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プレ男わいせつな本や動画を売ると罪になるって聞いたけど、「わいせつ」って、どこからなの?

メル美刑法175条の「わいせつ物頒布等罪」だね。条文を読むと、「わいせつ」をだれがどう決めるのかが見えてくるよ。
今回は、刑法175条を深く掘りさげます。刑法(明治40年法律第45号)の条文はe-Gov法令検索で、判例は裁判所ウェブサイトに載っている判決の原文で確認しました。昭和の最高裁判決(チャタレー事件・悪徳の栄え事件・四畳半襖の下張事件)の内容は、それを引用した東京地方裁判所の判決(平成16年1月13日)の原文で確かめています。この記事は一般的な情報で、実際の作品や行為が罪になるかどうかは、警察・検察・裁判所、相談は弁護士へ。
条文:何をすると罪になるのか
175条は、こう定めています。
わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の拘禁刑若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は拘禁刑及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。(1項)
有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。(2項)
| 罰せられる行為 | 例 |
|---|---|
| わいせつな物を頒布する | 本・DVD・データの入ったCD-Rなどを配る、売る |
| わいせつな物を公然と陳列する | だれでも見られる状態にする |
| 電気通信の送信で、わいせつな電磁的記録を頒布する | データをネットで送って配る |
| 有償で頒布する目的で、物を所持する・データを保管する | 売るために持っておく |
- 刑は、2年以下の拘禁刑もしくは250万円以下の罰金もしくは科料。拘禁刑と罰金を両方科すこともできます
- 2項が罰する「所持」「保管」は、有償で頒布する目的のあるものです

プレ男でも条文のどこにも、「わいせつ」が何かは書いてないね。
問題1:「わいせつ」とは何か
条文に定義がないので、意味は判例がきめてきました。東京地裁の判決(平成16年)は、最高裁の判例(昭和26年5月10日第一小法廷判決、チャタレー事件判決、四畳半襖の下張事件判決)を引いて、こうまとめています。
刑法175条にいう「わいせつ」とは、「いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」をいい
| 3つの要素 | やさしく言うと |
|---|---|
| いたずらに性欲を興奮・刺激させる | むやみに性的な興奮をさそう |
| 普通人の正常な性的羞恥心を害する | ふつうの人がはずかしいと感じる |
| 善良な性的道義観念に反する | 性についての、社会のまっとうな考えにそむく |
作品は「全体として」見る
- 悪徳の栄え事件判決(最高裁昭和44年10月15日大法廷判決)は、文書の一部の章句がわいせつかどうかは、文書全体との関連で判断しなければならない、としました
- 四畳半襖の下張事件判決(最高裁昭和55年11月28日第二小法廷判決)は、判断のときに見るべき点をあげています(東京地裁の判決の引用より)
- 性に関する露骨で詳細な描写の程度とその手法
- その描写が文書全体にしめる比重
- 文書に表現された思想などと描写との関連性
- 文書の構成や展開
- 芸術性・思想性などによる性的刺激の緩和の程度
- これらの観点から文書を全体として見たとき、主として読者の好色的興味に訴えるものかどうか
- そして、これらの事情を総合し、その時代の健全な社会通念に照らして決める、としました
「社会通念」はだれが決めるのか
- 東京地裁の判決は、チャタレー事件判決(最高裁昭和32年3月13日大法廷判決)を引いて、ここでいう健全な社会通念は、社会の一人ひとりの考えを集めたものや、その平均値ではなく、それをこえた集団意識であり、それがどんなものかの判断は、裁判所にゆだねられた法解釈・法的価値判断だ、と述べています

メル美「みんながふつうだと思っているか」のアンケートで決まるわけじゃないんだ。
問題2:なぜ罰するのか(保護法益)
- 東京地裁の判決によると、最高裁は、175条が守るものを「性的秩序を守り、最少限度の性道徳を維持すること」(チャタレー事件判決)、「性生活に関する秩序及び健全な性風俗の維持」(悪徳の栄え事件判決)としてきました
- つまり、175条は、だれか特定の被害者を守るというより、社会の性の秩序や風俗を守るための罪だ、というのが判例の考え方です
問題3:表現の自由に反しないのか
憲法21条は、表現の自由を保障しています。175条はこれに反するのではないか——この点は、何度も裁判で争われてきました。
最高裁の答え
- 令和2年7月16日の最高裁判決(第一小法廷)は、175条が憲法21条に反するという主張に、チャタレー事件判決と悪徳の栄え事件判決の趣旨から、理由がないことは明らかだと答えました
- 「わいせつ」の概念が不明確で憲法31条に反するという主張にも、不明確とはいえないとしています
東京地裁の事件で、弁護側が主張したこと
平成16年の東京地裁の事件(成人向けの漫画本を、取次の会社に頒布した事件)では、弁護側が、175条の問題点をくわしく主張しました。判決に書かれている主張と、裁判所の答えを並べます。
| 弁護側の主張 | 裁判所の答え |
|---|---|
| 価値観が多様化した社会で、国が特定の性道徳を刑罰で強制するのは、法と道徳を分ける近代法の原則や、思想・良心の自由(憲法19条)に反する | 性的秩序や最少限度の性道徳、健全な性風俗の維持は、性犯罪の抑止や青少年の育成などを下ささえする基礎的な法益で、道徳の押しつけではない |
| わいせつ物が性犯罪をまねくという証明はない(社会学者・憲法学者の証言) | 175条は性犯罪の抑止そのものが目的ではなく、性的秩序などを守ることを通じて、間接的に役立とうとするもの |
| 守るべきは「見たくない自由」で、ゾーニング(売り場を分ける)やラベリング(表示)のような、もっとゆるやかな規制で足りる | 判決は、ドイツやフランスのような立法例もあり、立法政策としてはそうした規制のあり方も考えられるとしたうえで、175条の保護法益はそれとはちがい、立法裁量の範囲内だとした |
| 「わいせつ」の概念はあいまいで、表現を萎縮させる | 最高裁の判例が、不明確とはいえないとくり返し判断している |
- 判決は、ほかに、表現の自由も絶対無制限ではなく、ほかの法益とぶつかるときは制約を受けることがある、と述べています
- 一方で、思想文書、文芸作品、学術論文、歴史的な文物のように、性的刺激のほかに社会的な価値をもつものもあるので、さきの「全体として見る」判断の手順をふむことで、表現の自由との調整をはかるのだ、としています

プレ男弁護側の主張にも、なるほどって思うところがあるね。でも裁判所は、ずっと合憲と言ってきたんだ。
問題4:漫画でも「わいせつ」になるのか
平成16年の東京地裁の判決は、成人向けの漫画本を、175条の「わいせつ図画」にあたると判断しました。
- 弁護側は、手描きの漫画はデフォルメ(形をくずして描くこと)されていて、写真よりも現実と結びつけて考える度合いが低い、と主張しました
- 判決は、絵はデフォルメのしかたによっては性的刺激をやわらげることもできる、とみとめつつ、漫画は読者の視覚に直接訴えるので、文字だけの文書より刺激を強くすることもできる、としました。そして、この漫画本では、顔などにはデフォルメがあっても、体は現実に近い形や比率で描かれていた、と認定しています
- 判決によると、この事件より前には、漫画本がわいせつ物頒布等の罪で摘発されたことはありませんでした。それでも裁判所は、ほかの漫画本が摘発されずに売られていたことは、捜査機関がすべてを摘発できない限界によるもので、放任していたとは認められない、としました
修正(「消し」)がうすいと、意味がない
- この漫画本には、性器の部分に網かけや白抜きの修正(いわゆる「消し」)がされていました
- でも判決は、白抜きの程度が弱く、網かけもごく一部にうすくかけられているだけで、形がほぼ完全にわかるので、修正による性的刺激の緩和はほとんどみとめられない、としました
- 判決によると、出版社の社長は、売り上げを回復させようと、修正の程度を50パーセントから40パーセントにへらすよう指示していました
「わいせつだと思わなかった」は通るのか
- 判決は、チャタレー事件判決を引いて、罪の故意には、描写の内容と、それを頒布することの認識があれば足り、それが175条の「わいせつ」にあたるという認識までは必要ない、としています
- 社長は、ほかの出版社が摘発されたと聞かなかったので大丈夫だと思った、と述べましたが、判決は、公的機関に相談するなどした形跡もなく、適法だと思ったことに相当な理由はない、としました
- 刑は、懲役1年・執行猶予3年でした(判決のころの刑の名前は「懲役」。いまの条文では「拘禁刑」です)

メル美「ほかの人もやってるから大丈夫」は、理由にならないんだね。
問題5:「芸術だ」と言えば、わいせつではなくなるのか
令和2年7月16日の最高裁判決は、漫画家・芸術家である被告人が、自分の女性器をスキャンした3次元形状データを、作品制作に資金を出した6人にネットで送り、商品を買った3人にデータ入りのCD-Rを郵送した事件です。
- 弁護側は、資金を出して作品制作に参加する機会や、データを加工して創作する機会を与えることに、芸術性・思想性がある、と主張しました
- 最高裁は、データがわいせつかどうかを判断するときは、データが視覚情報なら、画面に映した画像やプリントアウトなど、目に見える形にしたものだけを見て判断するのが相当で、そうした機会を与えることの芸術性・思想性は考慮すべきではない、としました
- また、女性器への卑わいな印象をなくし、女性器を表現することを日常に浸透させたい、という思想にもとづく行為だから正当行為だ、という主張にも、結局はわいせつな電磁的記録などの頒布そのものを目的とするもので、その目的は正当とはいえない、と答えました
- 上告は棄却されました(裁判官全員一致)
問題6:海外の会社のサイトなら、日本の法律は関係ない?
令和3年2月1日の最高裁決定(第二小法廷)は、アメリカの会社が運営する動画投稿・ライブ配信サイトの事件です。
- サイトには「アダルト」のカテゴリがあり、無修正のわいせつ動画が相当数投稿・配信されていました。サイトは、児童ポルノなどは積極的に削除する一方、無修正のわいせつ動画は基本的に放置する方針だった、と決定は認定しています
- 運営にかかわった日本の会社の役員らは、アメリカの法律では問題がないとして投稿・配信を許してきましたが、弁護士から、日本国内では刑事責任を問われる可能性があるとくり返し指摘されていました
- 最高裁は、役員らと、動画を投稿・配信した人たちとの間には、黙示の意思連絡があったと評価でき、役員らに、わいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪と公然わいせつ罪の共同正犯が成立する、とした原判断を正当としました
- この決定は、警察官が日本国外にある可能性のあるサーバーにアクセスして集めた証拠も、事情を考えて証拠として使えるとしています

プレ男会社がアメリカにあっても、日本でサイトの運営にかかわっていたら、罪になることがあるんだ。

判例によると、「わいせつ」かどうかは、作品を全体として見て、その時代の健全な社会通念に照らして決められ、その判断は裁判所にゆだねられています。
まとめ
- 刑法175条:わいせつな物の頒布・公然陳列、データの送信による頒布、有償で頒布する目的の所持・保管は、2年以下の拘禁刑もしくは250万円以下の罰金など
- 「わいせつ」は条文になく、判例が「いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」と定義
- 作品は全体として見て、その時代の健全な社会通念に照らして判断。社会通念は裁判所の法的価値判断
- 守るのは「性的秩序」「最少限度の性道徳」「健全な性風俗」(判例)
- 表現の自由との関係は何度も争われてきたが、最高裁は合憲と判断している
- 漫画でもわいせつ図画になりえ、うすい修正では刺激の緩和にならない(東京地裁 平成16年)
- データの芸術性の主張は、目に見える形にしたものだけで判断(最高裁 令和2年)
- 海外の会社のサイトでも、日本で運営にかかわった人が共同正犯になりえる(最高裁 令和3年)
- 18歳未満の子どもの画像は児童ポルノ禁止法、性の画像と法律は、リベンジポルノ防止法、撮影罪、ネットへのアップロードは著作権と違法アップロードもどうぞ
参考文献
- 刑法(明治40年法律第45号)第175条. e-Gov法令検索. https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045 (閲覧日:2026年10月10日)
- 最高裁判所第一小法廷 令和2年7月16日判決(平成29年(あ)第829号 わいせつ電磁的記録等送信頒布、わいせつ電磁的記録記録媒体頒布被告事件). 裁判所ウェブサイト. https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-89579.pdf (閲覧日:2026年10月10日)
- 最高裁判所第二小法廷 令和3年2月1日決定(平成30年(あ)第1381号 わいせつ電磁的記録記録媒体陳列、公然わいせつ被告事件). 裁判所ウェブサイト. https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-89995.pdf (閲覧日:2026年10月10日)
- 東京地方裁判所 平成16年1月13日判決(平成14年刑(わ)第3618号 わいせつ図画頒布被告事件。最高裁昭和26年5月10日第一小法廷判決、昭和32年3月13日大法廷判決、昭和44年10月15日大法廷判決、昭和55年11月28日第二小法廷判決の引用をふくむ). 裁判所ウェブサイト. https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-5599.pdf (閲覧日:2026年10月10日)
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