
プレ男「嫦娥」って、月の女神の名前なんだよね?

メル美うん。月へ行った女性の名前で、その夫は太陽を射おとした弓の名人なんだって。
こんにちは、Dr. Taro です。 神さまと英雄の解説、今回は中国神話の羿(げい)と、その妻の嫦娥(じょうが)です。古い漢文の原文をウィキソースで読みました(書き下しと訳は Claude によるものです)。中国神話の全体は中国神話の入門へ。

「月の女神 嫦娥」中国・明時代(1368〜1644年)。掛け軸、紙本著色。メトロポリタン美術館所蔵(パブリックドメイン)
プロフィール
| 羿(げい) | 姮娥(こうが)/嫦娥(じょうが) | |
|---|---|---|
| すがた | 弓の名人 | 羿の妻とされる女性 |
| したこと | 10の太陽のうち9つを射おとし、地上の怪物たちを退治した | 夫が西王母からもらった不死の薬をこっそり飲み、月へのがれた |
| 出典 | 『淮南子』本経訓、『楚辞』天問と王逸の注 | 『淮南子』覧冥訓(「姮娥」と書かれる) |
1. 10の太陽がすむ木
- 地理書『山海経』海外東経には、こう書かれています
- 「下に湯谷(とうこく)あり。湯谷の上に扶桑(ふそう)あり。十日の浴するところ」
- 「水の中に大木あり。九日は下の枝に居り、一日は上の枝に居る」
- 東の果ての熱い湯の谷に、扶桑という大きな木があり、10の太陽がそこで水あびをしている。9つは下の枝に、1つは上の枝にいる——つまり、ふだんは1つずつ空にのぼっていた、というわけです
2. 10の太陽が、いっしょにのぼった
思想書『淮南子』の本経訓です。
- 「堯(ぎょう)の時に逮(およ)び、十日並び出で、禾稼(かか)を焦がし、草木を殺し、民食するところなし」
- 聖天子堯の時代、10の太陽がいっしょに出て、作物をこがし、草木をからし、人びとは食べるものがなくなりました
- そのうえ、猰貐(あつゆ)、鑿歯(さくし)、九嬰(きゅうえい)、大風(たいふう)、封豨(ほうき、大きなイノシシ)、修蛇(しゅうだ、長い大蛇)といった怪物たちが、みな人びとを苦しめていました
- 堯は羿に命じます。羿は
- 鑿歯を疇華(ちゅうか)の野で殺し
- 九嬰を凶水のほとりで殺し
- 大風を青丘の沢でいぐるみ(糸のついた矢)でとらえ
- 「上は十日を射て、下は猰貐を殺し」
- 修蛇を洞庭で断ち、封豨を桑林でとらえました
- 人びとはみなよろこび、堯を天子にいただいた、と『淮南子』は書いています

プレ男太陽を射るって、スケールが大きすぎる…! 怪物退治もフルコースだ。
3. 9つ射て、1つ残す
- 古い詩集『楚辞』の「天問」は、こう問いかけます。「羿は焉(いずく)にか日を畢(う)ちし。烏(からす)は焉にか羽を解きし」(羿はどうやって太陽を射たのか。カラスはどうして羽を落としたのか)
- その注で王逸は、『淮南』を引いて説明します
- 「堯の時、十日ならび出で、草木焦げ枯る。堯、羿に命じて仰いで十日を射しむ。その九日に中(あ)て、日中の九烏みな死し、その羽翼を墮(お)とす。故にその一日を留むるなり」
- 羿は空をあおいで太陽を射て、9つに命中させた。太陽の中にすむ9羽のカラスはみな死んで、羽が落ちた。だから1つの太陽だけが残ったのだ

メル美太陽の中にカラスがすんでいるんだ。ぜんぶ射なかったから、いまも太陽が1つあるんだね。
4. 不死の薬と、月へのぼった姮娥
『淮南子』覧冥訓は、たとえ話の中で、この物語にふれています。
- 「たとえば羿、不死の薬を西王母に請う。姮娥(こうが)、窃(ぬす)みて以て月に奔(はし)る」
- 羿は、不死の薬を西王母にもらいました。でも妻の姮娥がそれをぬすんで飲み、月へにげてしまいます
- 「悵然(ちょうぜん)として喪(うしな)うことあり、以てこれを続(つ)ぐなし」
- 羿はがっかりして、うしなったものを、ふたたび手に入れることができませんでした
- 『淮南子』は続けて、「なぜなら、不死の薬がどこから生まれるのかを知らなかったからだ」と言い、「火をもらうより、火打ち石を手に入れるほうがよい。水をくんでもらうより、井戸をほるほうがよい」とまとめています。羿と姮娥の話は、「もとを知ること」の大切さを語るたとえとして使われているのです

プレ男太陽を射おとした英雄なのに、最後は薬を飲まれちゃって、ひとりぼっち…。

『淮南子』は、羿が不死の薬をうしなったのは、薬がどこから生まれるのかを知らなかったからだ、と書いています。
まとめ
- 東の果ての扶桑の木には10の太陽がすみ、ふだんは1つずつのぼっていた(『山海経』)
- 堯の時代、10の太陽がいっしょにのぼり、作物も草木もこげた。弓の名人羿は、太陽を射て、6つの怪物も退治した(『淮南子』)
- 王逸の注では、羿は9つの太陽を射おとし、9羽のカラスの羽が落ちて、1つだけ残った
- 羿が西王母からもらった不死の薬を、妻の姮娥(嫦娥)がぬすんで飲み、月へのがれた
- 中国神話の全体は中国神話の入門へ。天をつくろった女媧、ギリシャの弓の神アポロン、『山海経』で「羿でなければのぼれない」とされる崑崙の番人陸吾と開明獣もどうぞ
参考文献
- 山海経 海外東経. ウィキソース(中国語版). https://zh.wikisource.org/wiki/山海經/海外東經 (閲覧日:2026年10月10日)
- 淮南子 本経訓. ウィキソース(中国語版). https://zh.wikisource.org/wiki/淮南子/本經訓 (閲覧日:2026年10月10日)
- 淮南子 覧冥訓. ウィキソース(中国語版). https://zh.wikisource.org/wiki/淮南子/覽冥訓 (閲覧日:2026年10月10日)
- 楚辞章句 巻3(天問、王逸注). ウィキソース(中国語版). https://zh.wikisource.org/wiki/楚辭章句/卷03 (閲覧日:2026年10月10日)
- メトロポリタン美術館. The Moon Goddess Chang E, China, Ming dynasty (1368–1644)(1981.4.2、パブリックドメイン). https://www.metmuseum.org/art/collection/search/45754 (閲覧日:2026年10月10日)
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