりの神
『ギュルヴィたぶらかし』35節です(くわしくはフェンリル)。
- ロキの子の狼フェンリルは、神々の家で育てられていました。「テュールだけが、狼のところへ行ってえさをやる勇気があった」
- フェンリルは毎日どんどん大きくなり、予言はみな、この狼が神々に災いをもたらすと告げていました。神々は強い鎖を作って狼をしばろうとしますが、フェンリルは2度とも鎖をちぎってしまいます
- そこで神々は、小人たちに、細くやわらかいひも「グレイプニル」を作らせました
3. 約束のしるしに、右手を
- フェンリルは、細いひもを見て、あやしみました。「こんな細いひもをちぎっても、名誉にならない。でも、わざとだまして作ったものなら、足にまかせはしない」
- 狼は言います。「しばってもいいが、もしだましていないというなら、だれかひとりが、約束のしるしに、わたしの口に手を入れろ」
- 神々はたがいに顔を見あわせ、だれも手を出しません。そのとき、テュールが右手を狼の口に入れました
- 狼がもがくほど、ひもはかたくしまり、ちぎれません。神々はみな笑いましたが、テュールだけは笑いませんでした。手を失ったからです
- 25節は、こう結んでいます。「神々が狼をほどかなかったので、狼は、テュールの手を『狼の関節』(手首)のところでかみ切った。それからテュールは片手になり、いまでは人びとのあいだの仲なおりの神とよばれる」

メル美みんなが笑っているのに、ひとりだけ笑わない…。だまされた狼の気持ちも、手を失うことも、わかっていたんだね。
4. ラグナロクでの最期
- 世界の最後の日ラグナロク、神々と巨人たちの戦いで、「ヘイムダルとロキは、たがいに殺しあう。テュールと、グニパの洞窟の犬ガルムも、そうなる」と『新エッダ』は書いています

プレ男勇気って、「こわくない」ことじゃなくて、「こわくても自分が引きうける」ことなのかも。

『新エッダ』によると、狼フェンリルのところへ行ってえさをやる勇気があったのは、テュールだけでした。
まとめ
- テュールは、とても勇敢でかしこい、戦いの勝利の神。「テュールのように強い」ということわざがある
- 狼フェンリルにえさをやれた、ただひとりの神
- グレイプニルでしばるとき、約束のしるしに右手を狼の口に入れ、神々が約束をやぶったので、その手を失った
- 片手になったテュールは、「人びとの仲なおりの神」とよばれる
- ラグナロクでは、犬ガルムと相討ちになる
- 狼の話はフェンリル、最後の戦いはラグナロクへ
参考文献
- Snorri Sturluson. The Younger Edda; Also called Snorre’s Edda, or The Prose Edda(英訳:Rasmus B. Anderson、1879年). The Fooling of Gylfe, sections 25, 35 and Ragnarok. Project Gutenberg. https://www.gutenberg.org/ebooks/18947 (閲覧日:2026年10月10日)
- The Poetic Edda(英訳:Henry Adams Bellows、1923年). Hymiskvitha, stanza 5 and note. Project Gutenberg. https://www.gutenberg.org/ebooks/73533 (閲覧日:2026年10月10日)
- Wikimedia Commons. File:SÁM 66, 78v, Fenrir and Týr.jpg(Jakob Sigurðsson、1765–1766年、パブリックドメイン). https://commons.wikimedia.org/wiki/File:SÁM_66,_78v,_Fenrir_and_Týr.jpg (閲覧日:2026年10月10日)
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