
プレ男ハトホルって、牛の耳がついた女神さまだよね?

メル美うん。古代エジプトの物語では、ハトホルたちが、赤ちゃんの運命を予言しに来るんだって。
こんにちは、Dr. Taro です。 神話の解説、今回はエジプト神話のハトホルです。エジプト学者W.M.F.ペトリの『エジプトの物語(Egyptian Tales)』第2集(1895年、Project Gutenberg)の英訳で『運命の王子』と『アヌプとバタ』を、E.A.W.バッジ『神々の伝説』(1912年)で「人類滅亡の伝説」を読みました。エジプト神話の全体はエジプト神話の入門へ。

「ハトホル柱の板」紀元前423〜332年、エジプト末期王朝時代。スギ材。メトロポリタン美術館所蔵(パブリックドメイン)
プロフィール
| すがた | 牛の耳をもつ女性(上の図版)。物語の中では、何人かで(『アヌプとバタ』では7人)あらわれる |
| 名前 | ペトリは「ホルスの家」という意味の称号だと書いている |
| ラーとの関係 | 「人類滅亡の伝説」で、ラーの目がハトホルの姿で出かけた |
| 物語の中のハトホル | 人の運命(死に方)を告げる |
1. ラーの目としてのハトホル
- セティ1世の墓の壁に書かれた「人類滅亡の伝説」(バッジ訳)では、年をとった太陽の神ラーに人間たちが不満を言いはじめます
- 神々は「あなたの目を、ハトホルの姿で行かせなさい」とすすめ、女神は山や砂漠ににげた人びとをほろぼしはじめました
- ラーは人間を守るために、ねむりをさそうビールを7,000つぼつくらせて野原にまき、女神はそれを飲んでよっぱらい、人間のことを忘れました
- 伝説は、このことから「ハトホルのお祭りでは、ねむりをさそうビールをつくるようになった」と語ります(くわしくはエジプト神話の入門、ラー)
2. 『運命の王子』のハトホルたち
ペトリの解説によると、この物語はブリティッシュ・ミュージアムのハリス・パピルス500番にのこっています。
- むかし、男の子が生まれない王がいました。王は神々に祈り、やがて王妃は男の子を生みました
- すると、ハトホルたちがやってきて、子の運命を告げました。「この子の死は、ワニによるか、ヘビによるか、犬によるか、だ」
- 王はひどく心をいため、砂漠に家をたてて、子が外に出ないようにしました

メル美生まれたばかりの子に、死に方を予言するなんて…。お父さん、つらかっただろうね。
- 大きくなった王子は、屋根の上から犬を見て「あれがほしい」と言い、王は子犬をあたえました
- やがて王子は「どうせ3つの運命が決まっているなら、思うようにさせてください」と言って、愛犬をつれて旅に出ます。遠い国ナハライナで、高い塔の窓にのぼって王女と結婚しました
- 王子が妻に「わたしは、ワニとヘビと犬の3つの運命をもっている」と話すと、妻は「犬を殺させましょう」と言いましたが、王子は「小さいころから育てた犬を殺しはしない」と答えました
- ある夜、ヘビが王子をかもうとはい出てきましたが、ねむらずに見守っていた妻が、ミルクを飲ませてよってひっくりかえったヘビを、短剣でたおしました。妻は言いました。「神さまが、運命の1つをあなたの手にわたしてくださいました。ほかの運命も、きっと」
- その後、王子が犬を追って川に入ると、ワニがあらわれて言いました。「わたしは、おまえのあとを追ってきた運命だ……」
物語は、ここでパピルスがやぶれて、とぎれています。

プレ男えっ、いちばんいいところで終わってる! 王子はどうなったの!?
3. 『アヌプとバタ』の7人のハトホル
- ペトリ訳の『アヌプとバタ』(ペトリによると、1857年にブリティッシュ・ミュージアムが買い入れたドルビニー・パピルスにだけのこる物語)にも、7人のハトホルが出てきます
- 神ラー・ハラクティは、ひとりでくらすバタのために、クヌム神に妻をつくらせました(クヌムはクヌムへ)。その女性は、国じゅうのだれよりも美しく、「あらゆる神の本質が、彼女の中にあった」と書かれています
- 「7人のハトホルが彼女を見に来て、声をそろえて言った。『この人は、するどい死に方をするだろう』」
4. ペトリの説明
- ペトリは、2つの物語のハトホルたちを「運命を告げる者」として説明しています。ただし、ゼウスでさえさからえないローマの運命の女神(パルカ)たちとは大きくちがう、とも書いています
- ただし、運命を決めるのではなく、見通して告げるだけで、デルポイの神託に近い、と書いています。くわしい成りゆきまでは知らず、「生まれたときから、人生の終わり方を見ている」のだ、と
- また、ハトホルの名がいくつもの女神に使われた理由として、エジプトの各地に、それぞれの土地の「ハトホル」がいたことをあげています

ペトリは、物語のハトホルたちは運命を決めるのではなく、生まれたときから人生の終わり方を見通して告げるだけだ、と説明しています。
まとめ
- ハトホルは、牛の耳をもつ姿でもえがかれるエジプトの女神
- 「人類滅亡の伝説」では、ラーの目としてハトホルの姿で人間をほろぼしかけ、ビールでよって止まった
- 物語の中では、ハトホルたち(『アヌプとバタ』では7人)が、人の運命を告げる
- 『運命の王子』では「ワニか、ヘビか、犬」。王子はヘビの運命をのりこえたが、物語はワニの場面でとぎれている
- 同じく古代エジプトの物語難破した水夫、太陽の神ラー、ネコの女神バステト、エジプト神話の入門もどうぞ
参考文献
- W. M. Flinders Petrie(編). Egyptian Tales, Translated from the Papyri, Second Series(1895). “The Doomed Prince”; “Anpu and Bata” と各話の Remarks. Project Gutenberg. https://www.gutenberg.org/ebooks/7413 (閲覧日:2026年10月10日)
- E. A. Wallis Budge. Legends of the Gods(1912). “The Legend of the Destruction of Mankind”. Project Gutenberg. https://www.gutenberg.org/ebooks/9411 (閲覧日:2026年10月10日)
- メトロポリタン美術館. Panel from a Hathor Column, Late Period, 423–332 BCE(89.2.214、パブリックドメイン). https://www.metmuseum.org/art/collection/search/549535 (閲覧日:2026年10月10日)
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