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刑法175条「わいせつ物頒布等罪」を深掘り「わいせつ」とは何か、だれが決めるのか。チャタレー事件から、漫画の「消し」、3Dデータ、海外の動画サイトまで、判決の原文で読む

2026年10月10日 時点

わいせつな文書・図画・電磁的記録を、配ったり、だれでも見られる状態にしたりすると、刑法175条で2年以下の拘禁刑もしくは250万円以下の罰金です。でも「わいせつ」とは何かは、条文に書かれていません。最高裁は、「いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」と定義し、作品を全体として見て、その時代の健全な社会通念に照らして裁判所が決める、としてきました。表現の自由との関係、漫画の修正、芸術作品だという主張、海外の会社のサイトはどうなるのか。最高裁と東京地裁の判決の原文で解説します。

目次
  1. 条文:何をすると罪になるのか
  2. 問題1:「わいせつ」とは何か
  3. 問題2:なぜ罰するのか(保護法益)
  4. 問題3:表現の自由に反しないのか
  5. 問題4:漫画でも「わいせつ」になるのか
  6. 問題5:「芸術だ」と言えば、わいせつではなくなるのか
  7. 問題6:海外の会社のサイトなら、日本の法律は関係ない?
  8. まとめ

プレ男わいせつな本や動画を売ると罪になるって聞いたけど、「わいせつ」って、どこからなの?

メル美刑法175条の「わいせつ物頒布等罪」だね。条文を読むと、「わいせつ」をだれがどう決めるのかが見えてくるよ。

今回は、刑法175条を深く掘りさげます。刑法(明治40年法律第45号)の条文はe-Gov法令検索で、判例は裁判所ウェブサイトに載っている判決の原文で確認しました。昭和の最高裁判決(チャタレー事件・悪徳の栄え事件・四畳半襖の下張事件)の内容は、それを引用した東京地方裁判所の判決(平成16年1月13日)の原文で確かめています。この記事は一般的な情報で、実際の作品や行為が罪になるかどうかは、警察・検察・裁判所、相談は弁護士へ。

条文:何をすると罪になるのか

175条は、こう定めています。

わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の拘禁刑若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は拘禁刑及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。(1項)

有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。(2項)

罰せられる行為 例
わいせつな物を頒布する 本・DVD・データの入ったCD-Rなどを配る、売る
わいせつな物を公然と陳列する だれでも見られる状態にする
電気通信の送信で、わいせつな電磁的記録を頒布する データをネットで送って配る
有償で頒布する目的で、物を所持する・データを保管する 売るために持っておく

プレ男でも条文のどこにも、「わいせつ」が何かは書いてないね。

問題1:「わいせつ」とは何か

条文に定義がないので、意味は判例がきめてきました。東京地裁の判決(平成16年)は、最高裁の判例(昭和26年5月10日第一小法廷判決、チャタレー事件判決、四畳半襖の下張事件判決)を引いて、こうまとめています。

刑法175条にいう「わいせつ」とは、「いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」をいい

3つの要素 やさしく言うと
いたずらに性欲を興奮・刺激させる むやみに性的な興奮をさそう
普通人の正常な性的羞恥心を害する ふつうの人がはずかしいと感じる
善良な性的道義観念に反する 性についての、社会のまっとうな考えにそむく

作品は「全体として」見る

「社会通念」はだれが決めるのか

メル美「みんながふつうだと思っているか」のアンケートで決まるわけじゃないんだ。

問題2:なぜ罰するのか(保護法益)

問題3:表現の自由に反しないのか

憲法21条は、表現の自由を保障しています。175条はこれに反するのではないか——この点は、何度も裁判で争われてきました。

最高裁の答え

東京地裁の事件で、弁護側が主張したこと

平成16年の東京地裁の事件(成人向けの漫画本を、取次の会社に頒布した事件)では、弁護側が、175条の問題点をくわしく主張しました。判決に書かれている主張と、裁判所の答えを並べます。

弁護側の主張 裁判所の答え
価値観が多様化した社会で、国が特定の性道徳を刑罰で強制するのは、法と道徳を分ける近代法の原則や、思想・良心の自由(憲法19条)に反する 性的秩序や最少限度の性道徳、健全な性風俗の維持は、性犯罪の抑止や青少年の育成などを下ささえする基礎的な法益で、道徳の押しつけではない
わいせつ物が性犯罪をまねくという証明はない(社会学者・憲法学者の証言) 175条は性犯罪の抑止そのものが目的ではなく、性的秩序などを守ることを通じて、間接的に役立とうとするもの
守るべきは「見たくない自由」で、ゾーニング(売り場を分ける)やラベリング(表示)のような、もっとゆるやかな規制で足りる 判決は、ドイツやフランスのような立法例もあり、立法政策としてはそうした規制のあり方も考えられるとしたうえで、175条の保護法益はそれとはちがい、立法裁量の範囲内だとした
「わいせつ」の概念はあいまいで、表現を萎縮させる 最高裁の判例が、不明確とはいえないとくり返し判断している

プレ男弁護側の主張にも、なるほどって思うところがあるね。でも裁判所は、ずっと合憲と言ってきたんだ。

問題4:漫画でも「わいせつ」になるのか

平成16年の東京地裁の判決は、成人向けの漫画本を、175条の「わいせつ図画」にあたると判断しました。

修正(「消し」)がうすいと、意味がない

「わいせつだと思わなかった」は通るのか

メル美「ほかの人もやってるから大丈夫」は、理由にならないんだね。

問題5:「芸術だ」と言えば、わいせつではなくなるのか

令和2年7月16日の最高裁判決は、漫画家・芸術家である被告人が、自分の女性器をスキャンした3次元形状データを、作品制作に資金を出した6人にネットで送り、商品を買った3人にデータ入りのCD-Rを郵送した事件です。

問題6:海外の会社のサイトなら、日本の法律は関係ない?

令和3年2月1日の最高裁決定(第二小法廷)は、アメリカの会社が運営する動画投稿・ライブ配信サイトの事件です。

プレ男会社がアメリカにあっても、日本でサイトの運営にかかわっていたら、罪になることがあるんだ。

判例によると、「わいせつ」かどうかは、作品を全体として見て、その時代の健全な社会通念に照らして決められ、その判断は裁判所にゆだねられています。

まとめ


参考文献

  1. 刑法(明治40年法律第45号)第175条. e-Gov法令検索. https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045 (閲覧日:2026年10月10日)
  2. 最高裁判所第一小法廷 令和2年7月16日判決(平成29年(あ)第829号 わいせつ電磁的記録等送信頒布、わいせつ電磁的記録記録媒体頒布被告事件). 裁判所ウェブサイト. https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-89579.pdf (閲覧日:2026年10月10日)
  3. 最高裁判所第二小法廷 令和3年2月1日決定(平成30年(あ)第1381号 わいせつ電磁的記録記録媒体陳列、公然わいせつ被告事件). 裁判所ウェブサイト. https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-89995.pdf (閲覧日:2026年10月10日)
  4. 東京地方裁判所 平成16年1月13日判決(平成14年刑(わ)第3618号 わいせつ図画頒布被告事件。最高裁昭和26年5月10日第一小法廷判決、昭和32年3月13日大法廷判決、昭和44年10月15日大法廷判決、昭和55年11月28日第二小法廷判決の引用をふくむ). 裁判所ウェブサイト. https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-5599.pdf (閲覧日:2026年10月10日)

この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。 気になる症状や不安がある場合は、医療機関にご相談ください。