
プレ男ヘパイストスって、かじ屋の神さまだよね。地味なイメージ…。

メル美ところが、話す人形や、ひとりで動く道具まで作る、すごい発明家なんだって!
こんにちは、Dr. Taro です。 神さまの解説、今回はギリシャ神話のヘパイストスです。ホメロス『イリアス』1巻・18巻(A.T.マレー訳)とヘシオドス『神統記』をペルセウス・デジタル・ライブラリーで、『ホメロス風讃歌』第20歌(H.G.エヴリン=ホワイト訳)をプロジェクト・グーテンベルクで読みました。ギリシャ神話の全体はギリシャ神話の入門へ。

「青銅の三脚台と鉢(ディノス)」紀元前525〜475年ごろ、エトルリア。青銅。メトロポリタン美術館所蔵(パブリックドメイン)。『イリアス』でヘパイストスが作る「三脚」の器は、このような形の道具です。ヘパイストスが作ったものではありません
プロフィール
| 立場 | 火とかじの神。「名高い職人」「足の悪い神」「両腕の強い名高い神」 |
| 母 | ヘラ(『神統記』では、ゼウスと争ったヘラが、ゼウスなしで生んだ) |
| 妻 | 『イリアス』では、美の女神のカリス |
| 作ったもの | 神々の館、ひとりで動く三脚、金の侍女の人形、アキレウスの武具 |
| 人間に教えたこと | アテナとともに、すぐれたわざ(『ホメロス風讃歌』) |
1. 天から投げ落とされた日
『イリアス』1巻571〜600行。ゼウスとヘラが言いあらそい、神々の宴の空気がわるくなったときのことです。
- ヘパイストスは、母ヘラに「父ゼウスにやさしく話してください。ゼウスがその気になれば、わたしたちを座席からつきおとすこともできるのですから」となだめ、杯を手わたしました
- そして、自分の体験を語ります。「むかし、母上を助けようとしたとき、ゼウスはわたしの足をつかんで、天のしきいから投げ落とした。わたしは1日じゅう落ちつづけ、日がしずむころ、レムノス島に落ちた。命はほとんど残っていなかった。そこでシンティエスの人びとが、すぐに手当てしてくれた」
- ヘラはほほえんで杯を受けとり、ヘパイストスは、ほかの神々にも、左から右へネクタルをついでまわりました。館の中をあくせく歩きまわるヘパイストスを見て、神々はとめどなく笑い、宴はなごやかにつづきました
- 宴のあと、神々はそれぞれの館に帰ります。その館はみな、足の悪い名高いヘパイストスが、たくみに作ったものでした

メル美自分の失敗談で、ぴりぴりした空気をなごませたんだね。
2. もうひとつの「落ちた話」
『イリアス』18巻で、ヘパイストスは、もうひとつの話をしています。
- 「わたしがはるかに落ちて苦しんだとき、助けてくれたのはテティスだ。足が悪いからとわたしをかくそうとした母のせいだった」
- 「エウリュノメとテティスが受けとめてくれなかったら、わたしはひどい目にあっていただろう。2人のもとで9年のあいだ、ほら穴の中で、ブローチや、うずまきの腕輪や、花かざりや、首かざりを、たくさん作った。まわりには、オケアノスの流れが泡を立ててめぐっていた」
3. 金の侍女と、ひとりで歩く三脚
『イリアス』18巻368〜427行。英雄アキレウスの母テティスが、ヘパイストスの館をたずねます。
- 館は、くちることがなく、星でかざられ、すべて青銅でできていて、ヘパイストス自身が建てたものでした
- テティスが来たとき、ヘパイストスはふいごのそばで汗をかいて働いていました。作っていたのは20個の三脚。それぞれの足もとに金の車輪をつけ、「ひとりでに神々の集まりに入っていき、また館へもどってくる」ようにしていたのです
- ヘパイストスが立ちあがると、金でできた、生きた少女のような侍女たちが、主人を支えにかけよりました。「その心には知恵があり、言葉と力があり、不死の神々からわざを教わっている」と『イリアス』は書いています

プレ男考えて話す金の人形に、自動で動く道具!? ロボットみたい…! こんな大むかしの詩に出てくるなんて。
4. アキレウスの盾
- テティスは、息子アキレウスのために、新しい武具をたのみました。ヘパイストスは「その子が死の運命からのがれられるように、かくしてやれたらいいのに。でも、だれもがおどろくような武具なら作ってあげよう」と答えます
- 20のふいごが炉に風をおくり、ヘパイストスは、青銅、すず、金、銀を火にかけて、金床の上で大きな槌をふるいました
- まず作ったのは、大きくがっしりした盾。そこにきざんだのは
- 「大地、天、海、つかれを知らない太陽、満月」
- 「天をかざるすべての星座。プレイアデス、ヒュアデス、強いオリオン、そして、ただひとつオケアノスの水にしずまない大熊座」
- さらに盾には、人間の町や暮らしのようすが、つぎつぎにきざまれていきます
5. 人間にわざを教えた神
- 『ホメロス風讃歌』第20歌はうたいます
- 「澄んだ声のムーサたちよ、発明で名高いヘパイストスをうたえ。かがやく目のアテナとともに、世界じゅうの人間にすばらしいわざを教えた神を」
- 「人間はそれまで、けもののように、山のほら穴に住んでいた。でもいまは、名高い職人ヘパイストスからわざを学び、1年じゅう、自分の家でおだやかにくらしている」

『イリアス』のヘパイストスは、ゼウスに天から投げ落とされた話をして、ぴりぴりした神々の宴をなごませています。
まとめ
- ヘパイストスは、火とかじの神。母はヘラ
- ゼウスに天から投げ落とされ、1日じゅう落ちてレムノス島へ。自分の話で神々の宴をなごませた
- 金の侍女の人形や、ひとりでに歩く車輪つきの三脚を作った
- テティスにたのまれ、アキレウスの盾に、大地・天・海・太陽・月・星座をきざんだ
- アテナとともに、人間にわざを教えた(『ホメロス風讃歌』)
- 父のゼウス、いっしょにわざを教えたアテナもどうぞ
参考文献
- Homer. The Iliad, Book 1, 568–611; Book 18, 368–489(英訳:A.T. Murray). Perseus Digital Library. https://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus:text:1999.01.0134 (閲覧日:2026年10月10日)
- Hesiod. Theogony, 927–929(英訳:H.G. Evelyn-White、1914年). Perseus Digital Library. https://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus:text:1999.01.0130:card=901 (閲覧日:2026年10月10日)
- Homeric Hymns, XX. To Hephaestus(英訳:Hugh G. Evelyn-White、1914年). Hesiod, the Homeric Hymns, and Homerica. Project Gutenberg. https://www.gutenberg.org/ebooks/348 (閲覧日:2026年10月10日)
- メトロポリタン美術館. Bronze tripod and dinos (deep round-bottomed bowl), Etruscan, ca. 525–475 BCE(55.129.1a, b、パブリックドメイン). https://www.metmuseum.org/art/collection/search/254838 (閲覧日:2026年10月10日)
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